シーズン2はこれまでの謎が明かされる&新たなテイストに!『ウエストワールド』クリエイター インタビュー

壮大な世界観と先の読めない展開で米HBOの新シリーズとして『ゲーム・オブ・スローンズ』などを超えて史上最高の視聴者数を獲得し、第69回エミー賞で最多22ノミネートを果たした大ヒットドラマ『ウエストワールド』。先日シーズン3の製作も発表された同作のシーズン2がBS10 スターチャンネルにて5月24日(木)より日本最速独占放送となる。それに先駆けて、企画・製作総指揮を務めるジョナサン・ノーラン(『パーソン・オブ・インタレスト』)とリサ・ジョイ(『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』)が語ってくれた。

――SXSWでの素晴らしいシリーズ再起動、そして記者会見、新シリーズ発表おめでとうございます。いかがでしたか?

ノーラン:今回がSXSW初参加だけど、この作品のフッテージ映像を初披露したのも2016年にオースティンで行われたATXフェスティバルだったんだ。あの時もとても興奮したよ。だから今回またこうしてオースティンに戻ってくることができて嬉しいね。

 

――記者会見でのコメントの一つに、我々が予想できてしまうようなTVドラマを作ることには興味がないから、シーズンごとに世界をリセットさせる、というドラマの設計図をゼロから考案した、というのがありましたね。シーズン2ではどのように前シーズンをリセットしたのでしょう?

ノーラン:チャプターごとに分けつつ、全体としての大きなストーリーを伝えていきながら、それぞれのチャプターも独自のアイデンティティを持つものにする、というアプローチに挑戦したんだ。おそらく各チャプターのジャンルもそれぞれ独自のものになるだろうね。問題はストーリーの伝え方だ。フォード博士っぽく言えば、キャラクター登場させるのにふさわしいタイミングを考慮したストーリーでなければならない。

シーズン1が人工知能とはどんなものか、というアイデアをじっくりと伝える心理的究明だったとしたら、シーズン2はある意味で残酷な革命を描くことになるだろう。これまで自由意思を奪われていたホストたちは、それを手に入れて自分自身で主導権を握り、自分のことを決められるようになった。そうしたら何をする? つまりシーズン2は前シーズンとはテイストも情緒的なものも違ったものになるはずだ。(製作に時間がかかる関係で)おそらく毎年新シーズンを発表することはできないだろうから、まずは見慣れたTVドラマのパターンを踏襲することになると思う。つまり、シーズン1で提起した謎のほとんどに答えを出す。それから、できれば新たに魅力的な謎と次のシーズンへとつなげるいくつかのキーとなる重要な謎を描きたいね。

 

――例えば?

ノーラン:シーズン1で明かされなかった謎の一つが、この世界を作り出したデロス社の本当の狙いだ。シリコンバレーの企業のように、彼らにも収益を獲得するための表向きのビジネスモデルと裏のビジネスモデルがある。パイロット版でデロス社にはこの世界の中で何かを目論んでいることが明らかになった。これがシーズン1からつながっているいくつかの謎の一つで、シーズン2ではその目論見が明らかになる。その素晴らしいエピソード(第4話)を演出したのが僕の妻であり、パートナーのリサ・ジョイなんだ。

――リサ、あなたは丸ごと一話分の演出を手掛けたのはこれが初めてでしたね。

ジョイ:ええ、とても楽しかったわ。

――これほど複雑なドラマのメガホンを取るのはなかなかの大仕事だったと思います。撮影も一筋縄ではいかなかっただろうと推察しますが、いかがでした?

ジョイ:私にはいくつか有利な点があったの。まず何よりも、ジョナサンとジーナ・アトウォーターが手掛けた脚本が素晴らしかった。私は彼らが紙の上に書いたことに命を吹き込んだだけよ。このエピソードではエド(・ハリス)、ジェフリー(・ライト)といったキャストと綿密に作業したわ。彼らの演じるキャラクターをさらに掘り下げて新たなレベルに昇華させるのはとても素晴らしい体験になった。彼らは本当に懐の深い役者で、繊細な才能の持ち主よ。これ以上は望めないほど最高の人たち。それに素晴らしいスタッフが手掛けたこのクレイジーで美しい世界を舞台にすることができた。新たな場所も登場するし、演出するのがとにかく楽しかった。とてつもないアクションシーンもあるのよ。

 

――昔から演出に興味があったのですか?

