この夏、超話題のヒット作群。 本国ではこんな宣伝ビジュアルで、ファンの心をくすぐっている!!

毎年の夏、米国市場は "サマームービー" の激戦期となる。斬新な新作、人気シリーズの続編、過去の名作のリメイクなどを
最も興行成績の上がるバケーションの季節に映画配給各社が競うようにぶつけてくるのだ。

そして2013年のこの夏も、話題作がめじろ押しとなった。ハリウッドの街には、まるでキャンペーンのように映画の広告が溢れている。

《 Key Art:キー・アート》という言葉がある。

直訳すれば、「カギとなる芸術」

この専門用語は、映画やドラマなどの宣伝ポスター/劇場やTVスポットの予告編/ブルーレイやDVDのパッケージ/各種映画グッズ/雑誌や新聞などの広告/等に使われる、

"各作品の軸となって、宣伝戦略に使用されるアート(ビジュアル)"

のことを指す。

単なる "宣伝用デザイン" ではなく、
"芸術" である!という点がポイントだ。

ハリウッドには、この映画テレビ界の優れた Key Art(キー・アート)を表彰するアワードまで存在するくらいだから、作品の宣伝ツールの善し悪しまでもが業界の注目の対象になっていることがよくわかる。

僕は、子供の頃から映画ファンで、小学校時代は洋画/邦画を問わず、
映画のチラシやパンフレットを収集するのが趣味だった。
小・中・高を通して好きだった科目も美術なので、
大人になった今、ロサンゼルスの街をドライブしている時に、
街に溢れる映画やテレビドラマの宣伝アートを眺めるのが楽しい。

この夏は、なかなか面白い、ユニークな巨大看板やポスターが目についたので、今回はそれらを紹介してみたい。

まず最初の写真を見て頂こう。

 

ハリウッドのサンセット大通りにそびえ立つビルに掲げられた画が異彩を放っている。
日本が舞台になったことで話題になった20世紀FOXの『ウルヴァリン:SAMURAI』である。

米国の街中に、この墨絵風のビジュアルは非常に目立つ。
道行く車やヤシの木の高さを見れば、この看板がどれほど大きなものかがおわかり頂けるだろう。

このキー・アートには何パターンかが存在し、ウルヴァリンが横に手を大きく広げたバージョンはバスの側面などにも貼られ、走っている姿がよく見られた。
さらに、真田広之さんや福島リラさんやTAOさんの演じているキャラクターのバージョンもあり、バス停などに設置してある宣伝枠に飾られているのを何度も見かけた。

面白いのは、このデザインには「7-26」という数字しか書かれていないことだ。この数字は、この映画の全米公開日。
題名『The Wolverine』の文字さえ記されていないのが粋である。

このキー・アートは説明抜きで、

「彼の今度の舞台は、墨絵の国(日本)!!」

と、強烈にアピールしているのだ。

続いての写真は、
この夏、特撮&アニメ&映画ファンを沸かせた作品の宣伝アート。

 

そう、ハリウッドが、日本が誇るロボット作品の伝統にオマージュを捧げた『パシフィック・リム』だ。

この映画を製作したのは、レジェンダリー・ピクチャーズと、そしてDCコミックのバットマンやスーパーマンといった人気コンテン ツの映画化権を有するワーナー・ブラザーズ。この2社が提携し、2013年まで強力タッグを組んで『ダークナイト』などの作品を生んで来た。

この夏のスーパーマン伝説の新作『マン・オブ・スティール』を共同製作したのもこの両社で、『マン・オブ~』と『パシフィック~』2本の公開が1か月差だけだったことから、この画が半分半分という、非常に珍しいコラボ看板が登場した。
両社のビジネス提携関係は今年で解消されてしまうというニュースが発表されたばかりなので、このようなデザインは今後は見られないのかもしれない。
今となっては貴重な宣伝看板である。

 

