『ノーマル・ハート』『アメリカン・ホラー・ストーリー』 『glee/グリー』を支えた技術。エミー賞受賞者二人にインタビュー!!〈後編〉

今回は「『ノーマル・ハート』『アメリカン・ホラー・ストーリー』 『glee/グリー』を支えた技術!エミー賞受賞者二人にインタビュー!!〈後編〉」をご覧頂きます。前編はこちらからどうぞ↓

――『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズでの難しかった部分をおしえてください。

エリン:一番厳しい時期は、3エピソード分を同時に撮った頃。相当な長さの仕事時間だったから。何度かは土曜日も働いたわ(※ 基本の労働条件として、ハリウッドは週休二日体制)。各エピソードのシーン内容を撮影の順序によって行ったり来たりしたから、それらが一貫性のあるビジュアルとしてつながっているかが、とても大きなチャレンジだったの。

 

マイク:この作品の現場で、もっとも辛い部分はやはり長時間課される労働ですよね。でも、エリンとその時間を共にできるということは、ひとつのボーナスだとも言えます。仕事そのものが、報酬だとも言えますね。一つのエピソードから、次のエピソードへ、興奮だけでなく、能力やスキルが一段高いところへ到達することもあるわけですから。

 

――タフなメイクの間の、女優たち(ジェシカ・ラング、キャシー・ベイツ、サラ・ポールソンら)や俳優たちの協力の姿勢はどんな感じだったのですか?

エリン:俳優たちは、非常に協力的だった。皆、チャレンジングなことが好きで、すべての狂気的なアイデアも、実現させてくれたわ。

 

マイク:俳優陣たちからは、プロらしい、これ以上ない協力を得ていますね。時には、特殊メイクを施すことで、視界が制限されたり、音が聴き難かったり、うまく話せないような、状況になることもあるわけです。でも、毎朝、笑顔を見せて戻ってきてくれるんですから。さあ、またやりましょう、って。

 

――ライアン・マーフィーはどんな人柄でしょう?

エリン:ライアンは、もう11年も私のボスの立場にいるんだけど、彼は天才というだけでなく、メイクアップ技術のすべての要素において造詣が深いの。彼のプロジェクトに雇われるていうことは光栄。彼を幸せにすることで、私は喜びを得ているの。毎回の作品で、よりハードに仕事させられるけど、彼のビジョンはとてもハッキリしているから、そのビジョンを現実のものにしたい、って思うわ。

マイク:彼についてはもう語り尽くされているはずだけど、特別なタイプのリーダーであり、監督ですよ。何を望んでいるのか明確に解っていて、それを視覚的に描く術を知っている。特に素晴らしいのは、彼は、メイクアップの効果をいろいろ試すことのファンであるということ。『アメリカン・ホラー・ストーリー』の現場では、ライアンは常に僕らをもっと大胆に、もっとより良い結果を出させるために背中を押してくれるんです。ライアン・マーフィーの作品の一部を担うということは、誇りですよ。

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――大ヒット作『glee/グリー』につ いて、メイクの苦労はありましたか?『TOUCH/タッチ』は、どうでしたか?

エリン:『glee/グリー』は信じられないほど、苦労したわ。もの凄い(演者の)人数と、ダンスナンバーの数と、歌う楽曲の数...。とても効率よく回す必要に駆られた。キャストは楽しくて、素晴らしかった。尽きることのないエネルギーに溢れてたわ。KISSからレディー・ガガ("レディー・ガガのコスプレ大作戦" シーズン1第20話)まで、著名ミュージシャンたちに捧げるオマージュを生み出す作業で、いつも興奮に満ちていた。『TOUCH/タッチ』(※ トップ・クリエーターはティム・クリング氏)は、ゆったり和やかな現場だった。主演のキーファー・サザーランド、彼自身がそうだったから。これまで経験した中では、もっともリラックスして臨めた仕事だったわね。

 

