鉄板ジャンル医療ドラマに新たな名作誕生の予感! 共感力に欠ける主人公が大きな共感を呼ぶ『グッド・ドクター 名医の条件』

数多くの名作を生み出してきた鉄板ジャンル、メディカルドラマ。後続番組に今なお強い影響を及ぼしている大ヒットシリーズ『ER 緊急救命室』や、現在もシリーズ更新中の『グレイズ・アナトミー』など10年を超えるロングランヒットとなる作品がある一方、秀作であっても1シーズンでキャンセルとなってしまった作品も残念ながら多いのがこのジャンル。それだけライバルが多く、他作品との差別化のハードルが高くなってしまう医療系作品だが、そんな中、ロングランの期待が高まる注目の新作医療ドラマが『グッド・ドクター 名医の条件』だ。

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韓国の同名ドラマをアメリカでリメイクした本作は、サヴァン症候群で自閉症の医師ショーンを主人公にした異色作。韓国版に則りつつ、アメリカ版ならではのオリジナリティをしっかりと確立した作品に仕上がっている。特定の分野で優れた能力を発揮するサヴァン症候群のキャラクターが登場する作品は映画にも海外ドラマにもあるが、それが人命に直結する医師であるという点が、これまでありそうでなかったポイントだ。

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ショーンの場合、どんなに難しい医学書であっても一度目を通せば覚えてしまう天才的な記憶力と、人体の器官の構造を立体的に把握する驚異的な空間認知能力という、医師、特に外科医にとっては大きなアドバンテージとなる才能を持っている。その一方、他者への共感力に乏しく、人の気持ちをおもんばかった行動が取れないコミュニケーション能力の欠如は、医師としては大きなデメリットだ。患者にとって、命を預ける医師から身も蓋もない言葉をかけられてしまったら、下手をすればそれだけで命取りになる可能性だってある。訴訟社会アメリカにおいて、これは相当ハイリスクだ。そんなあふれる才能と、それと同じだけのハンデを持った主人公の成長物語は、共感力の乏しい主人公だからこそ、メディカルドラマの根幹を成すヒューマンドラマにこれまでとは一味違った不思議な共感力をもたらしている。

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コミュニケーション能力に欠けていても、ショーンに感情がないわけではない。むしろ無垢だからこそ普通の人より好悪はハッキリしていると言える。ルーティーンを壊すことができない彼は融通も利かず、そのせいでトラブルを招くこともしばしば。社会性が欠落した彼の前に立ちはだかる壁は非常に高い。それでもただ医師になるという一心で、その高い壁に何度もぶつかりながら少しずつ他者との関わり方を学んでいく。良くも悪くも裏表がないからこそ、彼の言葉は人の心を動かし、その不器用でひたむきな姿は、確かなリアリティを持ちながら、職場で、学校で、自分の居場所を探しながら懸命に生きようとしている視聴者の心にぐっと迫ってくるのだ。

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その純粋さによって少しずつ味方ができていくショーンだが、空気を読んだ会話ができないがゆえの核心を突いた一言にハッとさせられる場面も多い。同時に協調性のないショーンをハッキリと面倒に感じたり、出世欲のない彼の功績をちゃっかり横取りしたり、利用しようとしたり、その才能を妬ましく感じたりといった、周囲の人間たちの負のリアクションもしっかりと描き、単にきれいごとでまとめるのではなく、あらゆる角度から気付きをもたらしてくれるのも、このドラマの大きな魅力だ。

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もちろん、こうした人間ドラマとしての面白さだけではなく、ショーンの天才性が発揮される医療面での醍醐味も存分に味わえる。クリエイターのデイヴィッド・ショアは人気シリーズ『Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-』を生み出した人物。同作でも病の原因をCGで描写していたが、本作ではショーンの思考をビジュアル化して表現。そうすることで難解な手術の術式もより明確に視聴者に伝わるよう工夫されている。ストーリーには現代社会のリアルなトピックが盛り込まれ、社会派ドラマとしての一面も。大病院で繰り広げられる院長争いといった政治ドラマも見ごたえがある。

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主人公の成長物語で感動を呼び、緊迫感のある医療シーンで盛り上げ、大病院ならではの政治的駆け引きと現実社会を反映した医療現場のリアルを描き、多彩なドラマを展開していく本作。さらにショーン役のフレディ・ハイモアを筆頭に、リチャード・シフら実力派が揃った俳優たちの見事なアンサンブルは、ロングランを期待させるに十分すぎるほど。

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唯一の懸念は、メディカルドラマのロングラン作品は群像劇がほとんどということだ。例えば『ER』のように、明確な主役を立てず複数の主要キャストをメインにした群像劇であれば、視聴率をクリアしていれば後はキャストたちが少しずつ入れ替わっていくことでシリーズを継続していけるが、本作のようにショーンという、彼なくしてドラマが成立しない構成の場合、継続できるかどうかは最終的には主演のフレディ・ハイモアの気持ち次第ということに......。とはいえ、そんな心配をするのはまだまだ先のこと。今は名作に成り得る可能性を大いに秘めた持った本作が、そのポテンシャルを最大限に発揮していくことを祈りつつ、ショーンの成長を見守りたい。

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(文/幕田千宏)

Photo:『グッド・ドクター 名医の条件』
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