ブッカー賞受賞のヒラリー・マンテルによる原作を豪華キャストで完全映像化した、稀代の政治家トマス・クロムウェルの視点から描く歴史大作『ウルフ・ホール』。第67回エミー賞で8部門にノミネートされるなど高い評価を受ける本作が、AXNミステリーで1月9日(土)より放送される。そんな話題作に出演するキャストたちのインタビューを3回にわたってお届け。最後に登場するのは、悲劇の女性アン・ブーリンを演じるクレア・フォイ。実在の人物を演じる上での苦労や、共演者たちの魅力について語ってくれた。
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アン・ブーリンを演じているクレア・フォイよ。テューダー朝を舞台にした『ウルフ・ホール』はトマス・クロムウェルの物語で、クロムウェルの出世していく様子やヘンリー8世との関係を描いているの。ちょうどその頃、ヘンリー8世はキャサリン・オブ・アラゴンと離婚してアンと再婚しようと目論んでいた。一人目の妻キャサリンとの離婚、二人目の妻アンとの再婚はいずれも1533年。アンはかなりの政治手腕の持ち主で、単なるヘンリー8世の妻にとどまることはなかった。クロムウェルとの関係においても歯車が動いている感じが分かって面白いの。
このドラマの中のアンは、すべてクロムウェルの目を通して描かれている。でもそういう人を演じるのは意外と難しくて、本当はキャラクターのすべてを見せたいと思う。アンが一人でいる時もあるわけだし、普通はあらゆる側面を表現するものよ。だけど今回はクロムウェルから見たアンのみが描かれていて、それはつまり計算高く、望みを叶えるためにヘンリー8世の愛も利用する女なの。
アンはフランスで育ち、ヨーロッパ宮廷の素晴らしい女性たちから、男性がいる場での立ち振る舞いや読み書き、音楽、芸術について学んだ。そして英国に戻ると、"今こそ私の時代よ"と思ったようね。さすがに、王妃になるとまでは一度も考えなかったはずよ。だけど、そんなとんでもないことを成し遂げてしまうのよね。
彼女は明らかに裕福な家の出身だから、"私は~になる"とか"私は~をする"とかいう風には考えなかったでしょうね。確かに野心家だけど、王妃の座を望むなんて正気とは思えないし、あまりにも非現実的だもの。それにフランスから戻ってきた時点でのアンは、ノーザンバランド伯のヘンリー・パーシーに狙いを定めていたようね。ちょうどいい相手だと思ったんでしょう。彼と結婚してノーザンバランドに住むつもりだったみたい。当時は彼女もまだ若かったしね。でもその夢は(聖職者の)トマス・ウルジーによって潰されてしまう。そのことで彼女は目が覚めたのね。自分以外の誰かが権力を握っているのは気に入らないと気づいた。
誰もが知っている物語に出演する時は、準備がとても難しいわ。私は原作にとらわれないようにしたかった。頭をまっさらにしないといけないの。だけど、ドラマの製作が決まる前から小説の大ファンだったから、その点では大変だった。原作が大好きで、物語にまつわる先入観を捨てるのは本当に難しかったのよ。
このドラマでは、クロムウェルの視点で見た彼女しか描かれていないから、アンが何を考え、何をするのか、またどうしてあんなに一貫性がないのかを理解できなかった。とてつもなく強かったり、精神を病んだように振る舞ったり、信仰深いにもかかわらず人にひどい態度を取ったり、そういう矛盾した行動が多いの。そんな女性は演じたくないと思ったこともあったけど、どんな作品でもすべてをリアルに演じる方がいいわよね。あとはもう、私が役柄と同じ人物だと思われないように願うしかない(笑)。私は演じているだけだわ。いずれにせよ彼女にはなれないんだけどね。
アンとクロムウェルの関係は変化していくの。二人が初めて会った当初、アンはヘンリー8世と一緒になろうと、単独であれこれ画策している時期だった。ヘンリー8世の離婚訴訟が失敗に終わり、ウルジーが地位をはく奪されるとアンは興奮する。彼女はすでに王宮で暮らしていたから、自分に追い風が吹いていることを知って大喜びするの。この時クロムウェルは、立場の変わったアンに再会するとそれまでとは違った接し方をする。そんなクロムウェルに対してアンは"あら、面白い"とは考えず、"この人、急に台頭してきたわね、役立ちそうだわ"と考え、実際、自分に都合良く使っていく。すると彼だけがきっちり仕事をしてくれることを知る。唯一、彼だけが必要とあらば、走り回ってやるべきことを成し遂げてくれるの。彼女はそういう人物を必要としていたわけね。
