僕がレッドカーペットのインタビューに挑む、これだけの理由

20130214_c02.jpgいよいよ、米国アカデミー賞授賞式がやってきます!! 今年も、WOWOWの中継でレッドカーペット・リポートを担当させて頂くことになったわけですが、3年連続の任務となる今回は、「生中継は難しいな(汗)」とか「カメラ目線は苦手なんです。(※演技する際は通常レンズを正面から見ることはないので...苦笑)」と言い訳することはできません。

今年もロサンゼルスの観光エリアの中心である、ハリウッドに位置する大劇場の目の前の大通りから放送をお届けします。
劇場は、"コダック・シアター"から"ドルビー・シアター"と名前を一新しました。劇場の大ゲートのロゴも差し替えられ、とても新鮮です。

レッドカーペットは、この大通り(Hollywood Boulevard)を数百メートルにわたって遮断して敷かれ、テントや700席の観覧スタンドと報道陣の取材エリアがカーペットの両側に組まれます。

授賞式当日、この街で2000台近くチャーターされるリムジンの多くがこのカーペット前に到着し、ノミネート者のハリウッドスターや監督、プロデューサー、スタッフ、そして各賞のプレゼンターたちがそこに降り立ちます。

僕が初めてこの番組中継に挑んだのは2011年。それ以前は、まさか僕が授賞式のあの場所からインタビューをお届けすることになるなど、全く考えたこともありませんでした。

そのような、ある意味"聖域"的な場所のインタビューやリポートは、その道のプロの方が当然やるもの、と思っていました。

2011年度は、「映画ファンが見応えを感じる中継に!」という意図が日本の番組制作サイドにあったそうです。
そこで、米国映画テレビ業界で活動する日本人俳優の目線でインタビューを任せてみようという運びとなったと、制作担当の方々から伺いました。

とても光栄なお話だったのですが、依頼をお受けするのを、内心躊躇しなかったわけではありません。

「果たして、自分に務まるものだろうか...?」

という不安と、米国映画界最高峰の場への畏怖があったからです。
決して、役割を全うできる自信などありませんでした。

では、この責務をお引き受けしたのは何故か?
それを今回はこのコラムでお話しします。

思いきってこの役割を担うことを決めたのには理由があります。

まず第一には、
自分がお世話になっている米国の業界に、その一員として貢献をしよう、という思いからでした。

渡米する以前、毎年アカデミー賞は、常に視聴者の一人として楽しみにしていた映画イベントでした。華やかさ、楽しさ、部門賞の多さ、業界内の業界人同士の讃え方に、海の向こうから羨ましさを感じていました。

大きな契機となったのは、2007年。
前年に出演した『硫黄島からの手紙』が、作品賞/監督賞/脚本賞/音響編集賞の4部門にノミネートされた時でした。

「自分が登場人物の一人として物語を紡いだ映画が、この祭典の受賞作品になるかどうか?」

この時の賞シーズン期間のときめきと刺激は忘れることができません。

そして2010年には、やはりその前年に発表となった出演作のショートフィルム『八人目の侍』が実写短編部門の審査対象としてエントリーし、こちらは結果的にはノミネーションには届きませんでしたが、受賞を目指した広報キャンペーンの試写会などのプロセスにも参加したので、その時期に再び大きな期待やワクワク感を抱くことができたのです。

その祭典に向けた"ときめき"、"高揚感"、"臨場感"を、日本の映画ファンの皆さんにお届けする一翼を担えれば、これまで自分が感じてきた恩恵を、業界に少しでもお返しできるのでは? と考えました。

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そして次に、
実はこれも(僕個人にとっては)「第一に」大切な理由なのですが、

この祭典に向けての準備、そして当日のリポートの場で学べることの大きさです。

インタビューに俳優の独自の視点で臨み、充実した内容でお届けするには、

1. ノミネート作品の多くを鑑賞し、物語を把握した上で、さらに候補者たち(監督、俳優、女優、プロデューサー、スタッフ)の顔と名前、過去の受賞歴や作品歴などもなるべく知って、覚えておく必要があります。

特に、ノミネート者のお名前や映画のタイトルを、晴れの舞台で、間違えた「音」で発音したら失礼です。
そこには、細心の注意を払います。

業界で活躍している方々のことをより深く知ることは、僕だけでなく、業界内で生きていこうとする人間にとって重要なことです。

2. ノミネート者ひとり一人に合わせた英語の質問をいくつか考え、それらをよどみないテンポで尋ねられるように、練習を重ねておく必要があります。

レッドカーペットの取材現場で、一人のスターに質問できる時間は2分間前後。
まさにスピードが問われる戦場なのです。

ここで僕が投げかける質問は、確実にスターたちが聴き取れるクオリティーでなくてはなりません。
「What? Excuse me?」と、聞き返されているようでは、貴重な時間を失ってしまうのです。
一発で通じ、なおかつ気分よく答えてもらえるような(意味的にも、音的にも)的を射た質問を用意することが必須。
真剣勝負です。

