米国TVドラマの出演枠、アジア系俳優には何%のチャンスがある!?

TV離れが叫ばれている昨今、日本では視聴率の低下を話題とする傾向のニュースがじわじわと増している。とはいえ、日本市場に日本語で作品や情報を日々提供している日本国内のキー局やローカル局の視聴者への影響力は、まだまだ絶大だろう。日本のヒット番組からは、日本出身のスター俳優やタレントが確実に生まれる。

一方、米国は? と言えば、同じように視聴率や視聴者数という言葉は取り沙汰されるが、移民国家であるだけに、TV番組がどの人種にどのような影響を及ぼすかは、なかなか把握し難いものがある。メディア調査会社ニールセンの調べによれば、米国のTV視聴世帯は1億1500万世帯に及ぶという。一世帯で最低一人以上がTVを見ていると考えれば、日本の総人口を超える数の人々が常時TVを利用しているとみて間違いない。
さて、では、この1億1500世帯のうち、アジア系の世帯主はどれくらいいるのだろうか?

その答えは...

6%以下。

白人世帯が約64%、黒人(アフリカ系アメリカ人)世帯が約13%、ヒスパニック(南米ラテン系)世帯が17%、そしてアジア系が6%以下で最も少ない割合なのである。人種をもっと細かに分けたらきりがないが、大まかに分割すれば、この数字はアメリカの人口の人種比率にほぼ等しいとみていいだろう。
※ちなみに、米国の3億人強の総人口のうち、全アジア系人口の内訳はどのくらいかといえば、2010年の集計では1467万人で、最大グループは中国系の335万人、ついでインド系284万人、フィリピン系256万人、ベトナム系155万人、韓国系142万人、ついで日系76万人、パキスタン系36万人等で、日系(日本人を含む)はこの中でも少ないほうだ。

この「6%」という数字は、いまいちイメージし難いかもしれないが、例え話としてレストランビジネスに置き換えてみよう。

100席のレストランが在ったとする。この店で売り上げを出そうとするなら、やはりステーキかハンバーガーか豆やポテトやコーンといった類のアメリカンフードが約70席の客にまず売れる。タコスやナチョスのようなメキシカンフードもおそらく20席前後は確実に売れる見込みがある。そして寿司や日本そばや餃子や麻婆豆腐やカルビやチゲ鍋やトムヤムクンといったアジアン・フードは全部合わせても6席前後の客にしか売れない...ということになる。となれば、ビジネスオーナーは、やはり手っ取り早く牛肉やハンバーガーや、今やほとんどアメリカンフードと化しているピザを売るという商売を選択するのは致し方ないことだ。
これをTV視聴世帯に(わかり易く単純に)置き換えれば、アジア系俳優を主演や助演に配役しても、米国のテレビ世帯の6%以下しかその番組を熱心に見てはくれないということになる。

多くの人が観てくれないモノを、多くは製作しない。

つまり、もし100タイトルのドラマがあれば、6タイトル以下でしかアジア系の主演番組か助演番組しか見られない。もしくは100話続いたドラマシリーズの中で、アジア系俳優がゲスト主役になるようなエピソードは6話以下しかない、という計算が大雑把ではあるが成り立つ。

国の全人口の人種の比率は、ビジネスの売り上げ実績に直結する。白人スターの割合は最大、そしてヒスパニック系スターや黒人スターがその次に多く、アジア系スターが最も少ないのは、この比率が根底に横たわっているからだ。

この4月に発売された米国の有力業界誌『VARIETY(バラエティ)』に面白い記事が掲載されている。「アメリカの鏡」と題されたその記事には、アメリカのTV視聴世帯が人気番組にどのように反応しているか?(どの人種がどの番組をどれほど見ているか?)というサンプルを数値化して並べている。

サンプルになっている番組は、『グレイズ・アナトミー』『Marvel"s Agents of S.H.I.E.L.D.』『モダン・ファミリー』『スキャンダル 託された秘密』『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』『スリーピー・ホロウ』『ブラックリスト』『THE VOICE』の8つ。

