『ホームランド/HOMELAND』に描かれる戦争・テロ、そしてCIAとは?

8年間、アルカイダに捕われやがて国民の英雄として帰還した兵士と、その男にテロリストの疑惑を持つCIAエージェント。二人の息詰まる攻防をスリリングに描いた『ホームランド/HOMELAND』は、エンターテインメントであると同時に非常にシリアスなテーマを持った作品だ。このドラマのヒロイン、キャリーが執拗なまでにテロ撲滅に執念を燃やす裏には、9.11の悲劇を防げなかった自責の念がある。この9.11のテロを引き起こしたのが1991年に始まった湾岸戦争だ。

イラン・イラク戦争終結後、戦争負債を抱え、外貨獲得のために原油輸出を望んだイラクがその希望を絶たれ、欧米諸国の支援を受け原油輸出をしていた隣国クウェートに侵攻したことがきっかけで始まった湾岸戦争。この事態に即座に反応し、多国籍軍のリーダー的存在としてイラクを攻撃したアメリカに反発したのが、ウサマ・ビンラディン率いるイスラム原理主義集団アルカイダだった。

現地で度々アメリカ軍を襲撃し、1998年にはアメリカ大使館爆破事件を起こしたアルカイダは、2001年9月11日、同時多発テロを実行し、アメリカ最大の敵となる。これを機にアメリカは対テロ戦争に突入。アルカイダを匿うアフガニスタンのタリバン政権に対する報復として始まったアフガニスタン紛争やイラク戦争と続き、その間姿を隠し続けたビンラディンがついに発見・殺害された2011年まで戦争状態が続いた。ちなみに、このビンラディン捕獲・殺害までの経緯を描いた映画が『ゼロ・ダーク・サーティ』である。しかし、戦争終結を宣言しても、テロとの戦いがなくなったわけではない。一見平和な世の中の陰で、今もテロと戦う者たちがいる。その緊迫感をリアルに描き出しているのが『ホームランド/HOMELAND』なのだ。奇しくも『ゼロ・ダーク・サーティ』と『ホームランド/HOMELAND』のヒロインには共通点が多い。どちらもCIAの局員で、時に無謀な行動を取ってまでテロリストの発見に執念を燃やし、無理解な上層部相手に孤軍奮闘する。繊細だがタフなヒロインの活躍はもちろん、アメリカのテロとの戦いがいかなるものなのかを知るにも、この2作は非常に優秀な作品だと言えるだろう。

そして『ホームランド/HOMELAND』のもう一人の主役、戦争の英雄となったブロディもまた、戦争が生んだ問題を体現する人物だ。彼が本当にテロリストなのかどうかはドラマを見ていただくことにするとして、8年間、捕虜として過ごす間に確実に人間が変わってしまったブロディは、戦争後遺症に苦しむことになる。突然の平和に馴染めず、周囲の歓迎にも居心地の悪い思いをし、その苦悩はやがて家族に向けられる。一方の妻のジェシカも、死んだと思っていた夫の突然の帰還に戸惑いを隠せない。どこか他人のようになってしまった夫と新たに関係を築き直す難しさをこのドラマはじっくりと描いていく。同じようなテーマを描いた映画に『マイ・ブラザー』があるが、この作品でも死んだと聞かされた夫の突然の帰還に戸惑う妻をナタリー・ポートマンが演じ、戦争後遺症で人格がガラリと変わってしまった夫をトビー・マグワイアが好演している。もともとデンマーク映画『ある愛の風景』のリメイクでもある本作、機会があればオリジナル版とリメイクと両方見てみるのをオススメする。

さて、『ホームランド/HOMELAND』を見ていると、キャラクターはもちろんだが、CIAという組織そのものにも興味がわいてくる。ここで簡単にCIAとはなんぞや? ということにも触れておきたい。正式名称は中央情報局(Central Intelligence Agency)で、外交や国防に必要な情報を収集する諜報活動をするアメリカの政府機関。大統領の直轄機関で、スパイなども擁するためその活動内容は一般には伏せられる事も多い。諜報員が所属する国家秘密本部、情報を分析する情報本部、技術的情報の収集・研究をする科学技術本部、総務や人事、さらに局員の訓練を行う行政本部で構成され、『ホームランド/HOMELAND』のキャリーが所属する対テロ・センターは、国家機密本部に属している。その活動から非常に謎めいているCIAは、それだけにドラマや映画のモチーフとして最適なのか、多くの作品で描かれている。『ホームランド/HOMELAND』のようなシリアスな作品だけでなく、『コバート・アフェア』のようなライトタッチな作品や、『エイリアス』のようなハイテンションなドラマ、『CHUCK/チャック』のようなアクション・コメディ、元CIAのスパイが何でも屋的に活躍する『バーン・ノーティス』、CIAが制作協力した『CIA:ザ・エージェンシー』なんて作品もあった。映画にしても『ミッション・インポッシブル』『ボーン・アイデンティティー』『96時間』などなど、枚挙にいとまがない。ジャンルもテイストも多岐に渡るので、きっと気に入る作品が見つかるはずだ。

こういった作品を見ていると、「CIAってミステリアスでカッコいい!」というイメージが膨らむが、CIAのオフィシャルサイトを覗いてみると、意外にも普通に求人情報が掲載され、年収まで載っている。ちなみにテロ対策分析官の場合、年収は$49,861 - $97,333(約500万~980万円)だそうだ。なんだか拍子抜けするほど、フツーである。常に命の危険がある職業でありながら、決して高収入ではないCIA局員。そんな現実を知った上で、『ホームランド/HOMELAND』のキャリーのテロ抑制に対するあの命がけっぷりを見ると、ますます胸が熱くなるというもの。すべてを犠牲にし、全身全霊で危険な任務に身を投じているキャリーたちのような局員がいるのだ、そんな風に思いながら『ホームランド/HOMELAND』を見ると、リアリティもいや増し、また新鮮な気持ちでドラマの世界に入ることができるだろう。Photo:©2011 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.