その準備や練習は僕にとって、大きな責任であると同時に、またとない勉強材料であり、この学びは「英語を駆使した活動を常に強いられる俳優」として無駄にはなりません。

3. さらに、その場の空気、緊迫感、壮観さを知ることの大切さがあります。

アカデミー賞授賞式の会場とレッドカーペットには、通常、一般の方は足を踏み入れることが出来ません。(カーペットの観覧者だけは、オンラインの募集で当りますが)

基本的に、あの場に入る資格を持つのは、約6000人のアカデミー会員と、その年のノミネート者、その招待者(家族など)、事前に許可を得た取材陣、運営スタッフ、そして授賞式の司会者と、賞のプレゼンターたちだけです。
当日の警戒態勢は、実に厳重です。

普段、我々は視聴者として、その華やかな場をテレビ放送で目にはしますが、ハリウッドの街に住んでいても、その最高峰の祝典の会場に足を踏み入れることはまずない訳です。
それは、たとえ映画界で日々仕事をしている人たちであっても同様。
全映画人の圧倒的多数である、主演助演以外の出演者やスタッフすら(それが仮にノミネート作品であっても)その"聖域"には制限があり、容易には入ることができません。

授賞式の日の、独特な"空気"、"興奮"、"緊張感"の中で、世界市場に向けてメッセージを発するスターたちの素顔、姿勢、報道陣に対する態度、リラックス度、会話の深さ、巧みさ、そういった一つひとつを実際に肌で感じ、客観的な目で知っておくことは、本当にかけがえのない「彼らから得られるレッスン」であり、イメージトレーニングでもあり、きっと将来の役に立つ財産になると思っているのです。

4. そして何より、普段、米国を拠点にして闘っている自分の活動がなかなか母国には届く機会がない中で、日本で応援して下さっている皆さんに、元気な顔を"生放送"で見て頂けること、映画ドラマ専門チャンネルの視聴者の方々に存在を知って頂けること、そのことが、尊いと思ったのです。 

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僕が初めてレッドカーペットの取材に挑んだ2011年は、ジェームズ・フランコアン・ハサウェイという映画界のホープ二人が、大役であるアカデミー賞の司会を、史上最年少で担当しました。
(その努力にも関わらず、彼らは非常に厳しい評価に晒されてしまいましたが)
ジェームズ・フランコ、アン・ハサウェイ
アカデミー賞は米国内だけでも4000万人が視聴し、授賞式会場となる劇場の中は、業界選りすぐりのトップの映画人が席を埋め尽くします。

その中で、式の司会進行の重責を引き受けるというのは、計り知れない勇気と、とてつもない度胸を要します。
もちろん、授賞式には脚本家が書いた進行台本がすべて用意されているとはいえ、優雅で品のある存在感と、その場その場の機転、アドリブ的なセンス、そして、リラックスした雰囲気作りを必ず求められるのです。

また、司会の重責以外にも、普段はたとえ恥ずかしがりで、社交的でないような俳優たちでも、権威ある賞の祭典ではプレゼンターを務めます。
それも、エンターテイナーとしての彼らの仕事の一部です。

その度胸と貢献の度合いを考えれば、僕が会場の外でインタビュアーとして臨むことの重圧は、まだまだ"ひよっこ"と言われるくらいのものかもしれないのです。
ですからそこは、お引き受けすることを躊躇するよりも、今ある立場で、むしろ積極的にこの授賞式を日本にお届けする任務に挑むべきだと、いう思いに至ったのです。

ショウビジネスという括りの中で、俳優の仕事は"演技だけ"では決してありません。
1本の映画に関われば、テレビ/雑誌/新聞などの報道陣に対して、あるいは映画祭などの舞台挨拶や、Q&A、製作発表などの場で、作品について「語る」「PRする」という部分の仕事を必ず担います。

初年度に感じた通り、自分がインタビュアーとして適任かどうかは未知数ですから、期待と共に、3年目の今であっても少なからず不安はあります。

それでもひとつだけお約束できることは、日本の映画ファン、アカデミー賞を待ち望んでいる方々のために、やれる準備はすべてやって、本番に臨む、ということです。

今年も、俳優の視点から、普段聞けないような彼らの素の言葉と、彼らの輝く姿を一秒、一瞬でも多く、日本のテレビの前の皆さんにお届けしたいと思っています!!!

どうか、楽しみにしていて下さい。