これらの番組の中で、白人以外の人種が見ている割合が半数に近いのは『スキャンダル』しかない。主演のケリー・ワシントンの活躍を、多くの黒人世帯が見ているので突出している。しかしそれでも、最も観ているのは白人世帯の55%で、黒人が38%、ヒスパニック7%、アジア系他が1%いるかいないかという結果が出ている。

 

『グレイズ・アナトミー』は、主要キャストにサンドラ・オーが出演していてもアジア系他は約1%しか観ておらず、77%の白人と15%の黒人の世帯が観ている。

特徴的なのは、どの番組もヒスパニック系の世帯は5~8%しか観ておらず、黒人世帯のそれより低いことだ。この部分は、前述の人種別世帯比率の順位とは逆転している。この順位を踏まえれば、ハリウッドの業界で、ヒスパニック系俳優がメインキャストの映画よりも、黒人がメインキャストの映画のほうがやや目立つのも頷ける。

 

もう一つ顕著に数字に顕著に表れているのが、これらサンプルの8番組のほとんどを白人世帯の70~80%が観ているのに対し、アジア系世帯は1~2%しか見ていないという驚きの結果だ。
ミン・ナが助演の一人を務めている『Marvel"s Agents of S.H.I.E.L.D.』でも、アジア系他の視聴者が見ているのは3%で、76%は白人、14%が黒人である。

おそらく『HAWAII FIVE-0』『NIKITA/ニキータ』のようにアジア系が主演陣に食い込んでいる番組はもう少しアジア系視聴者の割合は高いことが期待されるが、それでも数字はそれほど大きくは変わらないであろう。アジア系スターが主演陣に食い込む作品が生まれる確率が稀な訳が、お分かり頂けるだろう。

アメリカの業界の中で俳優として活動していて、肌で感じるのは、この「アジア系他6%」という数字は、僕ら(日本から挑んでいる)日本人俳優たち、もしくは他のアジア各国から渡って来ているアジア人俳優にとっては単純には当てはまらず、"実際の数字" はもっと厳しいという現実だ。アジア系 "アメリカ人" ではない僕らは、言葉の面でどうしても不利な闘いに直面する。

マギー・Qさんや真田広之さんが米国TVドラマ界で主要レギュラーに抜擢されることがどれだけの快挙か? ということは、このビジネス上の数字からは、より一層強く伝わって来る。

また映画界でも同様に、この5月に全米公開の『ゴジラ』に出演の渡辺謙さんや、4月から全米公開スタートした『レイルウェイ 運命の旅路』出演の真田さんが挑んでいる道のりは、この"6%"の数字の存在感を強め、拡大させていく戦線であるとも言える。

前述の視聴世帯の割合で例えるなら、100人の映画・TVスターがいたら、その内6人しかアジア系の俳優が食い込めない。明日、ロサンゼルスの街の各社スタジオで1000人の俳優が撮影する予定だとしたら、その内アジア系で役を獲得しているのは60人前後かそれ以下でしかない、とも言えるのだ。
僕ら俳優は、そういう現実と闘っている。

アメリカ国内の、この"6%"の枠の中に存在する日本人俳優たちを、「別の角度」から押し上げる方法は、二つある。

一つは、白人や黒人やヒスパニック系の視聴者や観客の中に、アジア系俳優の「熱烈なファン」を生み出していくこと。

そしてもう一つは、日本人俳優たちが抜擢された、あるいは必死につかみ取った役を演じている作品を、日本国内の視聴者/観客の皆さんに観て頂くということにほかならない。
日本での力強い支援とシェアが、世界市場で踏みとどまって活躍する日本人プレイヤーたちを後押しするのである。

だからこそ、日本の皆さんが頷ける内容の作品を今後も生み出したい、
世界市場に届けたいと、日々挑んでいる。

全力でこの"6%"を、変えていきたい。

皆さんにも、是非、応援し続けて欲しいと願っている。

Photo:
『スキャンダル 託された秘密』(c)ABC Studios
『グレイズ・アナトミー』(c)ABC Studios
『NIKITA/ニキータ』(c)Warner Bros. Entertainment Inc.