ジョイ:ずっとチャレンジしてみたかったの。脚本家としても私はビジュアルから入る視覚的思考タイプなの。自分があの世界にいることを想像するのが楽しかった。それにこの作品ではジョナサンがシーズン1のパイロット版と最終話を演出しているけど、それ以外のエピソードでも私たちは衣装からキャスティング、セットに至るまで細かいニュアンスにまでこだわって作り出していったの。ずっと関わっていたから、今回の演出自体もその延長のような感覚だったと言えるわね。あと、準備の2ヵ月前に出産もして......本当にいろいろあった時期だったけど、ジョナサンはいつもとても協力的で支え続けてくれた。子どもの世話と本作の準備をしながら脚本も手掛ける私を助けてくれたの。本当に感謝しているわ。

――お二人から見て、このドラマは女性のキャラクターが多く、女性演出家が揃っていることも重要なポイントですか?

ノーラン:非常に重要だ。シーズン2には3人の実力のある女性演出家が揃っているよ。

ジョイ:そうね、女性の演出家、国際的な演出家が名を連ねていることはとても重要だったわ。でも演出家に限らず、キャストやほかのスタッフにも様々な人が揃っている。多様性こそが私たちの狙いなの。

ノーラン:僕らは多様性の大事さを脚本作業の段階ですでに学んでいたんだ。誰か一人のひらめきを、多くの才能が力を合わせてドラマにしなくてはならない。一人だけで1年に600ページに及ぶ脚本を執筆して10時間分の演出をするなんて不可能だからね。協力し合わないと実現しないんだ。

 

――あなたの分身ロボットでもいない限り、一人でやることなど無理ですね。

ノーラン:分身ロボットは今開発中だよ。でも残念なことに、まだ正しく機能しないんだ(笑) だからみんなでやる。脚本家たちが力を合わせると、とてつもない利点を手に入れることができる。この作品はそうやって生まれたんだ。

本作のようなアンサンブルを執筆する時は、単に才能だけでは無理で、異なるアイデアや様々な視点を幅広く俎上に載せることが不可欠だ。いつも一人の脚本家が一人の登場人物を丸ごと担当するわけじゃない。それではうまくいかないからね。うまくいく時というのは、幅広い視点を備えた大きなグループで作り上げる時だ。様々な意見に耳を傾けて皆がどんな風にその世界を捉えているのかを感じることでさらなる深みがもたらされるし、アイデアも生まれるんだよ。なにしろ、自分たちの存在する世界は本物ではないということに気づいたホストたちのストーリーを描くんだからね。

彼らがいるのは本当の現実ではなく、思っていたものではなかった、ということを悟る姿は、明らかに人間の経験や言動、そして世界観に対するある種のメタファーになっている。だからこそ多様性にあふれた才能のあるフィルムメーカーたちがたくさん揃っていることが必要不可欠なんだ。世界は人々が思っていたのとは違う、というテーマをシーズン1で描いて以来、この15ヵ月間は世界が最も狂気じみていたね。

 

――本作に登場する女性のアンドロイドたちは、性的暴力を受ける被害者から目覚めて反乱軍を率いるようになります。まさに今の時勢にマッチしていますよね。実はあなたたちは預言者なのでは?

ノーラン:残念ながらこの世界が過去も現在も完全に道徳的な場所でないことは、預言者でなくとも分かっていることだよ。

――しかし政治的な問題、例えば「#MeToo」といったムーブメントなどの影響を受けないでいることなどできるのでしょうか? 観る側としてはそうした影響を受けずに観ることなどできないのですが。

ジョイ:私たちにはそれが可能だった。というのも、シーズン2の脚本を執筆したのは、あの一連の出来事が起こる前だったから。というか、ちょうど執筆している間に大統領選はあったけれど、それ以外は時期が違っていたわ。それに大統領選にもあの結果自体にも驚きはなかったけどね。あの一連のムーブメントの前から、私たちはすでにそうしたことがあることを知っていた。最近になって広く話題になっただけで、今に始まったことじゃないわ。おそらく時には内輪だけで語られたり、時にはタブーだったりしたんでしょうね。でもいつの時代も、芸術や文学、フィクションというものは、人々がまだ声を上げていなくても、そこにある真実、時には醜い真実を表現するための方法なの。

