【ネタバレ】新『ツイン・ピークス』、クーパー捜査官を"深堀"するとさらに面白くなる!

(本記事は、新作『ツイン・ピークス』のネタバレを含みますのでご注意ください)

25年ぶりに奇跡の復活を果たした『ツイン・ピークス The Return』。生みの親であるデヴィッド・リンチ監督が全18話、完全オリジナル・ストーリーでメガホンを取るということで覚悟はしていたが、とにかく予測不可能、いや、予測すること自体が愚行ともいえる展開に、毎週、度肝を抜かれている方も多いことだろう。

現在、第7話まで放送されたが、テンポのいい通常のドラマなら2話で収まる内容を、リンチ節炸裂というべきか"贅沢な尺使い(例えばクーパー的には、延々カジノで遊んだり、ネクタイを頭に乗せてパンケーキを食べたり、急に便を催しトイレに連れて行かれたり...このトホホな時間がファンにはたまらないのだが)"によって、物語に潜む点と点が遅々として繋がらない。

じらされて、じらされて、そしていつしかヤミツキになる、それが"ツイン・ピークス・マジック"なのだが、一番気がかりなのが、クーパー本来の愛すべきキャラクターが未だ封印されていること。ブラックコーヒーとチェリーパイをこよなく愛する、あの親しみやすいFBI捜査官はいつ現れるのか。もしかすると、長年ブラックロッジ(森にある邪悪の巣窟)に閉じ込められて変わり果ててしまったのか。これまで放送された第7話までをより深く理解するために、そしてこれからのストーリー展開に期待を膨らませるために、その"軸"であるクーパー捜査官を今一度、掘り下げてみたい。

本編にいるようで"いない"、いないようで"いる"クーパー捜査官

前シリーズの最終話で、クーパー捜査官は恋人をさらった宿敵を追ってブラックロッジに飛び込むが、なんと25年間も閉じ込められるハメになり、代わりに自分の影である"ドッペルゲンガー"が現実世界に戻ることに。そのドッペルゲンガーこそが、新作に登場するロン毛の革ジャン・マッチョ"ダーク・クーパー"なのだが、彼がブラックロッジに戻らなければ、クーパーはそこから出られない、という因果関係がある。

一方、赤いカーテンの部屋(簡単に言えばブラックロッジと現実世界の間の待合室)で、クーパー捜査官は、前シリーズで殺されたローラ・パーマーから「あなたはもう行っていい」と告げられる。だが、ダーク・クーパーが"ある計画"を画策し、ブラックロッジに戻らないため、自分そっくりの保険セールスマン、ダギー・ジョーンズと入れ替わり、無理やり現実世界に戻ってくる。

ただし、そこには期待していた本来のクーパー捜査官の姿はなく、人間に乗り移ったエイリアンのようなヨロヨロのおじさんが奇行を繰り返すという衝撃の展開。「これは参ったな」と苦笑いするばかりだったが、第7話で、殺し屋に命を狙われた瞬間、鋭い身のこなしで攻撃をかわし、FBI捜査官の片鱗を垣間見せたのだ! むむ、やっと来たな、我らがクーパー! これはもしや、徐々に記憶を取り戻し、ゆくゆくは、ダーク・クーパーと対決するのでは?と勝手に盛り上がっているのだが、果たしてそんなベタなクライマックスをリンチ監督が用意するだろうか?

そもそもクーパー捜査官とはどんな人物なのか?

新『ツイン・ピークス』は前シリーズを観ていなくても、全く問題なく楽しめるが、物語の"軸"であるクーパー捜査官本来のキャラクターを理解しておいて損はない。マニアの方には「そんなことは言われなくてもわかっとるわい!」と怒られそうだが、ここは"まとめ"ということでおさらいを。

公式の「ツイン・ピークス・トレーディング・カード」によれば、カイル・マクラクラン演じるクーパーは、フルネームが"デイル・バーソロミュー・クーパー"、ニックネームがご存知"クープ"。1954年4月19日生まれの牡羊座。ヘイヴァフォード大学、FBIアカデミーを経て、FBI特別捜査官となる。

 

カイル自身の生年月日は1959年2月22日だから、5歳年上の役を演じているわけだが、そういえば、前シリーズ製作時、カイルは「クーパーを演じるには自分は若すぎる」と難色を示していたそう。だが、リンチ監督に説得され『ブルーベルベット』や『ヒドゥン』の若々しいイメージを一新し、ポマードでペッタリ髪を横分け、黒いスーツに肩幅の広いベージュのトレンチコートを羽織って颯爽と登場。最初は確かに背伸び感があったが、ダンディーになる前段階の未完成な感じが妙な"親近感"を醸し出し、地元の保安官や住人たち、さらには視聴者の心も見事に鷲掴みにした。

ちなみに、どうでもいいプチ情報だが、ワシントン大学出身の優等生カイルは、高校時代、交換留学生として短期間だが日本に滞在していた時期があり、通っていた学校が横浜の某私立高校で、なんと筆者の家はその真ん前! 現在も毎日、犬の散歩で運動場近辺をうろついているのだが、「ここにカイルが通っていたのか」と思うと、とても他人とは思えない(...というファン心理をどうかお許しいただきたい)。