私はそんなアンの冷酷なところが好きよ。決して自分の手を汚すことはないんだけど、"あんな男はもう要らない、殺しちゃえば? 別に問題ないでしょ"っていうようなことを言うの。しかも結局、彼女はいつも正しい。トマス・モアの時も、ウルジーの時もそれ以外の人について言う時も、"敵は排除すべきだ"と主張する。周りは"それはダメよ"と言うんだけど、結局は排除することになって、彼女に"だから言ったでしょ"と言われちゃうのよね。
マーク・ライランス(トマス・クロムウェル役)との出会いは最高だったわ。というのも、初めて会った時から私たちはどちらも役になり切っていて、すでに準備万端の状態だったの。撮影の順番はめちゃくちゃだし、どのシーンもせりふは多いし、含みもあってきっと何百万通りにも演じられるけど、現場は本当に素晴らしかった。彼はお茶目だしチャレンジ精神旺盛だから、撮影では様々なことが起こる。彼とのシーンを撮るのは楽しいわ。原作も読んだし、いろいろ調べたけど、彼はまさにクロムウェルよ。とにかく完璧で、すごいの。
そしてダミアン(・ルイス)はヘンリー8世にぴったりよ。彼ほどの適役は思いつかない。人柄も素晴らしいの。ごく普通の人みたいな部分があり誰とでも気さくに話をするし、同じ部屋にいる人たちの気分を盛り上げることができる。そしてヘンリー8世もそんな人物だった。とてもユニークな資質の持ち主で、社交的なんだけど、それが表面的なものに見えない。ヘンリー8世が部屋に入って何か言うと、そこにいるみんなが笑うの。ダミアンもまさにそんな人よ。卓越した才能があるのね。
プライベートのシーンがないのはちょっと奇妙ね。私たちはいつも外向きの顔をしているの。一度くらいドアの割れ目から部屋をのぞくような瞬間があったら面白いと思うわ。いずれにしても魔法のように華やかよ。私は多くの面でアンと似ているけど、似ていない点で一つ彼女を尊敬しているのは、感情を爆発させることができるところね。彼女は一瞬にして嫉妬心を露にするの。"あなたの過ちよ! なぜ間違えたの? これは私の問題でしょ"という風にすぐに激昂する。一方の私はといえば、"言うべき? 言うべきじゃない? 言ったら相手が怒りそう"といった具合で、論争になるとすぐ負けちゃうから。
アンは論争が本当に得意なの。私は"この人を怒らせちゃうからケンカはよそう"とすぐ尻込みしてしまうけど、彼女は先のことなど気にせずに感情を爆発させられる。それって素晴らしいことだと思う。彼女はそういう性格だから、騒動も起こす。人に対して思っていることを何でも口にするからよ。彼女はとにかく生命力にあふれているから私もその生命力、闘志、粘りの精神を表現したいわ。
(ヴィクトリア朝の物語を描いた2008年のドラマ)『リトル・ドリット』からはしばらく経っているし、気分はだいぶ違うわね。あの作品で私が演じたエイミー・ドリットは素晴らしい人物だったけど、今回は歴史上、名高い性悪女を演じているもの。
みんながエネルギーと時間と愛情を注ぎ込んで細部まで練り上げている作品に参加できるのは、いつだってうれしいわ。『ウルフ・ホール』も『リトル・ドリット』も原作となる小説があるという点では似ていて、私はそこも気に入っているの。何かあればすぐ参照できるでしょ。それに、夏にイギリスの田園地方にいられるのは最高の気分だった。撮影現場となる家はどれも美しくて、ロケーションは申し分なかった。それに衣裳は素晴らしいし、共演者にも恵まれた。『リトル・ドリット』の時にお城を目にして"冗談でしょう?"って思ったことをはっきりと覚えているけど、今回もまさに同じで、現実とは思えないわ。
ヴィクトリア朝かテューダー朝、どちらか一つを選べと言われたら困るわ。どちらもキツい時代だっただろうけどそれはいいとして...そうね、どちらかを選ぶならテューダー朝にする。アンにひどいことが起こるから、"ヘンリーを排除しないとダメよ"って言ってあげないとね。歴史が少し変わっちゃうけど、ヘンリー8世は悪人だったからアンが排除するっていうのはどうかしら。そうすれば彼女は世界を支配できたし、彼女はそうすべきだった。途中でエイミー・ドリットにあいさつなんかしたりしてね。きっとイギリスの歴史はだいぶ違っていたはずよ。
■『ウルフ・ホール』放送情報
ミステリー専門チャンネル AXNミステリーで
2016年1月9日(土)7:00PM~ 全4話一挙放送
2016年1月28日(木)10:00PM~ レギュラー放送 毎週木曜10:00PM
Giles Keyte, Ed Miller, Simon Smith-Hutchon © Company Pictures/Playground Entertainment for BBC 2015
Giles Keyte, Ed Miller © Company Pictures/Playground Entertainment for BBC 2015