ハリウッドのヒットメイカー、マイケル・ベイが製作総指揮を務めたことで、アメリカ全土で話題となった超大型ミリタリー・パンデミック・アクションドラマ『ザ・ラストシップ』。アメリカで放送された最新のサード・シーズンも好評で、早くもフィフス・シーズンまでの放送が決定した人気ドラマだ。そのサード・シーズンに、ハリウッドでも活躍する日本を代表する国際派スターの真田広之が出演。復讐に取り憑かれた元自衛隊員で海賊の"タケハヤ"というキャラクターを演じる真田が、主演俳優エリック・デインとのつながりから、出演の舞台裏、日本語版の吹替に対する思いなどを語ってくれた。
――サード・シーズンに出演することになった経緯を教えてください。
実は出演が決まる前からファースト・シーズンとセカンド・シーズンを見ていたんですよ。主演のエリック・デインとは昔に別の仕事でご一緒していて、「いつか一緒に仕事をしたいね」なんて話をしていたんです。それで何年か経って、共通の知り合いからメールが来たんです。そこに、エリックが「サード・シーズンに登場する日本人の役があるんだけど、お前にしかできない」と言っているとあって、興味があるかどうか分からないけど検討してくれないかという話だったんです。過去のシーズンを見ていて番組のファンですし、それと同時にエリックとはやってみたいと思っていたから、クリエイターと話をしたいとメールを返したんです。それで、何度かクリエイターと打ち合わせした結果、演じるキャラクターと設定のことを聞いて、喜んでやりたいと返事をしたんですよ。
――その時にはまだ"タケハヤ"の全体像は完成していなかったのですか?
そうですね。お引き受けした時点では、おおまかなキャラクター像として、彼の過去やこのサード・シーズンの全13話の中でどのような立ち位置を描くのかという説明だけはありました。各エピソードで、どういう展開になり、どんな言葉をしゃべるかまでは分からない状況でした。あとはクリエイターのアイデアの面白さですね。自分の役が、何話かを通して変化していくところに醍醐味というか面白さを感じたので、あとはもう毎回上がってくる台本を楽しみにしていました。
――今までアメリカのTVドラマで演じられた役は、ミステリアスなキャラクターが多かったですが、今回は今までと少し違ったテイストの役ですね。
つかみどころのない役が多かったですね(笑) 今回は、演じる役の過去というのを、ハッキリと知らされていました。また、そこからどういう風に主人公たちと敵対して、展開していくのかというのも聞いていました。でも、それを逆に、最初の登場からはハッキリと提示しないで、最大の敵として登場するわけですから、当然、「誰なんだコイツ?」というオブラートに包まないといけないんですよね(笑) そういうお題は感じましたね。
最初から、ただミステリアスを狙うのではなく、だんだんと真実が明らかになって、登場人物たちとの関係性が変わっていくという、その意外性と面白さがあります。その点をちょっとずつ取っておきながら、そして無理なく移行していくところに、やり甲斐を感じました。こういう役を日本人で書いてくれたのがありがたいなというか、あまりないようなユニークなキャラクターだと思いましたね。現代、もしくは近未来における海賊から、どんどん発展していく役なので、そういう意味では今まで演じたことのない役柄ですから、非常に新鮮でした。それから、エリックをはじめとした素晴らしいチームワークの取れたグループの中に、ニューフェイスとして飛び込んで、ひっかき回していくという点でも醍醐味がありましたね。
――敵役を演じることのこだわりは?
