アメリカ民間放送ネットワークABCってどんな局? 山ほどあるアメリカTV局の独自カラーに迫る!

今年10月に開局70周年を迎えるABC(アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー)は、NBC・CBSと並ぶ「アメリカ3大ネットワーク」のひとつ。日本にもABCと名のつくテレビ局はあるが、もちろんそれとは関係ナシ。マンハッタンに本社を置く地上波テレビネットワークだ。
「海外ドラマファンなら知らない人はいない」ABC。実際どんな番組を放送し、どういうカラーを持つテレビ局なのだろうか?

●ABCができるまで~トップへの道

アメリカ放送業界のパイオニア、NBCとCBSがラジオネットワークとして開局したのは1920年代半ば。
当時、NBCには音楽・エンタメ番組が主力の《NBCレッド・ネットワーク》と、ニュース・情報番組がメインの《NBCブルー・ネットワーク》があり、どちらも親会社はAV機器や真空管・半導体技術で知られるRCA。つまり、ひとつの企業が複数の放送局を持っている、という状態だった。

アメリカ連邦通信委員会(FCC)はこれを「放送界の多様性を欠き、公共の利益を損ねる"独占状態"」と判断、親会社に「NBCレッドとNBCブルーを分割してどちらかを売却すること」を勧告した。FCCとの裁判の末、敗訴したRCA・NBC側はレッドとブルーを完全分割して後者を売却。この《NBCブルー・ネットワーク》を母体に誕生したのがABCだ。

心機一転、1944年に社名を《アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー》と改め、1948年にはテレビ放送もスタート。
そして迎えた50年代、アメリカTV界は空前の「西部劇ブーム」。ピーク時は1シーズンに30作以上のウエスタンドラマが放送されていたほど。『ローン・レンジャー』を看板としていたABCは、各局こぞって西部劇を扱う中、いち早く「現代を舞台にしたドラマ」に力を入れ始める。

探偵モノ(『ハワイアン・アイ』『サーフサイド6』)、メディカルドラマ(『ベン・ケーシー』)、戦争モノ(『コンバット!』)、サスペンスアクション(『逃亡者』)、そしてSFモノ(『アウターリミッツ』『タイムトンネル』)・・・
それまで他局があまり扱ってこなかったジャンルのドラマをシリーズ化する一方で、『奥さまは魔女』『ゆかいなブレディー家』といったホームコメディでもヒットを連発。年齢層の高い視聴者が好みがちな西部劇や、勧善懲悪とはいえ暴力シーンが多い従来の犯罪モノより、軽めのクライムアクションや家族で見られるコメディで若年・ファミリー層の視聴者数を拡大。

77年には『ROOTS/ルーツ』がミニシリーズとしてはTV界初&最大のヒットを記録。創設以来「3番目のネットワーク」と呼ばれてきたABCが、70年代後半、ついにナンバー1の座を獲得した。
1996年、ウォルト・ディズニー・カンパニーに買収され、現在ABCはディズニー‐ABCテレビジョン・グループの一員となっている。

●今、放送されているのはどんな番組?

朝~深夜の大まかな枠組みは3大ネットワークで大差ないが、番組編成の細部にカラーがにじみ出る。ABCの現在の番組表をチェックしてみよう。(※時刻は全て東部時間)

★早朝~デイタイム
平日は4時からのローカルニュースに始まって、7時から全米ネットワークの報道/情報番組。
地方局の情報番組やトークバラエティを挟んで11時に始まるのは、ウーピー・ゴールドバーグやバーバラ・ウォルターズらクセの強い女性ホストたちが、日々のニュースや気になる話題についてあーだこーだ言い合う『The View』。黒柳さんが5人いる「徹子の部屋」みたいな感じのかしましすぎる人気トークショー。
それが終わると、正午のローカルニュースに続いてクイズショーや午後のトーク番組。
そして14時からは、奥様お待ちかねの『General Hospital』。「世界最長のメディカルドラマ」としてギネス認定もされた「超」長寿ソープオペラは、この春51年目に突入した。
ふたたびローカルプログラム(トーク番組やニュース)があって、18時半からは地上波で一斉に夕方30分間のニュースが始まる。現在ABCでは、日本でもBSで視聴可能な『ABCワールドニュース』をオンエア。
ダイアン・ソーヤーがアンカーになってから、視聴者により身近な話題を多く取り上げるようになり、女性視聴者が増加したとのこと。夕方のニュースは各局で視聴率の低下が問題になっているが、今のところABCは好調の様子?

★プライムタイム
月~土曜の20時から23時・日曜の19時から23時は、在宅率が高いとされ、高視聴率を見込める時間帯。各局、日替わりで看板番組を並べる。...では、ABCのプライムタイムは?