新作に影響を及ぼすクーパー捜査官の習慣とこだわり

「ダイアン、2月24日、午後2時15分。これからツイン・ピークスの町に入る」

これがシリーズ1・序章におけるクーパー捜査官の歴史的第一声。マイクロテープレコーダーに逐一報告する姿から几帳面な性格が垣間見えるが、それはホテル選びの定義にも見て取れる。「清潔で手頃な値段。ベッドと浴室とそれに電話。早く帰れた日のためにテレビがあればそれでいい。だが、ホテルの真価が問われるのは、モーニングコーヒー」と、今から思えば、なんら特別なことは言ってないが、彼の常宿となるグレート・ノーザン・ホテルの"315号室"は、クーパーの望みを心から満たした。

ダイアンといえば、新作でそのベールをついに脱ぐのだが、まさか『ブルーベルベット』でカイルの恋人役を務めたローラ・ダーンだとは予想外! もともと筋金入りのリンチ・ファミリーで、『ジュラシック・パーク』シリーズに魂を売ったと思っていた彼女がこっちの世界に戻ってきてくれたことは嬉しいが、「(クーパーとの)あの夜のことは忘れない」という意味深発言が、後半、どう生きてくるのか興味津々。

さらに"315号室"も、多分、新作の"鍵"を握ることになりそうな気配。25年間、クーパー捜査官のスーツのポケットに当時のルームキーが眠っていたわけだが、ホテルのオーナー、ベンジャミン・ホーン(『ウエストサイド物語』のリチャード・ベイマー!お元気そう!)が不気味な音を聞きつけて、「そういえばクーパー捜査官が撃たれた部屋だ」と、こちらも布石となりそうなセリフを吐いているが、さて、どうなるものか。

愛すべきクーパー捜査官の嗜好と性格

トレーディング・カードによれば、「ティーンエイジャーの頃、クーパーは射撃で満点を取り、ボーイスカウトの最高ランクであるイーグル・スカウトの称号を与えられた。この経験によって彼は、人間と環境に対する理解と洞察力を養うことができた」とされている。確かにクーパーは、池でアヒル(字幕はカモ)が泳いでいるだけで感動し、気になる木がダグラスモミ(字幕はベイマツ)だとわかると喜びではち切れそうな笑顔を見せる。そうかと思えば、ボディランゲージだけで"男女の関係"を見抜いてしまう大人の部分も併せ持つ、実に特異な人物だ。

それだけじゃない。タキシードをスマートに着こなし、カジノで007並みの雰囲気を醸し出すが(新作ではダギーと入れ替わったクーパーがカジノで大暴れ!)、お好みは洒落たワインやウィスキーではなく、淹れ立てのブラックコーヒーと甘〜いチェリーパイ。毎朝、健康ぶら下がり棒で血流を良くし、時には瞑想に耽り、夢から学んだ演繹(えんえき)法的テクニック=ビンに石を当てて犯人を特定するという不思議な捜査法=を保安官たちに真顔で伝授したりする。

It's #NationalDessertDay and it is our civic duty to eat a slice of cherry pie. #twinpeaks

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何があってもサムアップ! 常人には理解できない次元を生きているクーパーは、もはや宇宙人クラス。だが、完璧でないところがまたクーパー。頭に美しすぎる寝グセをつけたり、クッキーをつまみ食いし「お茶が入るまで待ちなさい!」と丸太おばさんに叱られたり、背中に巨大な「FBI」のロゴが入ったジャケットで潜入捜査を試みたり、ちょっぴりおバカな"お子ちゃま感"が時折、顔を出し、クーパーをぐっと魅力的な男に演出しているのだ。先ほども述べたが、未完成なダンディズムこそ彼の真骨頂。それが新作には一切出てこない...と、今まで思い込んでいたのだが、いやちょっと待てよ、もしかして、ダギーと入れ替わったヨチヨチ・クーパーは、お子ちゃまクーパーを超デフォルメした存在だったりするのだろうか(考えすぎ?)。

シリーズを通して全く変わらず継承されている生活習慣もある。例えば、コーヒーカップの"持ち方"だ。取っ手の部分をサムアップで鍛えた(?)親指でしっかり押さえて固定し、脇をやや広げ独特の角度で飲むその姿は、前シーズン、最新作、さらに7月に来日したカイルをインタビューした際も変わらなかった。おいしいとちょっと悪魔的な笑顔を見せるが、生臭いコーヒーを飲むと、我を忘れてパニクる(笑)ダギーと入れ替わったクーパーは、1度コーヒーを(まずくて?)吐き出しているが、インタビュー時にカイルは、熱かったのか、濃かったのか、コーヒーに水を入れているのを目撃した。こ、これは! 25年目にして新たに知った『ツイン・ピークス』コーヒーあるあるの一つにカウントしてもよいのではないだろうか?

というわけで、だんだん何を書いているのかわからなくなってきたが、こうやってクーパー捜査官をひも解いていくと、別世界に行ったと思われていた新作が、実は前シリーズと濃密に繋がっていることがよくわかる。『ツイン・ピークス』は、なんだかんだ、クーパーありきの物語。彼の些細な言動や変化を注視しながら、中盤、後半を存分に楽しんでみてはいかがだろう。

Photo:『ツイン・ピークス The Return』"TWIN PEAKS": ©Twin Peaks Productions, Inc. All Rights Reserved.