ハイテク現代を風刺した一話完結の秀逸サスペンスドラマ!『ブラック・ミラー』TCA/Netflix 2016 夏期プレスツアー潜入レポート

春と夏にTV評論家を対象にして行われるTV批評家協会ツアー。春にお招きいただいたNetflix主催のツアーに引き続き、先日行われたNetflix主催夏のプレスツアーにお邪魔してきました!

配信ホヤホヤの話題作から秋にかけて配信がスタートする新シリーズを真っ先に試写させていただくと共に、出演者たちがステージに集うパネル・ディスカッションやインタビューの機会が設けられたこのツアー。今回も大いに盛り上がって、Netflix選り抜きオリジナル・シリーズの取材をしてきました。

今回お届けするのは、『ブラック・ミラー』。この度Netflixのお招きでTCAプレスツアーに参加が決まるまでは見たことがなかったのですが、実はこのシリーズは今回でシーズン3まで進んでいるイギリス産のシリーズなんですね。一話完結で、昔の人気TVシリーズ『トワイライト・ゾーン』を彷彿とさせます。毎回異なる監督・俳優・設定のサスペンス・ドラマで、現代のテクノロジーのおかげで明るみに出される人間の深淵にスポットを当てたストーリーです。

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まだご覧になったことのない方々に『ブラック・ミラー』で最も有名なエピソードをご紹介しますね。シーズン1第1話の「国歌」と銘打たれたエピソードは、私がライターになってからこれまでに見た何百という作品の中で一番賢いドラマの一つと言える秀逸作品です。

舞台はロンドン。ある日、首相の手元に「王妃を誘拐した。彼女の命が惜しくば首相は全国生中継で豚とセックスすべし」という脅迫ビデオが届きます。最初は冗談だと思って取り合わなかった首相と側近たちも、バッキンガム宮殿から王妃が行方不明になっていること、さらわれた王妃のビデオと王妃のものと思われる身体の一部が届けられたことなどから徐々にパニックに陥っていきます。豚との体位からカメラアングル、「やり切るまで続ける」といった詳細を指示どおりに首相がこなさなければ即座に王妃を殺すという犯人。ネット上の誘拐ビデオも巧みな技で配信元が隠されていて犯人割り出しの役に立ちません。生放送の時間が刻一刻と迫るなか、憔悴しきった首相に対して国民たちは同情しつつも、犯人のグロテスクな要求の結末に興味を覚えずにはいられません。やがて生放送の時間がやって来るのですが、果たして首相の決断は!?

これが、シリーズ初回のあらすじなのですが、このエピソードほど現代のテクノロジーを介して人間がさらけ出すさり気ない残酷さを風刺した作品はないと心底感心しました。

『ブラック・ミラー』は、こういった賢い1時間もののストーリーが一話完結状態で見られるのです。忙しくてドラマの一気見など無理という方にとっても、どのエピソードから入ってもオッケーという便利さが魅力。

番組プロデューサーのチャーリー・ブッカーとアナベル・ジョーンズは、時事にストーリーのヒントを得ることが多く、世の中で実際に起きているテクノロジー関係の妙なニュースからストーリーが閃いたり、ファンがツイートしてくれた話題をヒントにしたり、とにかくネタは果てしなく周囲に転がっているのだそうです。

例外としては先出のエピソード「国歌」で、これに関してはネタが周囲に転がっていたのではなく後から転がり出てきた稀な例なのだそうです。知らない人は驚くなかれ、このエピソードが放映されて2年ほど経った頃にキャメロン元英国首相が学生時代に酔った勢いで豚と「関係を持った」というスッパ抜きニュースが報道されたのです。ラウンドテーブルの時、プロデューサーのチャーリー氏にひょっとしてキャメロン元首相の秘密を知っていたのか尋ねると、「全くの偶然で私たちも仰天したんだ!」と笑っていました。

この思わぬ出来事は、結局このシリーズがどれほどフィクションだけどノンフィクションと紙一重かというストーリーの完成度を物語っているように思えます。

みなさんは『トワイライト・ゾーン』という番組を知っていますか? まだTVが白黒の時代に大人気で、80年代には映画化もされたミステリー劇場タイプの番組だったんです。毎回15分の完結ミステリーを2本ずつ紹介していくというスタイルだったのですが、どの作品も現代にまで伝え継がれるほど傑作で、アメリカでは毎年感謝祭の連休に必ずといっていいほど『トワイライト・ゾーン』の一挙放送が行われています。『ブラック・ミラー』は一話完結の1時間ドラマですが、ストーリーの切れ味やスタイルを見ていて『トワイライト・ゾーン』を思い出しました。

遅ればせながら見させていただいたこの作品は、最近見たドラマの中で一番賢い作品と言ってもいいほどで、ハッキリ言って嬉しい衝撃でした。

(取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)

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『ブラック・ミラー』
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