敵役というのは今までも多かったんですけど、今回は途中からその関係性が変化していくこともありながら、最初は敵役としてのインパクトがなければいけないんですよね。この役をやることが決まったら、プロデューサーから「とにかく野性味と威圧感を与える存在になってほしいので、髪もヒゲも伸ばし放題にしておいてくれ」と言われたんです。
だから、髪とヒゲは数ヵ月伸ばしっ放しで、結果的には人生で最長のヒゲになりました(笑) その状態で撮影初日のまま半年キープするというルールだったんです。こういう役ですから、ヒゲをトリムして都会的になるとキャラクターに合わないので、伸ばすだけ伸ばして現場に行きました。まあ、それも面白い経験でしたね(笑)
エピソードが進むと、ある事実が判明して、主人公たちと手を組んでいくという、そういった展開の面白さもあるんですが、だからといってあからさまにキャラクターが変わってしまっては、薄っぺらになるんです。その変わり具合や、段階の踏み方というのが、非常に難しいところでもあり、面白いところでもありました。
――今回はジャングルでのガン・アクションなど、マイケル・ベイ作品らしい派手なアクションが多かったですね。
最初の話では、「全部、部下が戦うから、お前は偉そうに指示だけしてくれ」と言われていて、僕の役はアクションがなかったはずなんです。でも、展開が進んでいくうちに、台本では銃を持っていて、撃つシーンがあるんですよ(笑) アメリカの撮影では空砲ですけど本物の銃を使用しますから、それで慌てて射撃場に行って、脚本に書かれていた種類の銃で練習をしたんです。それで撮影当日になったら、小道具さんからマシンガンを渡されたんですけど、台本にはマシンガンなんて書いてないんですよね(笑) 射撃場で練習してた時に、隣でマシンガンを撃ってる人がいて、うるさいなと思っていたら、まさか自分がそれを撃つことになるとはと、やっておけば良かったなと反省しました(笑)
でも軍隊出身の専門トレーナーが来てくれたので助かりました。撮影の朝一から訓練が始まって、教官がOKを出してくれるまで銃の扱い方の練習をして、それから撮影に臨みました。
――そういう練習や訓練があるからこそ、迫力あるガン・アクションシーンになっているんですね。
過去には何度も銃を扱う撮影はあったんですが、マシンガンは初めてでした。やっぱりあの感触というのは、少年の日々を思い出すようなワクワク感がありましたね(笑) もちろん緊張感はありますけど、実際の銃を撮影に使うということは、アメリカでしかありえないわけですから、その面白さは感じました。それとガン・アクション以外にも、終盤には意外なアクションがありますので、そこも見どころですね。
――本作はアメリカ海軍の全面協力など、TVドラマの枠を超えた作品です。
ファースト・シーズンとセカンド・シーズンを見た時に、実際にその話も聞いてましたけど、その映像が非常にスケール感の大きい、迫力のあるものだと感じました。それこそ、マイケル・ベイらしい作品だと思いましたね。実際の駆逐艦との撃ち合いはあるし、本当にヘリが飛んで来たりとか。そういったスケール感の大きさだけでなく、俳優陣もちゃんと訓練を受けて、軍人になりきっていますしね。アクションも当然派手なものがありながら、そこだけではなく、仲間同士や家族のような人間ドラマをちゃんと描いているんですよね。各登場人物も家族との話があり、そこへの落としどころがうまい作品だと思っていたんですよ。アクションものといいながら、しっかりと人間ドラマを押さえているところが素晴らしいなと思って見ていました。
――サード・シーズンの見どころは?
アジアが舞台になっていますし、アジアを舞台にして戦いを繰り広げる駆逐艦ネイサン・ジェームズのチームと、一方で、ホワイトハウスにおける政治ドラマという、両輪がしっかりと回りながらリンクしていく融合の仕方のうまさですね。
当然そこに、人間ドラマがあって、架空のお話をしていながら、見ている方の誰もが誰かに感情移入ができるようになっています。同じように共感できる部分をしっかりと押さえていながら、あらゆるエンターテインメントの要素を含めた作品ですね。そこが、魅力として皆さんの目に映っているんじゃないかなと思いますね。
――メインキャストであるエリック・デインやアダム・ボールドウィンと共演された印象は?
エリックとはお芝居で対峙するのは初めてだったんです。なので、彼はどういう風に現場にいるのか楽しみだったんですよ。やはり、物語の主人公であり、花形として光を放つ存在ですからね。それに、彼は今回プロデューサーも兼ねてますから、非常に周りのケアや、スタッフのケアをしっかりとしていました。チームワークのでき上がった中に飛び込む側としては、普通は不安になるものですが、彼がいてくれることによって非常にリラックスして飛び込めましたし、僕に対しても十分にケアをしてくれたんです。同じシーンがある時には、トレーラーで一緒に食事をしたりとか、非常に仕事をしやすい空気を作ってくれたので、本当に助かりましたね。
アダムとは、エリックよりも絡むシーンが多かったですね。私は彼のお芝居も大好きですし、現場での見方が職人と言いますか、地味に控えめにしているんですけど、周りにしっかりと目を光らせて、クリエイティブなことから安全面のことまで全部を見守っているんですよ。
エリックとアダムの良いバランスで、現場を良いムードにしてくれるんです。2人の艦長がいて、僕の役柄も元自衛隊の艦長ということで、3人の艦長が一つの部屋に集まる初めてのシーンがあったんですけど、そこでエリックが、私に参加を要請した時に、彼はプロデューサーに「この役を演じられるのは、地球上に1人しかいない」と言ってくれた話を周りに披露してくれたんですよ。そうしたら、無口なアダムがボソッと「いや、宇宙に1人だよ」と言ってくれて、あの無口なアダムが言ってくれたのは嬉しかったんですけど、「...待てよ。人間は地球にしか居ないよね。宇宙で1人と、地球で1人で何が違うんだ?」と思ったんです(笑) そのやり取りは、カメリハが終わって、スタッフ全員の前で言ってくれたんです。心優しくて懐の深い2人と組めたというのは、本当に嬉しかったですね。
――タケハヤの妻役の藤谷文子さんや、アジアが舞台ということで、多くのアジア人俳優と共演された感想は?
