米国の都市シカゴは、産業、金融共に盛んなビッグシティーとして世界的に有名な町。しかし、ギャングの抗争や汚職まみれの政治など、ちょっぴりダークなイメージもあります。そんな表と裏の顔を持つシカゴが舞台となるドラマ『Betrayal』が今秋始まりました。主人公ふたりの不倫ラブストーリーを軸に、犯罪、ビジネスなどがシリアスに絡み合ったかなり大人っぽいドラマです。
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銃声が響き、撃たれた女性が倒れる...。そんなドラマチックで悲劇的なシーンからこのドラマは始まります。物語の発端はその6か月前に遡ります。不幸ではないけど幸せに満ちあふれている訳でもない結婚生活を送っていた写真家サラが、シカゴの不動産業界を牛耳るカーステン財閥の敏腕弁護士ジャックと出会い、二人は恋に落ちます。配偶者への裏切り、家族への裏切り、ビジネスでの裏切り、社会に対する裏切り。まさに『Betrayal』というタイトル通りにストーリーは進んでいきます。
実はこのドラマ、オランダのテレビドラマ『Overspel』を基にして制作されていますが、アメリカのシカゴという町にはびこるギャング社会と、不倫という禁じられた恋が絶妙にマッチして、この町が舞台に選ばれたのはまさに納得です。
主人公サラを演じるハンナ・ウェアはイギリス出身、不倫相手役のジャックに扮するスチュアート・タウンゼンドはアイルランド出身という、米国ドラマ界では珍しいキャスティング。スチュアート・タウンゼンドは、シャーリーズ・セロンが長年付き合っていた元恋人としてゴシップ界では有名ですが、演技の実力も定評のある役者のひとり。冷静ながらも情熱を秘めた男ジャック役をさらりと演じるなかなかのイケメンです。さらに脇を固める俳優陣も注目すべきラインナップとなっています。
まずはカーステン財閥のボス、サッチャー・カーステン役のジェームズ・クロムウェル。最近では2012年の『アメリカン・ホラー・ストーリー アサイラム』での演技が評価され、今年のエミー賞の助演男優賞を受賞しています。本作品では、欲しいものを得るためには手段を選ばず、裏切る者は決して許さない、まさしくマフィア体質のサッチャーを貫禄を持って堂々と演じています。2mを超える長身と静かで重々しい口調。彼の威圧感はハンパないです。
そしてカーステン家の長男「T.J.」を演じるヘンリー・トーマスは、あの映画史上に残る80年代の名作『E.T』の主人公エリオット少年を演じた元子役。あの愛らしかったエリオットの面影はどこへ?という風貌のヘンリーですが、事故で脳に障害を持ち、サッチャー家の汚点となったT.J.がどんなにヘマをしても憎めないのは、彼の嫌味のない演技のおかげでしょう。
凝りに凝ったオリジナリティ溢れるドラマが多い中、久しぶりにベタなメロドラマらしいメロドラマの『Betrayal』。どっぷり浸かって悲運のヒロインになりきって見るのもよし、こんなことあるかーと斜視しながらシニカルに笑うもあり、と視聴者が思い思いの楽しみ方で鑑賞できる作品です。
さて、先述のように、ヨーロッパ出身の俳優が演じている主人公のサラとジャック。根っからのアメリカ人という設定ですが、特にサラ役ハンナ・ウェアのブリティッシュアクセントは強く、ふたりの会話のアクセントやトーンは、"ザ・アメリカの都市"といったシカゴの町並みからかなり浮いています。ここまで米語アクセントのトレーニングをしていないのは、現実世界から逃避して逢瀬を重ねるふたりの浮き世ばなれ感を描くための演出なのでしょうか?謎です...。まあ、そんなつっこみポイントもこのドラマの面白さのひとつ、として楽しむこととしましょう。
Photo:ハンナ・ウェア、スチュワート・タウンゼント、ジェームズ・クロムウェル
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