リアリティ・ショーは(季節によって違うが)だいたい平日の20時台か21時台。
スターがプロのダンサーとペアを組んで特訓し、スタジオで他のペアと競う『アメリカン・ダンシングスター』のほか、タイプのまったく違う2家族に「お母さん」だけを入れ替えて生活してもらう『お母さん交換 家族改造計画』も人気。2012年からは有名人バージョンの『Celebrity Wife Swap』もスタートした。

火曜21時台・水曜20時からの2時間・金曜20時台は、シットコム/コメディ枠。
現在継続中のシリーズは、アメリカ中部の中流家庭の中年主婦を中心に、平均的な家族の平凡な暮らしを綴った『ザ・ミドル 〜中流家族のフツーの幸せ』、ヘンな宇宙人たちが暮らす住宅地へ(知らずに)引っ越してきた人間の家族とご近所(エイリアン)との交流を描く『The Neighbors』、個性的すぎる3家族の日常をモキュメンタリー形式で追う『モダン・ファミリー』など。
現代アメリカに「ありそう」な家族の問題・家族の在り方がテーマのコメディが主流だが、こうした定番の主題をユニークな手法で見せるのはABCのオハコ。

ドラマ枠は、日曜20時からの3時間と月・火・水曜の22時台。
さらに、木曜夜3時間のプライムタイムはまるごとドラマの時間。日本の「月9」にあたり、各局の推す作品が並ぶ。
ABCの木曜夜は、シアトルの大病院で働きながら仕事や恋に奮闘する若き医師たちが、ドクターとして・人間として成長していく姿を描く『グレイズ・アナトミー』、数々の政界不祥事に対処してきた実在の女性フィクサーがモデルの『スキャンダル 託された秘密』という「ションダ・ライムズ2本立て」。

これに加え、今秋20時からは『Once Upon a Time』のスピンオフで、「不思議の国のアリス」をモチーフとする新作ファンタジー『Once Upon a Time in Wonderland』が放送される。

ちなみに、これまで『アメリカン・ダンシングスター』の結果発表があった火曜20時台にも新作ドラマ(ジョス・ウェドン制作『Marvel"s Agents of S.H.I.E.L.D』)を投入。秋からはドラマ枠がひとつ増えることが決定!

ドラマファンにとっては嬉しい改編。『アメリカン~』は月曜夜だけになるが、放送時間の凝縮で番組のレベルアップも期待できそう。

●リスキーなプロジェクトにも果敢に挑戦!

「万人ウケする番組ラインナップが地上波ネットワークのあるべき形」と思われていた時代にも、積極的に新ジャンルを開拓してテレビの新たな可能性を模索。現状に甘んじることなく、チャレンジングな番組を放送してきたのがABCと言える。

その典型的な例が、2004年スタートの『LOST』『デスパレートな妻たち』

一話完結型がメインストリームだった当時、あえて「続けて観ないと解らない」連続性の強いミステリーという形式をとった『LOST』。
プロデューサーのJ・J・エイブラムスも今ほど売れっ子じゃなかったし、目玉となるスターの出演もなかったこのドラマのパイロット版に、平均的な製作費の約3倍にあたる1200万ドルを費やした。
結果、ナゾが謎を呼ぶ展開でカルト的人気を誇り、1年目でエミー賞作品賞を受賞。「ノンストップ系ドラマ」ブームのきっかけとなった。

『デスパレートな妻たち』は、「主婦の本音や悩みを描くドラマなんて誰が見るのか」と複数の局から断られ、唯一シリーズ化にゴーサインを出したのがABCだったといわれる。
こちらも新作ながらゴールデングローブ賞2冠・エミー賞6冠など数々の賞に輝いた。

本作をはじめ、従来のメディカルドラマに比べて医師たちのプライベート描写が多く、ラブストーリー要素も強い『グレイズ・アナトミー』とそのスピンオフ『プライベート・プラクティス』、そしてコロンビアのテレノベラ(メロドラマ)をリメイクした『アグリー・ベティ』が立て続けにヒット。
去年5月の『デスパ~』終了後は水曜夜の『リベンジ』が移動し、ABCの日曜21時は「プライムタイム・ソープ枠」としてすっかり定着。「昼メロっぽいプライムタイムのドラマ」もいまやABCの得意ジャンルに!

ニュース番組は、わかりやすさ重視型から硬派系まで。斬新なアイデアの連続ドラマあり、ライトな犯罪モノあり、ホームコメディあり、メロドラマあり・・・のバラエティ感。
地上波ネットワークの中でも、トガった部分とソフトな部分の双方をバランスよく併せ持ったABCは「もっともアタマが柔らかくて、エンタメ度の高いテレビ局」といえるかもしれない。

Photo:
『グレイズ・アナトミー』『プライベート・プラクティス』『デスパレートな妻たち』『Marvel"s Agents of S.H.I.E.L.D』(c)ABC Studios
『お母さん交換 家族改造計画』(c)ABC
『LOST』(c)©Touchstone Television
『モダン・ファミリー』(c)2011 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.