【お先見】鬼才デヴィッド・リンチが放つ伝説のミステリードラマが復活!『ツイン・ピークスThe Return』

1990年代にカルト的な人気を博し、全世界で社会現象にまでなった『ツイン・ピークス』。本作でクーパー捜査官に「25年後に会いましょう」と、ローラが告げた通り、4半世紀の時を超えてついに復活!

日本より一足先に5月21日(日)より放送が開始した『ツイン・ピークス The Return』。今作のスタートにあたり米Showtimeは、過去最高のケーブル契約者数を更新し、25年経った今でも衰えることのない人気と復活版への期待の高さを証明。初回は2話連続スペシャル、全18話構成となっている。

そんな伝説のドラマ『ツイン・ピークス』について、まずは少しおさらいしてみよう。

『ツイン・ピークス』は、映画『イレイザーヘッド』や『ブルーベルベッド』などを手がけた鬼才デヴィッド・リンチ監督がプロデューサーとして初めて手がけたTVシリーズ。それまで映画監督がTVシリーズを手がけることはほとんどなく、リンチ監督独特の世界観、シネマティックなカメラワークや情感溢れる映像美とそれをさらに引き立てるメロディアスな音楽、そして謎が謎を呼ぶストーリーで、あっという間に世界中が虜になった。当時学生だった筆者はというと、友人たちと『ツイン・ピークス』について語らう日々を送っていた。そして日本ではなかなかお目にかかれないチェリーパイが食べられるレストランを、インターネットもない頃、探し回ったものだ。

さて内容は、カナダとの国境に近い田舎町ツイン・ピークスで、美少女ローラ・パーマーが水死体で発見される。この事件を担当することになったデイル・クーパーFBI捜査官(カイル・マクラクラン)が捜査を始める中で、小さな町の人々の秘密に満ちたダークな人間関係が明るみになり、不可思議な現象が起こり始めるというストーリーだ。

昨今の人気クリエイターと言われる人々の多くは、今シリーズに衝撃と影響を受けたと述べている。例えば、『LOST』のJ・J・エイブラムスを始め、『ハンニバル』、『アメリカン・ゴッズ』のブライアン・フラー、『リバーデイル』のロベルト・アギーレ=サカサなど、名前を出したらきりがない。

さて、それでは待ちに待った復活版について、紹介していこう。

クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)を始め、クーパー捜査官の上司ゴードン・コール(デヴィッド・リンチ監督)に、ローラ・パーマー(シェリル・リー)、シェリー・ジョンソン(メッチェン・エイミック)やホーク保安官(マイケル・ホース)に女装が趣味のデニス/デニース捜査官(デヴィッド・ドゥカヴニー)、2015年に他界している"丸太おばさん"ことキャサリン・E・コウルソンなど懐かしい顔ぶれが勢ぞろい!

特殊メイクなどでなく、実際に年齢を重ねた俳優たちを見ることによって、本当に25年の時が経っているのだと実感できる。女性陣は、美女のままの人たちが多いが、男性陣には、ふさふさの髪がなくなっていたり白髪になっていたりと、ちょっとびっくりする人も中にはいるかも?! ちなみに、のちに『X-ファイル』で有名になったデヴィッドの女装姿は、当時と変わらず美女のままだ。

ファンが最初に笑顔になるのは、もしかするとルーシーとアンディの夫婦を見た時かもしれない。25年前と同じヘアスタイルに甲高い声(ルーシーは本当に変わらない!)、垢抜けない格好のルーシーに、相変わらずラブラブのおとぼけアンディ。漫才のような夫婦のコミカルな会話は、あの特有の世界に笑いをもたらす。また、過去に見たことのないクーパー捜査官の行動に驚き、苦笑いするコメディ感満載のシーンも多々ある。

要所に出てくる"ドーナッツとコーヒー"というフレーズに反応するファンも多いだろう。他のドラマなら意味をなさないことだろうが、本作においての合言葉のようなこのキーフレーズは、新作でも健在だ。

