「黄金期」迎える米テレビドラマ 映画スターが次々と進出する理由とは?

ここ数年、海外ではケーブルテレビ局や映像ストリーミング配信サービスが独自に制作するドラマが好調だ。ファンタジー小説シリーズを原作とした、ケーブルテレビ局の老舗HBOによる『ゲーム・オブ・スローンズ』などは社会現象とも呼べる人気ぶりで、放映を見逃したらネタバレの書き込みを読んでしまうことを避けるため、FacebookやTwitterなどあらゆるSNSを避ける人も多く現れている。そんな視聴者の傾向を追うように、これまでは映画館のビッグスクリーンでしか見ることのなかった名優たちが、茶の間の画面に登場するようになっている。

【関連記事】なぜ米国業界はTVドラマ製作に巨費を投じ続けることが可能なのか!? 

◆黄金期を迎えるドラマ
「"テレビを点けて、映画が流れているのかな?"と思ったことはないですか?」として、この現象に焦点を当てるのは、テクノロジーを中心とするライフスタイルニュースを提供するデジタル・トレンドだ。

確かに、家に帰ってテレビをつけ、出演俳優の顔だけを見て映画だと思っていたらテレビドラマだったという経験は少なくない。筆者のお気に入りのドラマだけを例に挙げても、『24 TWENTY FOUR』(キーファー・サザーランド主演)、『ザ・フォロイング』(ケヴィン・ベーコン主演)『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(マシュー・マコノヒー主演)そして、『エクスタント』(ハル・ベリー主演)と、よく見ればどれも著名な映画スターが主演している。

億単位の制作費をかけた映画ばかりに出演していた俳優たちがテレビ局やケーブル局、そして映像配信会社の作るドラマに次々と出演するのはなぜだろうか? かつてあった、映画俳優とテレビスターの間の垣根は取り除かれたのか? そして、この現象を何と呼ぼうか? 多くの俳優はこの現象を「テレビドラマの黄金期」と呼んでいるようだ。

◆テレビ黄金期が作られた理由
インデペンデント紙のインタビューでダスティン・ホフマンは「今、テレビは最も良い時期を迎えていると思う。そして、映画は私の50年のキャリアのなかで、最も辛い時期を迎えている」と語っている。ホフマン自身も、ケーブルテレビ局の老舗HBOで話題をさらったドラマ『Luck(原題)』(*)に主演した。

テレビが黄金期と呼ばれ、多くの映画俳優をドラマに移行させている理由は様々ある。単純に「そこに良い脚本があったから」と説明するのはアカデミー賞受賞女優のジェーン・フォンダだ。フォンダは、映像ストリーミング配信サービスのネットフリックスオリジナルドラマ『グレイス&フランキー』でグレイス役を演じている。

これについて、前述のデジタル・トレンドは、「長い間2軍扱いを受けていたテレビという媒体は、大きなチャンスをもたらすようになった」と書いている。「ケーブル局やアマゾン、ネットフリックス、Hulu、そしてヤフーなどのデジタルスタジオは、実験的な試みを含め、自由なクリエイティビティを実践できる場となっている」というのだ。脚本の面白さ、登場人物に対する深いキャラクター・ディベロップメント、作品の尺(上映時間)など様々な面で、映画にある足かせにとらわれないモノづくりを可能にするのが、今のテレビドラマである。

この魅力に惹かれているのは、俳優だけではない。J・J・エイブラムスなど著名な映画監督もテレビドラマの制作を始めている。

◆今後、あの大物もスモールスクリーンに移行する?
しかし、これほど映画とテレビを分ける垣根が低くなっているにもかかわらず、いまだにその垣根を飛び越えてない人もいる。

ガーディアン紙は、カリスマがありすぎるため最近の映画では見合った役が見つからないとして、テレビドラマに移行すべき数名の有名俳優の名前をあげている。ハリソン・フォードがその代表だ。映画『スター・ウォーズ』シリーズ、『インディ・ジョーンズ』シリーズなどに出演した彼は、今は残り少なくなった真の映画スターであると評する同紙は、その履歴にあった役を見つけたいなら、「ハリソン・フォードはテレビドラマに出演するべきである」と書いている。その他、同紙のリストには、サンドラ・ブロック、キャメロン・ディアス、レスリー・マン、エドワード・ノートンらの名前が続く。

多くの映画俳優がテレビに移行しているのは、確かに映画界の低迷にあるだろう。莫大な制作費を回収する使命がある映画は、どうしても売れ筋タイトルばかりに頼ることになる。そして、ハイビジョンや大型スクリーンで自宅にいながらにして映画の臨場感に近いものを感じることができるようになった今、好きな時に一時停止ができ、誰かがポップコーンを食べたり、ひそひそ話をする音に目くじらを立てたりすることなく鑑賞できるホームシアターを好む消費者も多い。

大物俳優が役の幅を広げるなど柔軟性と創造力のある脚本を求めるなら、今はテレビドラマなのだろう。

(*)『Luck』はシーズン1が放送されて人気を博したものの、シーズン2の撮影中の出演動物の死亡事故により以後のシーズンは撮影中止、打ち切りとなっています。

(海外ドラマNAVI)

Photo:ハル・ベリー
Everett Collection / Shutterstock.com