『テッド』クリエイター、セス・マクファーレンが"SF愛"を注いだ最新作『宇宙探査艦オーヴィル』

中年テディベアが大活躍するコメディ映画『テッド』を世界中で大ヒットさせた、セス・マクファーレンが製作総指揮・主演を兼ねるSFコメディ・ドラマ『宇宙探査艦オーヴィル(原題)』がこの秋から全米放映スタート。

Just landed: #TheOrville Season 1 art. All aboard the U.S.S. Orville.

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『宇宙探査艦オーヴィル』は、セスが個人的に大ファンの『スター・トレック』を大いにパロディ化していることがまた注目を集めている。タイトルにもなっているオロヴィルというのは、『スター・トレック』でいうところのエンタープライズ号なのだが、オロヴィル号は意図的にショボい。乗組員たちもアル中の操縦士から、『スター・トレック』のクリンゴン人に格好が似ていて、男女両方の性別を持つ乗組員など、連邦宇宙局の変わり者隊員たちで構成されたメンバー。セスが演じるのはバツイチで人生に迷うエド・マーサー艦長。

第1話では、人材不足で空席だった副キャプテンの座にエドと別れた元奥さんのケリーが着任することになり、とんでもなく気まずい空気がコントロール室に流れる、という設定。

Welcome aboard #TheOrville. We"ll see you this fall on FOX.

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大のSF映画ファンとして知られているセスにインタビューをする機会があり、この新番組が出来るまでの経緯を聞いてみた。「『スター・トレック』のようなTV番組はずいぶん長い間作られていなくて、いちファンとして寂しかった。でも近頃になってそういった番組を作る機が熟してきたと感じたんだ」

60年代後半当時の世相をさりげなく風刺して、それぞれのエピソードに反映させたクリエイターたちの賢さはいまだにファンの間で語り草だ。若い世代は「『スター・トレック』が、元から劇場用映画だと思っていた人たちも多いのではないか。1966年に開始したこのTV番組は3シーズン後に終了してしまったものの、むしろ70年代に入ってから人気が再燃してカルト的存在となり、劇場版シリーズにはじまり、『新スター・トレック』、『スター・トレック エンタープライズ』など続々と新たなTVシリーズも製作され、近年では人気監督 J・J・エイブラムによる、映画『スター・トレック』の新シリーズ化が大成功するなど、その人気はここのところますます盛り上がっている。

元祖『スター・トレック』の大ファンだったセスは、昔から「ああいう番組を作りたいと思っていた」と言う。「SFドラマの中で世相を風刺したり現代の社会問題に触れるということをしていた『スター・トレック』や『トワイライト・ゾーン』のような番組がこの20年ほど全くない状態だった。その空いているところに(『宇宙探査艦オーヴィル』が)入らせてもらったんだ」

 

セスの言葉を聞いていると非常に頭のいい人だということが伝わってきて、成功すべくして成功している人だと言うことがわかる。TVアニメ『ファミリー・ガイ』の人気、『テッド』、『テッド2』の大ヒット、そして2013年のアカデミー賞授賞式ホスト抜擢など、キャリアが順風満帆だったセスは、その時期を利用して『宇宙探査艦オーヴィル』のアイデアを番組作りの権限がある関係者たちに話し始めたという。「その過程で、番組を一緒に作ることになったここにいる皆に出会えて本当に幸運だった」と嬉しそうに語る。「この新番組で共演することになった皆は、本当に優秀で主要キャラが8人いるんだけど、どの人にエピソードを丸ごと任せても問題なくこなせてしまう力量がある素晴らしい才能を持った人たちなんだ」と褒めちぎったあと、「でも、これ以前の共演者を下に見てるわけじゃないよ!(笑)」と彼らしい気遣いも見せる。

日本でセスは、「テッドの声をやった俳優」くらいの知名度でまだ顔は知られていないが、アメリカではかなりのセレブ。筆者がセスのことを知ったのは、『ファミリー・ガイ』を見たときで、かれこれ10年以上前のことだ。『シンプソンズ』をもっと"大人向け"にした『ファミリー・ガイ』で、放映禁止じゃないの!?というような辛口ネタを満載した人気アニメが大いに好きになりクリエイターにも興味を持った。とにかく彼の書くストーリーはスマートで面白いのである。

ちなみにセスは、『ファミリー・ガイ』で『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』のギャグをふんだんに登場させている。セスはやがて『ファミリー・ガイ』の登場キャラを『スター・ウォーズ』のキャラクターに仕立てた1時間もののスターウォーズ・パロディ「Blue Harvest(原題)」を放映。全編に『スター・ウォーズ』のオリジナル・サントラを網羅した(これはルーカス・フィルムからの協力を意味する)、そのアニメは見る人が見ると抱腹絶倒のパロディで、マニアの間では伝説的な存在となっている。

『宇宙探査艦オーヴィル』もそうだが、セスの書く脚本は非常にウィットに富み頭のいい人にしか書けないユーモアのセンスがちりばめられている 。インタビューをしていてセスが本作の製作と出演を心から楽しんでいるという様子がひしひしと伝わってきた。幼少の頃から『スター・トレック』の大ファンだったセスが、自分のアイデアから製作されたSF番組で、『スター・トレック』のカーク艦長がごとくキャプテンを演じている。

昔の『スター・トレック』のエピソードに、毛糸玉のようにモコモコの"トレブル"という生物がエンタープライズ号に住みつき、隊員たちがトレブル(=トラブルの引っ掛け言葉!)に翻弄されるという、今でも語り草の笑えるエピソードがあった。そこでセスに、「日本人は、モコモコで可愛いものが好きで、セスの映画『テッド』も大人気だったんですが、『宇宙探査艦オーヴィル』でトレブルみたいなモコモコ生物は出てきますか?」とアホな質問をしてみた。そうすると「そっか〜!日本のファンはモコモコが好きなんだね!ワハハ!」と楽しそうに笑ったあと、「わかった!じゃあモコモコなクリーチャーを出演させることを検討するね!」と約束してくれた。(笑)

インタビューが行われた日はプレス・デイといって、世界各国から集まったレポータたちが個々のテーブルに分かれて質問をするというお膳立てだった。かなり長丁場だったのにも関わらず、疲れた様子も見せず終始明るい表情をしていたセスは、夢を達成した少年のように無垢な輝きを放って見えた。

(文・取材: 明美・トスト / Akemi K. Tosto)

Photo:セス・マクファーレン
(C)AVTA/FAMOUS