お子様は対象外! ついに日本初上陸する『ゲーム・オブ・スローンズ』は大人がじっくり楽しめる重厚なファンタジードラマ

2011年7月、米サンディエゴ市で開催されたオタクイベント「San Diego Comic-Con International(通称コミコン)」を取材したときのこと。ドラマ『ALPHAS/アルファズ』のパネルトーク会場を訪れた私は、大勢の来場者とともに、製作総指揮者のザック・ペンの話に耳を傾けていた。

そのとき、会場の外で「ゴゴゴ...」と物音が。なにか大きくて重たいものを運搬していたのだろう、誰の耳にもはっきり届く不気味な音だ。ザックは怪訝そうに音のする方向を見やったが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべ、マイクに向かってこうつぶやいた。

「Winter is coming...(冬がやってくる...)」

会場の緊張はほぐれ、あちこちからくすくすと笑い声が漏れる。この言葉は、米HBOで放送されているダークファンタジー・ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ(GAME OF THRONES)』に出てくる有名なセリフなのだ。

アメリカのドラマ界でしばしば話題になる、この『ゲーム・オブ・スローンズ』という作品については、日本でもかねてから気になっていた海ドラファンは多いだろう。本作がどんな作品で、アメリカではどのような位置づけのファンタジーなのかをかいつまんで説明しよう。

『ゲーム・オブ・スローンズ』は、世界で1500万部を突破したジョージ・R・R・マーティンの小説シリーズ『氷と炎の歌』を映像化したTVドラマだ。小説の第一巻『七王国の玉座(A Game of Thrones)』が初めて刊行されたのは1996年夏のこと。現在までに五巻が出版されており、まだ完結はしていない。当初の売り上げはヒットと呼べるほどではなかったようだが、じわじわと評価を高め、大人向けのファンタジーとして確固たる地位を築くようになった。これまでにローカス賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界ファンタジー賞を受賞、またはノミネートされている。ドラマとの相乗効果もあって、2011年7月に刊行された最新巻『A Dance with Dragons』はベストセラーとなり、マーティンのサイン会場には長蛇の列ができた。シリーズは世界20か国以上で翻訳され、日本でも早川書房より翻訳版が出ている。

20130104_c01.jpgこの人気ファンタジー小説を、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』『セックス・アンド・ザ・シティ』などを製作・放送してきたケーブル局HBOが製作するというニュースに、ファンタジーファンの期待が高まったのは当然のこと。第一巻『七王国の玉座』を映像化したシーズン1は、2011年4月に放送。小説のネームバリューに加え、ショーン・ビーン(『ロード・オブ・ザ・リング』)、レナ・ヘディ(『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』)、ピーター・ディンクレイジ(『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』)といった豪華な出演陣、そして、小説をほぼ忠実に再現したストーリーと美しい特殊視覚効果も話題になり、プレミア放送の視聴者数は220万人、シーズンフィナーレは300万人を獲得した。批評家やメディアもこぞってその出来映えを褒めたたえ、同年度のエミー賞2部門(助演男優賞とメインタイトルデザイン賞)とゴールデン・グローブ賞(助演男優賞)の受賞に結びついた。

続いて、小説第二巻 『王狼たちの戦旗(A Clash of Kings)』を映像化したシーズン2は、前シーズンを大きく上回る390万人を獲得し、2012年度エミー賞6部門を受賞。本作が『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』に続き、"著名なファンタジー小説の映像化に成功した例"とみなされているのはそういうわけだ。

20130104_c05.jpg冒頭のザックの言葉からわかるように、アメリカのファンタジーファンやギークから絶大な支持を集めたことは、ハリウッドでも周知の事実となっている。それどころか、本作に触発されて、他の有名ファンタジー小説をドラマ化しようとする動きが目立っているほどだ。現在のところ、スティーヴン・キング作『ドラゴンの眼』や、マリオン・ジマー・ブラッドリー作『ダーコーヴァ年代記』、テリー・ブルックスの『シャナラ』シリーズなどの企画が立ち上がっている。

原作小説を読んだことのない一般視聴者の関心も高く、シーズン1の終盤に迎えた衝撃的な展開は、米エンタメ界で広く話題になった。また、ファンタジーとは関係のない時事関係のニュースで、冒頭のセリフが引用されることがある。ミスUSAがお気に入りの番組に『ゲーム・オブ・スローンズ』を挙げたこともある。

