今月7日(水)よりいよいよDVDリリースされる話題の海外ドラマ『インコーポレイテッド』は、二人の天才によって生み出された。その二人とは、ハリウッドのトップスターとして数々の作品で主演を務めるマット・デイモンとベン・アフレックだ。
1998年、共同執筆した映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でアカデミー賞脚本賞を受賞。以降、俳優だけにとどまらず、製作・監督・脚本でも才能をいかんなく発揮し、近年も、2012年に共同で設立した製作会社「パール・ストリート・フィルムズ」のプロダクションのもと『ジェイソン・ボーン』(16)、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(17)などの傑作・大ヒット作に数多く携わってきた。そして今回、満を持してドラマ界に一石を投じたのが『インコーポレイテッド』なのだ。「この作品は、私たちが語りたい<未来>の全てだ」と強調するマットとベン、二人が本当に伝えたかった未来への"メッセージ"とは、一体何だったのか?
本ドラマは、気候変動によって国が崩壊し、企業が支配する2074年を舞台に、「富」(グリーンゾーン)と「貧」(レッドゾーン)に分断された究極の終末世界を描く"二極化"SFサスペンス。映画界でも、『TIME/タイム』(11)、『エリジウム』(13)など同テーマを扱った傑作が世界を驚愕させ、『エクス・マキナ』(15)『ブレードランナー2049』(17)など、二つの世界の"境界線"を描写したSF大作が話題を集めるなど、今、まさに観るべき"視点"のタイムリーな作品といえる。
まず、着目したいのは、地球が抱えるさまざま問題をベースに敷きつめた脚本の素晴らしさ。オスカーを獲得するなど、脚本家としても超一流のマットとベンが関わっているだけに、その緻密で一筋縄ではいかないスリリングな展開は、次の展開を1分たりとも待てない"やみつき感"に充ちている。環境破壊によって国を滅すほどの気候変動を起こすという大胆なバックボーンのもと、企業の台頭、過剰に進化するテクノロジー、そして「富」と「貧」にパックリと分けられた格差社会は、自然の摂理を無視した暴走を繰り広げ、人間の心は歪み、荒み、そしてやがては崩壊へと導かれていく。
その"二極化社会"の象徴ともいえるのが、グリーンゾーンとレッドゾーンの狭間でもがき苦しむ主人公ベン・ラーソン(ショーン・ティール)だ。レッドゾーン出身の彼には、グリーンゾーンの悪組織に連れ去られた初恋の人エレーナを救出する、という大きな目的がある。だが、その目的を達成するためには、敵も味方も欺きながら、グリーンゾーンの人間に"成りすます"という計画を"本気"で実行しなければならない。プライバシーなどすぐに暴かれる超ハイテク時代、生半可な演技や体裁だけではすぐにバレてしまうのだ。そこでベンは、レッドゾーン時代の仲間の協力を仰ぎながら、プロフィールを完璧に偽装し、ローラという整形外科医と結婚、そして彼女の母で世界を牛耳る会社重役と信頼関係を着々と構築していく。
ところが、ここでやっぱり出でくるのが、主人公の足を引っ張るツワモノたち。ベンを執拗に追いかけ、貶めようと企む同僚の野心家ロジャー、そして鋭い洞察力と冷酷非情な拷問で知られる元軍人の保安部責任者ジュリアンなど、ハイエナの如く彼らは、ほんの一瞬、隙を見せただけでベンを追い込み、彼の正体を根こそぎ暴き出そうとする。「初恋の人を助けたい」その思いだけで、危機を回避してきたベンは、経験を積むたびにたくましく成長するが、グリーンゾーンで家族を営み、会社でそれなりの地位に就き始めると、ピュアな部分が少しずつ灰色に薄汚れていく"人間の性(さが)"が、見え隠れするのもリアルで面白い。
ベンを演じたショーン・ティールは、『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』のルイ・コンデ役などで活躍する注目のイケメン俳優。さまざまな人種が混ざり合うエキゾチックな顔立ちが、グリーンゾーンでも、レッドゾーンでも、完璧に溶け込む絶妙な雰囲気を持ち合わせ、まさに両ゾーンの狭間で奮闘するベンを演じるには最高のキャスティング。さらに日本語吹替版では、アニメ映画の傑作『この世界の片隅に』で主人公すずの夫・周作役を演じ、日本中から絶賛を浴びた細谷佳正が担当。海外ドラマ"初主演"とは思えない落ち着きで、複雑な心情を内包するベンの声を、時には優しく、時には激しく、微妙なサジ加減で演じ切っている。
IT機器やクルマ、マイホームなど、グリーンゾーンに登場する便利さを極めたテクノロジーは、実際に起こりえるリアルな未来観。一方、ドブネズミが徘徊し、食べる物もなく、殴り合いで金を稼ぐ荒れたレッドゾーンは、できれば残したくない地球の汚点。かなりデフォルメされた「進化」と「後退」の対比だが、地球は両方の可能性を残し、未来に向かって突き進んでいる。2074年、果たしてどんな世界が営まれているのだろうか。このドラマを観ていると、全ては人間の"生き方"にかかっているような気がしてならない。マットとベンからの警鐘は、決して絵空事ではないのだ。
■『インコーポレイテッド』商品情報
3月7日(水)DVDリリース
【セル】DVD-BOX(5枚組)...8,900円+税
【レンタル】DVD Vol.1~5
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
文:坂田正樹
Photo:『インコーポレイテッド』© 2017 Fox and its related entities. All rights reserved.