【お先見】犯罪にまみれた"獣たちの国"に足を踏み入れる...傑作映画『アニマル・キングダム』のリメイクドラマ 『Animal Kingdom』

2011年開催の米国アカデミー賞で、"オーストラリアの至宝"とも呼ばれるベテラン女優のジャッキー・ウィーヴァーに助演女優部門ノミネート入りをもたらした、犯罪ファミリー映画『アニマル・キングダム』10話のシリーズとして生まれ変わり、米国で放送を開始 した。

オリジナル版は、1988年にメルボルンで州警官2人が射殺された実際の事件を元にフィクションを書き上げて自らメガホンを取ったデヴィッド・ミショッドの初の長編劇映画。ハードな作風に練られた脚本と深みのある俳優たちの演技が称賛され、米国公開の際にも注目度の高い作品だった。

有力紙ニューヨーク・タイムズは、この映画を「『グッドフェローズ』への、オーストラリアからの答えだ」と評した。

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主人公の名はジョシュア。17歳。
ある日彼は、母親を薬物の過剰摂取で突然に失ってしまう。

ほとんど感情を表に出さないシャイな高校生が頼れるのは、長年連絡も取っていなかった祖母ジャニーンだった。早速ジャニーンの家に迎え入れられるジョシュア。
しかしそこには、不法侵入・窃盗・強盗・暴行・ドラッグの取引などで一家の生計を立てている、祖母の息子たちがいた。ジョシュアが足を踏み入れたのは、犯罪者の王国(キングダム)だったのだ...。

ハリウッドが惚れ込んだ豪映画を、テレビシリーズ用に脚本化するにあたり、舞台をオーストラリアのメルボルンから米国カリフォルニアの海岸沿いの街に移して大胆な脚色を施したのは、"ドラマのTNT"と呼ばれるケーブル局。
これまで『クローザー』『フォーリング スカイズ』『リゾーリ&アイルズ』『ザ・ラストシップ』など、数々の人気作を送り出しているネットワークだ。

ジョン・ウェルズ

そして製作するプロダクションを率いるのは、ヒットメーカーのジョン・ウェルズ
彼は『サウスランド』『ER 緊急救命室』『ザ・ホワイトハウス』など、代表作を挙げればきりがないが、近年では『シェイムレス 俺たちに恥はない』や、アカデミー賞にもノミネートされた映画『8月の家族たち』の監督も務め、"一筋縄ではいかないファミリーや群像"の物語を語らせるには実にトップの人選だと言える。
ウェルズ、そしてオリジナル映画版の監督デヴィッド・ミショッドらが製作総指揮に名を連ね、6月にTNTで初放送となった2時間枠のプレミア回もウェルズ自身が監督している。

この作品、なんといっても見どころは、"至宝ジャッキー・ウィーヴァー"が演じた役ジャニーン(通称:スマーフ)を米ドラマ版では誰が、いかに演じるかだ。

エレン・バーキン

抜擢されたのは、やはりベテラン女優のエレン・バーキン。『シー・オブ・ラブ』『ボーイズ・ライフ』『オーシャンズ13』などのヒット作で日本でも昔からのファンは多いだろう。
優し気な雰囲気と見た目のジャッキー・ウィーヴァーとは異なり、すでに60歳を越えているにもかかわらず、金髪でサングラスが似合い、妙に色気と派手さのあるエレン演じるジャニーンは、登場シーンから

この祖母(おばあちゃん)と暮らすのは、マズい。何か危険な香りがする...

という直感を観る者に抱かせる。

映画版をすでに観ている人にも、脚色の面白さ、ヤバさ、驚きを期待させてくれるには十分な起用だ。彼女を観るために、チャンネルを合わせる視聴者は米国では多いだろう。

主役ジョシュアを演じるのはほぼ新人と言っていい、フィン・コール。英国ロンドンを拠点にする俳優のようだが、寡黙な米国の若者を上手く演じている。温厚なティーンだと思っていた彼が、思わぬ「強い度胸」の持ち主であることが徐々に垣間見えてくるのだが、犯罪ファミリーに囲まれた環境で、彼が今後どこまで底なしの沼にハマっていってしまうのかに、つい興味が湧いてしまう。

ジョシュアを「犯罪の日常」へと巻き込んでいくジャニーンの息子たちの配役も、米ドラマ版ではなかなかの男前の俳優たち。

スコット・スピードマン

スコット・スピードマン(『フェリシティの青春』)、ショーン・ハトシー(『パブリック・エネミーズ』)、ベン・ロブソンジェイク ・ウェアリーらが揃い、豪映画の地味でごく普通のオヤジたちに見えた印象(そこが怖くて名キャストだったのだけど!)からは大幅にアレンジされている。

彼らは、ジャニーン邸の庭のプールで美女をはべらせ、ドラッグにハマる。その光景に繊細なジョシュアは圧倒される。犯罪に、完全に手を染めた"おじたち"と、どう向き合って生きていくのか...。
実際の米国の社会には、もちろん普段は滅多なことでは目にすることがないものの、規制がしきれていない「」があり、危険な居住地域に立ち入れば、ギャングの抗争もある。薬物依存も、決して珍しいことではない。

ショーン・ハトシー

ジョシュアがを初めて手にし、人に銃口を向ける瞬間が、 このドラマではあっけないほど容易に訪れる。容易に手に出来てしまうシーンの描写が、やけに生々しい

舞台であるカリフォルニア西海岸の景色は眩しい。
青空に映える椰子の木も、白いビーチから突き出す桟橋も、とても画になる。
ジャニーンの息子たちがサーフィンで波に乗る時も、庭のプールで戯れる時も、水中の蒼い美しさは爽快だ。編集のリズムの良さに、楽しささえ感じる。まるで青春ドラマのようだ。

しかしその美しさと高揚感は、「」を隠すかのように鮮やかで、"罪悪"の意識を持たないままにいつしか馴染んでしまいそうな怖さがある。
90年代に若者たちから大きな支持を得た映画『ハートブルー』(主演キアヌ・リーヴス、
パトリック・スウェイジ)のような犯罪アクションがお好きな方なら、きっとこのドラマにも魅了されるだろう。

夏にとても似合う、スリリングな1本に仕上がっている。

本作の宣伝CMにはこんなコピーが使用された...

In this family, you"re protected. Until you"re prey.

この一家では、お前は守られている。餌食になるまではね

Photo:
ジョン・ウェルズ (C)Megumi Torii/www.HollywoodNewsWire.net
エレン・バーキン (C)Thomas Lau/www.HollywoodNewsWire.net
スコット・スピードマン (C)Manae Nishiyama/HollywoodNewsWire.net
ショーン・ハトシー (C)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net