それだけ有名な『ゲーム・オブ・スローンズ』だが、日本でもよく知られている『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』とはどこが違うのだろう。どのへんが、大人向けとされる所以なのだろうか。

『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』は、一見非力で善良な若者が悪の勢力と戦う物語だった。一方『ゲーム・オブ・スローンズ』は、中世ヨーロッパに似た世界における王侯貴族たちの確執や政治的陰謀を、重厚なトーンで描く大河ドラマだ。広大な二つの大陸を舞台に、"善vs悪"の二元論ではわりきれない複雑なストーリーが各所で展開する群像劇となっている。歴史ものの大河ドラマが好きな人はまちがいなく楽しめるはずだ。

なかでも物語の中心となるのは、〈ウェスタロス〉と呼ばれる大陸の北方を治める〈スターク家〉の人々。名誉や正義を重んじる同家の長、〈エダード・スターク公〉は、旧友の〈ロバート王〉から強大な権力をもつ〈王の手〉に任命されたことをきっかけに、覇権をめぐる陰謀に向き合うことになる。妻の〈キャトリン〉や子供たちも貴族たちの陰謀に巻き込まれ、熾烈な宿命を背負っていく。

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さらに、この世の果てのような最北の地からは得体の知れぬ〈ホワイト・ウォーカー〉と呼ばれる存在の脅威が迫り、海を隔てた〈エッソス〉という大陸からは、ドラゴンの血をひくとされる家系の生き残りが、王座の奪還をねらって動きはじめる。派手な魔法は出てこないが、シーズン1ではドラゴンや魔術も物語にかかわり、世界全体を巻き込む大波乱を予感させる。

本作の舞台は中世ヨーロッパに似ていると先に述べたが、実は、夏と冬が不規則に訪れる不思議な世界だ。何年も続いた夏が終わりに近づき、今度は長く厳しい冬が訪れようとしている。冒頭の「冬がやってくる」というセリフは、酷寒の厳しさをよく知るスターク家ならではの標語であると同時に、闇の時代が迫っていることを告げる予言でもあり、見かけよりもはるかに重い意味を含んでいるのだ。

物語のバックボーンとなる世界設定や戦争の歴史、複数の家系にまたがる人物関係などがしっかり組み立てられ、それらを前提にして物語がすすむので、最初のうちは戸惑う人もいるかもしれない。しかし、エダード公から、年端もいかない次女〈アリア〉や次男〈ブラン〉にいたるまで、そのひとりひとりの生き様には、予備知識なしでも思わず魅入られてしまうだろう。かれらの心情に共感し共に歩むうちに、物語の全貌が自然に理解できるようになる。

20130104_c04.jpgもちろん、スターク家以外の登場人物たちも魅力的だ。個人的には、同家と敵対する〈ラニスター家〉に属しながら、その体型から家族にいみきらわれている〈ティリオン〉を演じるピーター・ディンクレイジが素晴らしいと思う。斜に構えながらも頭が切れて情に厚いティリオンが放つ存在感は大きく、重々しい物語にユーモアもそえる重要キャラとなっている。エミー賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を手にしたのも納得の演技だ。これまでに『エルフ -サンタの国からやってきた-』『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』などで活躍してきたピーターだが、本作で一躍有名になった感がある。

そうそう、大事なことを言い忘れていた。激しい残酷シーンや過激な性描写が本作には多いので注意してほしい。大勢の人の首がはねられ、すっぱだかの娼婦がわんさか登場する。万人向けのファンタジー映画のつもりで見るとトラウマは必至(!)なので、お子様と一緒に鑑賞するのは避けること。このへんも大人向けとされる理由だ。

そんな『ゲーム・オブ・スローンズ』が、ついに1月27日(日)に日本初上陸する。日本での放映はまだかまだかと首を長くしていた海ドラファンのみなさん、お待たせしました。ぜひ、腰をすえてじっくり楽しんでください。

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『ゲーム・オブ・スローンズ(GAME OF THRONES)』
スター・チャンネルにて
■第1・2話先行無料放送
2013年1月19日(土)17:20~
■レギュラー放送
2013年1月27日(日)22:00~【二か国語版】
2013年1月28日(日)21:00~【字幕版】

Photo:『ゲーム・オブ・スローンズ』(c)2012 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.