『HELIX -黒い遺伝子-』という戦慄のSFドラマが証明したもの

Syfyチャンネルで2014年にスタートした『HELIX』という作品を、
「日本の皆さん、このドラマは買いですよ!」
と、僕は以前、本サイトの新作ドラマ評で紹介した。

 

「PLAY GOD. PAY THE PRICE.」
(神を弄ぶなら、代償を払え。)

という番組のキャッチコピーは、過去に何度も見られた"感染ウイルス・パニック劇"
以上の壮大な広がりを予感させるものだった。

「Helix」という英単語には、当時あまり馴染みがなかったが、この言葉が
"螺旋(らせん)"を意味するということを、このドラマのタイトルを
通じて初めて知った。その"螺旋"とは、遺伝子構造の形のことである。

この作品を見続けて、今、確信的に言えることは、
「買いですよ!!」
とお伝えした時の直感は、間違っていなかったという思いだ。

この作品は、日本のドラマファンにとって、まさに「おススメ」なのだ。

 

海外ドラマがお好きな方は、すでにこのシリーズについて概要はご存知だろう。
北極のアークティック・バイオシステムズと呼ばれる研究所で謎の伝染ウイルス
が発生し、緊急調査のために向かった、CDC(Centers For Disease Control)という
米国の疫病管理センターの精鋭の科学者たちが、生死の狭間で翻弄されていく
姿が描かれる物語だ。
全編をカナダのモントリオールで撮影し、ロケ地の臨場感とCGの技術を駆使して
北極という極寒の環境を表現した。冬場の夜間撮影では、実際に雪が降る中での
演技や情景までを作品に活かしたという。

地球の最北端の研究所という舞台設定と13日間(1話で1日が進む構成)という
時間が限定され、誰もが逃げ場を失うスリリングな構造は、SFというより、
恐怖映画的な戦慄の渦中に見る者を陥れる。
ご興味のある方は、予告編の映像や作品のニュース記事などを併せて
お読み頂きたい。

しかし、この傑作SFスリラーをまだ見ていない方のために、ここではネタバレを
極力避けながら、このシリーズの最大の注目点にもう少し触れてみよう。

 

致命的な伝染ウイルスのアウトブレイクを起こした研究所の所長を務めているのは、
ご存知の通り、日本が誇る俳優、真田広之さんである。
前述のキャッチコピーにある「神を弄ぶ」という、人類が犯した過ちの中心に
いるのが、真田さん演ずるヒロシ・ハタケ博士という人物だ。

「神を弄ぶ」つまり「遺伝子を操ってしまった」ことへの代償の大きさを、
登場人物たちは刻一刻と過ぎていく時間の中で、思い知らされることになる。

あるインタビューによれば、 ハタケ博士のキャスティングの候補には
真田さんの名が第一に挙り、そのラブコールに応える形で出演が決まった
のだそうだ。

 

クリエイター陣に『LOST』を手がけた人材もいるだけに、納得の配役だが、
真田さんにとっては、当時これが米国ドラマ初のレギュラー出演
「複雑でやりがいのあるキャラクターだった」というご本人も語っているが、
人類の"進化"を操ろうとする物語と同様に、真田さんも「レギュラー枠」という
責任の大きいポジションを全うすることで、米国業界内の俳優としての"進化"に
挑戦した、「日本人俳優の未来の可能性」を示した作品である。

ハタケ博士は、ウイルス発症の中心地に居るだけでなく 、主要キャラクターたちの
絡み合う人間関係の中心にも、静かに立っている。
思わぬ「螺旋のつながり」に、 彼らは運命づけられているのだ。

 

主人公の一人、ジュリア・ウォーカー博士(CDCから派遣される女性科学者)
を演じたキーラ・ザゴースキーは、俳優として真田さんに厚い信頼を寄せている。
「撮影では、彼と共に取り組むことにとても安心感があった」とキーラは
インタビューで語っていた。真田さんは、キーラと各エピソードの内容などを
話し合い、感想などを共有していく信頼関係を築いたそうだ。

しかし物語上、大きなサプライズとなる二人の間の「運命」については、先に
脚本の展開を読んで知っていた真田さんは、キーラにはその秘密を明かさず、
ハタケ博士の役柄とシンクロするように、謎めいたままの人物をシ ーズン終盤まで
徹して演じた。

一方キーラは、回を追う毎に、
「え、私、次はこうなるの!? こんなことが起きるの!?」
と、驚きと恐怖と時には感動を新鮮に維持したまま、ジュリア役を演じることができたという。
真田さんは、彼女の演技を、見えない部分でもサポートし続けていたのだ。