人間の本性を考察するという点では私たちがしていることも同じよ。醜さを認めることなしに、本当の人間の本質は伝えられないわ。だから不公平さや虐待が存在するの。何かを正確に理解するためには、きちんとした評価をしなくてはならない。私たちはこれまでもこれからもその姿勢を続けていくわ。

 

ノーラン:その通りだね。ドロレスがよく口にする言葉に「暴力を愉しめば暴力的な終わり方をする」というのがある。これは僕らの言葉じゃなくてシェイクスピアのものだ。カルチャーはある一面だけを見せるけれど、その奥底には人間の複雑さや醜さが隠されているという僕らのストーリーのアイデアは別段目新しいものではないのさ。SFを描く上での利点の一つは、この世界のことは適切な角度から捉えてさえいれば、少し描くだけでも伝わるということだ。むごい現実をいちいち細かく正確に描く必要はない。とはいえ、人間の本性がどんなものかや、いかにして我々はこんなに壊れてしまったのか、というテーマはちゃんと描いているけれどね。

ジョイ:シーズン2の興味深い見どころの一つは、登場人物の誰もが、新たなテクノロジーに対して、もしそのテクノロジーがハッキングされたらどうなるのか、と大きな恐れを抱いている点よ。そこで私の頭に浮かんだのはもっと差し迫った恐怖で、もしこれらのテクノロジーが人間をハッキングしたらというアイデアだった。なぜなら人間をハッキングするのってとても簡単なことに思えるからよ。近年のメディア、変遷するメディア、とりわけソーシャルメディアの世界を見ているとね。

『ウエストワールド』には綿密に計画された偽の現実、偽の過去に生きるホストたちが登場する。彼らは嘘を信じるように教えられている。現実世界に置き換えてみるなら、ロシアに干渉されたFacebookのフィードさえあれば、人間の性としていとも簡単に嘘を信じてしまうということよ。私たちは自分で思うよりもずっと、テクノロジーを通じた操作を受けやすいということなの。

 

ノーラン:特にアメリカでは技術革新を推進する一方で、止まることをしない。しかもそれを信頼している。規制も止まることも好まないんだ。オースティンでも同じことを言ったけれど、もしAIの発展をソーシャルメディアの発展と同程度にしか考えていないとすれば、僕らは終わりだ。

このドラマの中でも、シーズン1でフォードがアーノルドに起こったことを憂慮しているというメタファーとして描かれている。ナルキッソスの神話にも少し似ていて、アーノルドは自分で生み出したドロレスに恋してしまったんだ。我々も様々なテクノロジーを開発してきた。そして非常に優秀で善意の人々が何人もそうした会社で働いているが、彼らは予算も実績もある世間的によく知られた名のあるシステムの保護のもとで働いているに過ぎない。彼らはエコーの湖の深い穴にどっぷりとはまってしまった子どもたちのことなど立ち止まって考えたりはしない。インターネットといえば、ウィキペディアや未来技術を連想しただろう。最初は世界中に真実が拡散されると感動したはずだ。ところが、そのうちに誰もが自分に都合の良い"真実"にアクセスするようになった、だろ? そしてこんなものは真実でも何でもなく、害をもたらすだけのクソだと気づくんだ。

 

――本作の設計図があるそうですが、その設計図はどれほど先まで広がっているのでしょう?

ジョイ:現在、ポストプロダクション中よ。でもまもなくシーズン3に着手するわ。私たちは夫婦だから、もう夕食を挟んでお互いをじっと見つめ合うよりも、子どもの話をひと通りしたら、お天気の話を長々としてもいいけど、それよりも常にAIのことを話しているわ。

ノーラン:大半のことはパイロット版を作った時にいろいろと話して詰めたんだ。その時に設計図の必要性を感じて、大体はそれに沿っているよ。TVドラマの良い点の一つは、役者が期待に応えてくれたり、優秀なデザイナーや脚本家が素晴らしいアイデアを提案してくれることだ。そうすることで少し回り道をしたり時間をかけてキャラクターやシーンと向き合う機会になる。とはいえ、到達するべき目的地に変更はないけれどね。

――すでに目的地、最終目的地の構想は出来上がっているのですか?

ノーラン:ああ、出来上がっていないといけないと考えているよ。

 

『ウエストワールド』シーズン2はBS10 スターチャンネルにて5月24日(木)よりスタート。

Photo:『ウエストワールド』シーズン2
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