マイク:僕は『glee/グリー』に参加したのは数回だけなんだけど、"ロッキー・ホラー・グリー・ショー(シーズン2第5話)" のエピソードとか、凄く楽しかったですね。マイケル・ジャクソンの「スリラー」のゾンビたち("踊るアメフト部"シーズン2第11話)も。それから出演者たちの何人かを、KISSのメンバーをパロディーに仕立てあげたのも。星の形をユダヤのシンボルに変えたり、キャットのメイクをパンダにしちゃったり。セットでは、常に、まるで実際の高校に通ってるのと違わないような楽しさがありました。

エリンには、『硫黄島からの手紙』の撮影での想い出も聞かせてもらった。

エリン:『硫黄島からの手紙』と『父親たちの星条旗』の仕事は、素晴らしかったわ。最も大変だったのは、 洞穴の中での撮影ね(※ 現在は使われていない、昔の銀山の穴を撮影に利用した)、あの中は怖かった!『父親たち~』は、ロケ地そのものが挑戦だった。硫黄島の黒い砂浜の攻防を再現するために、アイスランドの海辺を使ったから。風も強く、冷え込んで、特撮用の爆弾も私たちの周囲のあちこちに仕掛けられていたし。第二次大戦時の車両や船もいくつもある状況下でね。あれだけ再現するのは、見事だった。最高によかったのは、とても才能ある日本の俳優たちと、優れた通訳たちと働けたこと。戦争の、両国の側の視点を表現するということは、とても学びが多くて、非常に感動的で、恐怖感もあったりした。両作に関われたことはとても 光栄に感じているし、当時両作のメイク部門のヘッドだったタニア・マコーマスには多大な感謝をしているわ。

インタビューの最後にマイクは、こんな言葉を加えてくれた。

このようなインタビューの機会を頂けて、とても光栄です。ハリウッドには、日本からの優れたアーティストたちもいますから。彼らが芸術に注ぐ技術や献身のレベルの高さは驚くべきものがあり、僕らは敬意を持っているんです。

 

僕らは、常に仕事を「楽しむ」ことを心掛けています。じゃなかったら、何のためにすべてを尽く しているのかわからないですよね?いつも言っているのは、「もし、何かを愛して取り組んでいれば、いつかきっとそれが仕事になってくれる。もしならなくても、好きなことだったら、それは決して無駄にはならない」ってことなんです。本当にインタビューの時間をありがとうございます。いつか、皆さんの美しい国を訪れてみたいです。

 

現在、彼らが継続して手がけ、北米で好評放送中の『アメリカン・ホラー・ストー リー/フリークショー(原題)』では、再び、強烈なインパクトで身の毛のよだつ、しかもセンス抜群のキャラクターたちが躍動している。特に、このシーズンの序盤の中心的な悪役となる猟奇殺人者のピエロ "Twisty(原題)" のルックスの恐ろしさは、彼らが生んだキャラクターの中でも、いやテレビドラマの中の悪夢のようなキャラクターの中でも、歴史に残る屈指の仕上がりだ。意外にも、怖さやエロティシズムやロマンスが、女性ファンにも大いに受けているこのシリーズだが、今シーズンの第5話には、『ノーマル・ハート』で熱演したマット・ボマーがゲストスターとして、再びライアン・マーフィーと手を組んで登場している。マットが演じる役を待ち受ける、身も凍る運命を、ファンの皆さんは恐る恐る、でも是非楽しみに待っていて欲しい。ここでも、エリンたちの技は輝きを放っている。

彼らの話を聞いていて、一番印象に残るのは、やはりマイクの言葉にもある、「楽しむ」という気持ちの力だ。その力が、たとえ厳しいハードルや壁を目の前にしても、推進させるエネルギーを生んでいる。この「楽しむ」という感覚は、実際の撮影現場にいてもよくわかる。大抵の場合、セットやロケの現場は穏やかであり、真剣に集中しながらも、笑顔は常に溢れている。このことは、俳優やメイクアップ・アーティストたちに限ることでなく、監督も、トップのクリエーターたちにも同様である。その豊かさや余裕は、作品の隅々に、雰囲気や温度となって確実に現れる。

そしてその楽しさと余裕 、充実感が、次の壁への挑戦に不可欠な"勇気" を生んでいるのだ。

Photo:Eryn Kruger Mekash, Mike Mekash, 尾崎英二郎