 

そしてもう1人、注目して欲しい登場人物がいる。
北極研究所の警備主任ダニエル・アエロフ役を演じたミーグン・フェアブラザーだ。
彼は、ハタケ博士の右腕的な人物で、はじめは冷徹な言葉と態度がなんとも鼻につくのだが、
実は彼にも驚きの生い立ちの背景があることがやがて判明する。
そこにも、やはりハタケ博士の人生 の謎の歴史が絡んでいる。

『HELIX -黒い遺伝子-』をこれから見てみようという皆さんには、絶対に
見逃して欲しくないエピソードがある。
第1シーズンのフィナーレ直前の第12話:『報復』だ。

この回は、海外ドラマファンにとっても、真田広之ファンにとっても、
食い入るように観るだけの価値がある!!
ダニエル役とハタケ博士役の二人が追い詰められ、ある感情がこみ上げる
やりとりが交わされる局面は、このエピソードの間違いなくクライマックスであり、
全シリーズの中で最も胸を締めつける、切なくも愛に満ちた瞬間である。

この瞬間を目撃した時、僕は、
「このドラマはハタケ博士の話なのだ...」
とあらためて感じた。

 

ここで 真田さんが魅せた真の感情の演技は、近年多くの日本人やアジア系の
俳優たちがテレビドラマで見せてきた中でも、おそら"最上級"と言える
深みと説得力を持つものだ。

その衝撃に呼応するかのように、米国にはこのドラマの"ハタケ・ファン"が多く
存在する。テレビの視聴者の間で、『HELIX』は確実に"サナダ・ファン"の層を生んだ。
Twitterなどで、沢山の支持者が「HATAKE」の動向を見守り、追いかけて
いたのだ。

Syfyチャンネルが、このドラマの第2シリーズ製作を決定した理由の一つは
熱いファンたちが存在したからなのだが、その称賛は、凍り付くような冷たい色合いの
映像の美しさ/編集によるキレ のあるスピード/恐怖シーンをライトな音楽で
逆に際立たせる音楽の使い方と効果音の迫力/視聴者にまで感染しそうなほど
の生々しさで、身の毛もよだつ疫病患者の肌や血を質や色を創ったメイク・アップの技/
そして先の読めないクリフハンガー的な脚本の巧さ...といった要素へ向けられたことは
もちろんなのだが、「ハタケ:真田」へのファンたちの応援の徐々に増していった
《熱》も、製作陣をシリーズを前進させる一因であったことは間違いないだろう。
だからこそ、その《熱》を生んだこのシリーズを、日本のドラマ好きの方々には
おススメしたい。

 

ところで、日本や米国の真田さんファンをやきもきさせた
「ハタケ博士は第2シーズンにも果たして出演するのか!?」
という気になる点についても、どうかご心配なく。

第2シーズンにも、ハタケ博士は登場する!!!
しかも、よりクールで渋味の増した装い、 より謎めいた佇まいで。
彼には、ある主要キャストとの再会を果たす展開が待っている。
その姿には、第1シーズンを超えたカリスマ性重厚さがある。

このような特別なポジションで、日本出身(=外国籍)の生粋の俳優が、
セリフの全てを英語で演じるという過酷な条件をクリアし、2シーズンに
連続して登場するというのは、本当に並大抵のことではない。
それだけの貢献は、世界市場を狙う業界の中でも、選ばれし者だけが
でき得ることだ。

しかも第2シーズンには、ファンにはたまらない出色のアクションシーン
までもが用意され、ハタケ博士の姿は視聴者たちに、再び「衝撃」をもたらす。
我々が受けるその「衝撃」の強さは、日本人が生み出す表現の深遠さが、
どれほど見る者を魅了出来るかを証明している。

 

Syfyチャンネルは、恐怖のビジュアルと胸を打つ人間ドラマを融合させた
『HELIX -黒い遺伝子-』をテレビ界に繰り出したことで、
新たなレベルに到達したSFシリーズの可能性を視聴者に提示し、
そして、真田さんはその演技によって、好評だった第1シーズンを、どれほど強く
牽引したか、どれほど成功に貢献したのかを、完璧なまでに証明したのだ。

『HELIX』は、そんな"衝撃"の遺伝子を誕生させたドラマなのである。

【『HELIX -黒い遺伝子-』 シーズン1 ブルーレイ&DVD情報】
■COMPLETE BOX ブルーレイ
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Photo:『HELIX-黒い遺伝子』
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