タケハヤ率いる海賊のチームには多国籍のアジア人が混合しているんですよね。そのため、現場で統一感を出すというのは、面白くもあり、大変でもありました。妻役の藤谷さんに関しては、純粋に日本人としても、日本人の妻としても、その要素を全て持ってらっしゃいました。非常にシンプルと言いますか、自然体で深みのある存在感を見せてくださったので、僕たちのシーンでは彼女がしっかりと深みを出してくれたと思いますね。そういう意味では、本当に彼女で良かったと思いました。
――撮影ではアメリカTV業界ならではの苦労などはありましたか?
今回はあまりそれを感じなかったんですよ。非常にチームワークが取れてましたし、過去のドラマの経験でペース配分が見えてきたというのもありましたから。台本が撮影前のギリギリに上がってくるというのは、どの国でもどの番組でもTVの場合は同じですしね。軍議をするようなシーンでのセリフも、ギリギリ前日に1ページぐらい渡されることも多かったですね。この作品には、人生で1回も言ったことのないような軍隊とか専門用語も多いので、そういう大変さはありました。
それ以外は非常に良いチームワークの中で、和気あいあいと撮影ができました。そういう意味で、TVということに関しては今まで一番現場を楽しめた作品かもしれないですね。
――日本語吹替版では、ご自身がしゃべっている声に吹替をされていますが、吹替の際に心がけていることは?
自分が出演した作品は、これまでも極力自分で吹き替えるという風に心がけてきました。今回、英語でも専門用語が難しかったのですが、当然、日本語に置き換えても難しいんですよね。なので、何度か噛んだりしながら、頑張りました(笑) 吹替は、言語のニュアンスをいかに吹き込むか、いかに感情を乗せていくかということなんですが、さらに本作ではプラスして専門用語というところで、わりと大変だったような気がしますね。
それと、日本語吹替版には、吹替としてのオリジナルの世界観があると思うんですよ。その世界観を愛する観客の方々がいらっしゃるので、極力現場のニュアンスと思いを伝え、感情を乗せながらも、周りの声優さんたちとバランスをいかに取っていくか、毎回それが吹替を行う際の課題ですね。
その世界観に浸って見てくださる方の邪魔にならないように、そして空気感を乱さないように合わせながら、オリジナルの息吹をどこまで刷り込めるか、それが一番難しいところですが、面白いところでもあります。
ジグソーパズルのピースを1個ずつはめていくような面白さですね。英語のセリフの口に、自分の日本語をあてるんですけど、それこそ、リップシンクから感情の乗り方、周りとのバランスを考えた結果、一つのシーンとして成立した時に、他にはない不思議な充実感があるんです。もちろん、自分の顔に他の方の声があてられるというのは、もしかしたら見ている方に違和感があると申し訳ないので、極力自分でやりたいという思いがあります。それと同時に、この特殊な作業というのは、独特な難しさと面白さがあるので、できる限り自分の声を吹き替えることを続けていきたいと思っています。
――映画・TV業界において、ご自身の今後の展望は?
映画もTVも垣根なく演じてきて、実際に業界そのものの垣根がなくなってきました。どちらにも良さがあり、大作もアート作品と呼ばれるような作品も、『ザ・ラストシップ』のように大ヒットしているTV作品も、良いバランスで行ったり来たりできればなと思っています。それをやっと実現してきたという感じなので、それを続けながら輪が広がっていけば良いのかなと。その点では、TVと映画という垣根も、日本と世界という垣根も自分の中ではなくなっていますし、むしろなくしていきたいという思いです。それで、良い形で、行ったり来たりできればいいなと思っています。
――最後に本作をご覧になる方ヘのメッセージをお願いします。
ファースト・シーズンとセカンド・シーズンをご覧になった方にも、今回初めて見る方にも、サード・シーズンのアジアを舞台にしたダイナミックかつ繊細なドラマを楽しんでいただけると思うので、ぜひ堪能してください。私も伝説の海賊"タケハヤ"という役で、がっぷりと駆逐艦ネイサン・ジェームズのクルーたちと組ませていただきました。ぜひお楽しみください。
■『ザ・ラストシップ<サード・シーズン>』商品情報
ブルーレイ コンプリート・ボックス(2枚組) 11,300円+税
DVD コンプリート・ボックス(7枚組) 9,400円+税
デジタルセル配信中
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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Photo:『ザ・ラストシップ<サード・シーズン>』
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