また、この新作には何と217名もの新しいキャストがゲスト出演。ナオミ・ワッツ(『21グラム』)、ジェレミー・デイヴィス(『LOST』)、ジェシカ・ゾー(『ゴシップ・ガール』)、ロバード・ネッパー(『プリズン・ブレイク』などが名を連ねている。加えて、日本人女優の裕木奈江もクレジットにあり、彼女自身の公式Twitterでも今作について触れているが、役どころは不明。

復活版の舞台はツイン・ピークスだけではなく、アメリカのいくつかの都市での事件や出来事が交錯する形で進んでいく。第1話、第2話ではまだ見えない部分が多いが、物語が進んでいくうちに点だった部分がどんどん線で繋がっていく。

だが、その展開は非常にゆっくりだ。1エピソードは50分から60分あるのだが、キャラクター同士の会話の"間"も多い。しかし、キャストたちの素晴らしい演技力のおかげで、無言のシーンでも、視聴者である自分も動きを止め、息を潜めて見守ってしまうくらい緊張感に包まれている。これほど"間"に惹きつけられる作品は、なかなかないかもしれない。展開がスピーディーなドラマが好まれる時代と相反する流れだからこそ、『ツイン・ピークス The Return』は"特異"であり、逸脱した、必見の作品なのである。

"リンチ"作品といえば、音楽なしには語れない。今回もアンジェロ・バダラメンティが音楽を手がけているが、『ツイン・ピークス』ワールドの象徴でもある、なんとも言えないあのけだるい音楽は、25年経った今でも印象的で切なく、そしてノスタルジックに感じる。

さらに今回際立っているのは、"効果音"かもしれない。リンチ監督の効果音の使いかたは、奇抜だ。電気音や刃物の音など、風変わりな音が背景で響く。例えば、刑事ドラマなどでよくある犯罪絡みのとあるシーン。絶対に他の作品では使われないであろう、"ギー""ザー"という雑音ともとれる効果音が、その場面になぜかマッチしており、普通によくありがちなシーンなのに、何とも言えない不気味さを放っている。

また、25年前の『ツイン・ピークス』に比べ復活版は、初めから"リンチ"節が全面に出ている。オリジナルも一言では表現できない作品で、"ミステリー"、"サスペンス"、"クライム"、"超常現象物"、"ホラー"であるのと同時に"ソープオペラ(メロドラマ)"でもあり、"コメディ"でもあり、さらに"ファンタジー"でもある。ジャンル分けすらできないような『ツイン・ピークス』は、やはり"リンチ"作品としか呼べない物だった。

復活版は、その"リンチ"色が強く、元祖を知らずにいきなり見ると"意味が分からない"、"すごく変!"という感想になるかもしれない。また、はじめの数話から、前作を凌ぐレベルのバイオレントで、目を覆うようなグロテスクな映像もある。『ツイン・ピークス The Return』を見て、どうだったか?と感想を聞かれるならば、"とてもデヴィッド・リンチだった"と答えるだろう。"おもしろかった""不思議だった""怖かった"という陳腐な言葉では、表現できないないからだ。

以前リンチ監督は、このように語っている。

「人生というものは、摩訶不思議なことだという事実を人々はわかりたくないのでは、と私は思っている。だから自分が理解できないようなことに対面した時、宗教や作り話で意味を持たせ、なんとか理解しようとするように思う」

「事実は小説よりも奇なり」という言葉もあるように、この世の中は、実は理解できない、言葉では説明できないことに溢れているのかもしれない。私たちが"理解できない""変だ""これは何?"と思うかもしれない『ツイン・ピークス』内の映像は、芸術家であるリンチ監督にしてみれば、人生そのものの"不可思議"を表現しているだけなのであろう。

25年前にはまった人も、その頃生まれてなかった人も、現在のTVドラマの試金石となった『ツイン・ピークス』で、唯一無二の"リンチ・ワールド"にどっぷり浸る夏を過ごしてみてはいかがだろうか?

『ツイン・ピークスThe Return』は、WOWOWにて7月22日(土)夜9時より日本独占放送!さらに新シリーズに先駆けて、6月23日(金)夜11時よりオリジナル『ツイン・ピークス』を、テレビ初となるハイビジョン二カ国語版で5週に渡り全30話を一挙放送予定。

Photo:『ツイン・ピークス The Return』"TWIN PEAKS": ©Twin Peaks Productions, Inc. All Rights Reserved.