『ベイツ・モーテル』フレディ・ハイモア(ノーマン・ベイツ役)インタビュー 「設定を変えたことで『サイコ』から離れて、より多くの自由が得られたんだ」

名匠アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス映画の金字塔『サイコ』の前日譚を描く注目のドラマ『ベイツ・モーテル』。本作の主役ノーマン・ベイツを演じるフレディ・ハイモアが、入念な役作りや、英国人俳優がアメリカで活躍することについて、さらには俳優業と学業の両方など私生活の話も細かに語ってくれた。

――ノーマン・ベイツのような有名な役を引き受けるのはどのような気分ですか?

ワクワクするけど、さらにプレッシャーもあるんだ。というのも、『サイコ』(1960年)にはいろいろな業績もあるし、アンソニー・パーキンスがすばらしい演技を見せていたからね。ワクワク感のほとんどはこの作品の脚本の可能性を実現したいという思いなんだ。その思いこそ、僕がこの作品に惹かれたところで、ノーマン・ベイツを演じられるすごいチャンスでもあるけど、プロデューサーが持っていたビジョンやストーリー展開を実現することに貢献できるチャンスでもあったんだ。

――あなたは、どのようにノーマン・ベイツの演技を自分なりに作り上げていったのですか? パーキンスの演技から何かひらめきを得ましたか?

彼の演技は確かにインスピレーションの源だよ。でもね、決して彼のしたことを真似ようとはしなかった。自分の演技を作り上げる上で、彼の演技にはいくつか特徴的なことがあったけれど『ベイツ・モーテル』では自分で考えたアイデアを自由にやらせてくれたんだ。ある種の自由があったんだよ。

――役作りのために、リハーサルはたくさんやりましたか?

まずは、アイデアがいくつも思い浮かんで、「このやり方で演じよう」って思うんだ。それから、その選んだアイデアで役をずっと演じる。それがテレビ番組のいいところなんだ。作品の中で、このシーズンの中で前エピソードまでにやってきた作業を踏まえて、キャラクターを作り上げられるんだ。一方、映画だと、事前に役のプランを考えなくちゃいけないし、テレビほどの自由がない。テレビではエピソードごとに時系列に沿って話が進んでいくから、その進展を確認しながら、役の状況を変えられるんだ。そういったことが可能なのは、最初のエピソードを始める時にすべてのエピソードの内容が決まっていないからで、例えば、ノーマンが第9話で何をするかなんて分からないんだ。もちろん、誰もがノーマンの結末は知っている。ノーマン・ベイツを演じる上で、僕にとってはそれもいいことなんだ。彼が最後の最後で行くことになる場所が分かっているってことはね。

 

――あなたとベラ・ファーミガの間の緊張感ある関係は画面を見ても明らかなのですが、その関係はどのように作り上げたのですか? あなた方は心理学的なことを話し合ったのですか?

僕らは精神的な話し合いを行ったよ。そうした中で、シーズン1後からより鮮明になったことがある。ノーマンの性格が分裂し始めるんだ。ノーマンがコントロールできない心の状態になった時のことがより明確になるんだ。同時に、ノーマンは母親の声に影響を受けて、どうすることもできずに自分の中に流れ込んでくる母親の言葉や思いを話し始めることになる。そこがベラと協力し合う重要なところだったんだ。僕らは、母親の響き渡るような話し方と声を考え出したんだ。

――アメリカのアクセントで役を演じるのは難しいですか?

そんなことはないよ。今までにも何度かやっているから、むしろ、久しぶりにアメリカのアクセントのある役をやれるんだという思いがあるね。もちろん、どのキャラクターも少しだけど違う話し方をする。アメリカ人にはアクセントがひとつあって、みんながそのアクセントで話すってよく言われているよね。でも、それぞれ人は、自分独特の声を持っているんだ。そのことをアメリカ人はアクセントが消えたって言うんだけど、その時の面白い話がある。アメリカ人が僕のところにやってきて「アクセントが消えたな!」って言ったから、僕は「自分のアクセントを手に入れたばかりさ! 君たちの変なアクセントとは違ったアクセントを手に入れたんだ!」って言ってやったよ。

――英国俳優がハリウッドのテレビシリーズで人気があることに対するあなたの考えを教えてください。どうしてこのようなことが起きているのだと思いますか?

僕たちにとっては、いいことだと思うよ。「イギリス人が侵略している」とか再侵略しているというふうに否定的に見られているのかどうかは分からない。僕らは運がいいんだろうね。でも、そこに何か特別なことがあるかどうかは、僕には分からない。おそらく、僕が今まで演技を勉強してきたのとは違う取り組み方があると思うんだ。だから、僕にはよく分からないよ。

 

――本作で設定が現代に移されたことで、より満足のいく物語を語るためにどのような効果が得られましたか?