クロースアップの写真を見て頂くとよくわかるが、
右半分の『マン・オブ・スティール』のキー・アートには、
アゴを上げ、拳を握り、上空に向かって光速で飛んでいるスーパーマンの勇姿がしっかりと描かれている。

次の写真は、『マン・オブ~』の別バージョンの看板。

 

これは北ハリウッドに位置するワーナー・ブラザーズのスタジオの周辺ビルに飾られていたものだ。
誰の目にも明らかな、あの胸の「S」のマークがはっきりと目に飛び込んでくる。
やはり、スーパーマンの姿は、小さくしか見せていない。

次は、キー・アートではないのだが、宣伝バリエーションとしては面白い戦略のポスターだ。

 

この作品も今では日本の映画ファンでもピンと来るだろう、
『キック・アス』の第2弾である。

この映画で最も人気の高いヒットガールのマスクとかつら、そしてキック・アスのマスクだけが、壁にスプレーで描いた落書き風のタッチでデザインされているのだ。
宣伝の主軸のビジュアルとなる、さらに格好いいキー・アートはもちろん他にあるのだが、この街中を占拠するゲリラ版はやはり目を引く。

そして最後の写真は、
テ レビドラマファン、コミックファンの間で、今秋もっとも期待されている番組と言っても過言ではない、新ドラマ『Agents of S.H.I.E.L.D』のティーザーの看板だ。"ティーザー" とは「からかう、じらす」という言葉が元で、作品の全貌を公開する前に、ファンの期待を煽るために使われる宣伝ツールである。

 

青空を背景にディスプレイされた、この看板はとにかく目立つ。

看板には、『S.H.I.E.L.D』(映画「アベンジャーズ」「アイアンマン」などで活躍する国防機密組織)のエンブレム、制作のマーベル・スタジオのロゴ、放送局のABCのロゴしか描かれていない。
思わず「何、何っ!?」っと、凝視してしまう、
全面、真っ黒であることが、異様なインパクトの効果を生んでいる。

さて、
もうお分かりかもしれない が、
今回紹介した、大ヒットを狙う作品群の宣伝ポスターや看板のコンセプトには、
非常に似通った点がある。

それは、
俳優たち(スター)の姿を載せていないということだ。
物語の中身、中心となる人物の造形を見せずに、
想像を掻き立て、期待を高めようと試みている。

"X-メン:ウルヴァリン"役のヒュー・ジャックマンを見せず、
"スーパーマン"役の新星ヘンリー・カヴィルを見せず、
"ヒットガール"役のクロエ・グレース・モレッツを見せず、
"コールソン捜査官"役のクラーク・グレッグを見せない。
※ 『パシフィック・リム』だけは、"イェーガー" と呼ばれるロボットたちがいわば作品の真の主役とも言えるので、例外ではあるが...)

過去から歴史と実績を確実に築いているシリーズやコミック原作のキャラクターについては、
それについて、ことさら語らずとも、描かずとも、見せずとも、

「皆さん、これが何か、もうご存知ですよね?」

という、完全に社会に認識された物語、
誰もが待ち望むキャラクター、
という自負と誇りの上に成り立つ手法だ。

もちろん、
主演の人気スターの顔をドーン! とポスターの中心に据えるのが王道であり、通常はファンはそれを見たいものだ。
出演キャストをズラッと並べて豪華さを強調する手法も当然ある。

だが、作品のジャンルによっては、

「ファンたちの持つ知識と、想像力」

をむしろ活かし、
大胆に創られる《キー・アート》もまた面白い。

今回は、どんな映画/ドラマになるのか?
俳優はどんな存在感で演じているのか?

それは、
劇場スクリーンで、
テレビの放送で、

自分の眼で、是非確かめて欲しい!!

というメッセージを込めた、
ヒットを呼ぶための戦略の一つである。

「多くを見せずに、深く思いめぐらせる」

今後もこのアプローチは、様々な作品で駆使されるに違いない。