設定を変えたことで『サイコ』から離れて、より多くの自由が得られたんだ。そうすることで、キャラクターを共感できるように設定を調整して、今の僕の世代の人にも、とっつきやすくなったと思う。あの家には時代を超越したものがあって、誰もが知っているノーマン・ベイツから連想される家の歴史と過去が思い浮かんでくるところが僕は好きなんだ。あの家の中のプライベートな世界で作り上げられたノーマとノーマンの関係には、時代を超越したものを常に感じるね。

――本作には『ツイン・ピークス』(1990〜91年)の雰囲気が感じられるところがありますが、ノーマン・ベイツは、どのようにして奇妙な方向へと進んでいくのでしょうか?

基本的な物語の筋は、なぜノーマンは猟奇殺人鬼になったのかということで、生まれのせいなのか育ちのせいなのかという議論があるんだ。生まれた時からノーマン・ベイツは猟奇殺人鬼になる運命だったのか? それとも、母親との関係や引っ越してきたミステリアスな町のせいで、猟奇殺人鬼になったのか? 町自体もスタッフが考え込んで、ひとつのキャラクターになった。僕は、みんなが言うように『ツイン・ピークス』みたいだって話すことがあるけれど、実は一度も『ツイン・ピークス』を見たことがないんだ! でも、その雰囲気があるっていうことには賛成するよ。

――丘の上の家に歩いていくのはどんなものですか?

スタッフは完璧に家をバンクーバーに建て直したんだ。最初に僕の注意を引いたのは、家に天井がないこと。下から数階分はちゃんと作られたんだけど、残りの部分は、CGIで付け加えられたんだ。それに、家が建てられた丘は、昔は古いゴミ捨て場だった。そして、道を横切ったところには、新しい近代的なゴミ捨て場があるんだけど、かなり悪臭がするんだよね。あたり一帯が臭いんだ! それがこのロケ地の唯一のマイナス面だね。

 

――現在、テレビシリーズで、非常に多くの闇を抱えたキャラクターが作られているのはどうしてだと思いますか?

ノーマンの狂気への変化や転落が起きるのに必要な時間を考えると、『ベイツ・モーテル』を映画としてやるのは不可能だったと思う。それに、今のテレビ番組が制作できるのはクオリティのおかげなんだ。テレビっぽく見えないし、短期間でクオリティのあるものを考え出すことができるんだ。

――数年前までよく作られていた中規模の映画は予算が取れなくなり、締め出されたため、テレビドラマに俳優のチャンスが増え、その結果、俳優はテレビドラマに出る傾向が強くなったと思いますか?

そうだね。テレビの予算はもはや安くないのは確かだ。以前だったら、物語を語るのに、テレビは安っぽくて、映画はお金をかけられるものだっていう意識があったと思うんだ。でも、今では、それは必ずしも正しいとは言えなくなったね。

――最初に『サイコ』を見たのはいつですか?

確か13か14 歳の頃だと思うよ。ちょっと若かったかな。でも、あの歳で『サイコ』を見るのは明らかに悪いことではなかった。自分で勝手に心理的スリルとサスペンスを高めていたね。実は、それが『ベイツ・モーテル』で僕らが再現したかったことなんだ。

――本作で楽しめた『サイコ』との関連性は何かありますか?

あの家にはたくさんの歴史が詰まっていて、僕はそういったところが好きなんだ。一部の人の心に響くかもしれない映画からのちょっとした引用をセリフの中に入れると、秘密がほとんど分かってしまっていたと思うよ。つまり、『ベイツ・モーテル』の楽しみ方は、はっきり示すことじゃなく、常に暗示的なところなんだ。観客はだれを追っていけばいいのか分からないし、だれが正しくて、だれが間違っているのか分からない。だから、いろいろな解釈ができて面白いと思う。それで、『サイコ』への粋な計らいに気づく人もいれば、気づかない人もいる。でも、それは重要なことじゃないんだ。観客は作品から本当にいろんなことを得るからね。

 

――このシリーズは、『サイコ』のオープニング・シーンで終わると思いますか?

僕は、ノーマンが向かうべく場所として、そのシーンを終わりとして常に考えているんだ。最後には、僕はきっとそのシーンにいると思っている!

――あなたは学業と俳優としてのキャリアをどのように両立させているのですか?

実は、言語学の3年目を海外で終えたばかりなんだ。そこで、今年はどうやって効率的に学業をスケジュールに入れるかというところなんだけど、アラビア語とスペイン語が話されている土地で8ヶ月間過ごすことが必要なんだ。まず『ベイツ・モーテル』の撮影が始まる前に2ヶ月間分は消化できた。それから、撮影が終わった1月に学業の方に戻ったんだ。

――あなたは、有名人でいることと自宅での自分の時間をどのように対処しているのですか?

僕は、現実とは何なのかを考えながら、正常な感覚を持てていることを、いつも幸運だと思うよ。おそらく、僕は、ひどい罠が仕掛けてあるアメリカには引っ越してきていないから、そう思えるんだろうね。僕の家族は僕のことを信じられないくらいに家から出したがらないんだ。それに、映画からも離れているので、僕の普段の生活は最高だよ。僕が思うには、芝居は人生の添え物なんだ。プロとしてやるには耐えられない。必要に迫られていたり、仕事としてやるというよりも、趣味として芝居を考えているんだ。

 

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Photo:『ベイツ・モーテル』
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