米HBO『メディア王 ~華麗なる一族~』NYの富豪一族がスリリングな権力争い 巨大メディアを継ぐのは?

米HBOの『メディア王 ~華麗なる一族~』は、巨大メディア・コングロマリットを経営する一族の生活を描いたフィクション作品。「相続」「継承権」を意味するタイトル通り、一大メディア企業が誰の手に落ちるかをめぐる駆け引きから目が離せない。頑としてCEOの座を譲らない父親と、彼の引退を意識し虎視眈々と次期トップを狙う子どもたち。金と地位への執着を見せる富豪一家の駆け引きが、スリルの中に哀愁を誘う。

◆引退を翻したCEO v.s. 執念の一族

ニューヨークに本拠を構える複合メディア企業のトップを務める富豪、ローガン・ロイ(ブライアン・コックス『戦争と平和』)。自らの能力のみを信じる彼は、引退を表明する予定だった誕生日のパーティーの席で、向こう5年間はCEOの座に留まることを発表する。CEOになる予定だった息子のケンドール(ジェレミー・ストロング『グッド・ワイフ』)をはじめ、縁故による昇格を期待していた4人の子どもたちは混乱。そればかりか叔母に権力を与える発言も飛び出し、一族は緊張と波乱の渦に巻き込まれる。

本作は、富豪の暮らしぶりにシニカルな視線を注いでいるのが特色。野球場のシーンにて、一族の一人のローマンは、ホームランを打てば100万ドルを支払うとラテン系従業員の息子に約束。金持ちなりの応援かと思えるのも束の間、三塁打に終るや否や、子どもの目の前で小切手を破り捨てるのだった。『メディア王 ~華麗なる一族~』は、頑固な実業家とその権力の継承を狙う家族が、上流階級ならではの世界観を垣間見せてくれる作品だ。

◆家族間の緊張 父と子らの悲哀

本シリーズはエッジの立ったキャラクターが画面を賑わせる。米Vultureは父親のローガンを、ミーティングを「失せろ」の一言で終わらせる強烈な人物として紹介。何かと知識をひけらかすローマン、人を操る術に長けたシヴなど、一癖も二癖もある人物が目白押しだ。

豊かなキャラクターに支えられたそのストーリーは、堅実で安定している。ドラマのプレミス通り、金銭を巡って家族関係が悪化するという展開がよく描けている、と評価しているのは米Varietyだ。

こうした構図はコメディー作品によく見られるが、本作はそれ以上に深みのある人間ドラマとして成立している。Atlanticは、子どもたちは同情できるような悲しみを内面に秘め、どこかで父親の愛を求めていると分析。一方の父親は、自らの築いた富を苦労なく引き継ごうとしている子どもたちを憎んですらいる節があり、家族間のすれ違いが物哀しい。

◆スタートダッシュは遅めだが、耐える価値あり

シリーズは後半に進むにつれ盛り上がりを見せるが、冒頭数話の単調さは課題。米TV Guideでは、甥のグレッグ(ニコラス・ブラウン『フリークス・シティ』)の立ち位置が第4話まで判然としないなど、シリーズ前半の弱さを指摘している。

Atlanticもシーズン前半について、眉をひそめるような会話や辻褄の合わないシナリオのオンパレードだと敬遠。しかし、ストーリーの基盤が確立してからの後半は、一変するとの評価だ。「忍耐力のテストではあるが、その価値はある」とは同誌の弁。

富豪一家の地位争いというテーマは繰り返し描かれてきただけに、既視感を訴える声も聞かれる。Varietyは、部下たちを粗末に扱うことで権力を示すロイ一族の姿を、『ゲーム・オブ・スローンズ』で家族から嫌われながらも知性に活路を見出すティリオン・ラニスターのようだと表現。スリリングであると同時に、やや見飽きた感もあると述べている。

一方、Vultureは対照的に、既存のドラマとは一線を画すとコメント。上流社会の登場するドラマは山ほどあるが、本作は冷血な金持ちを単純に美化した作品ではない。欠点を抱えながらも巨大メディア企業の統率に挑む一族をテーマにした、面白くも鋭い観察眼を備えた物語になっている。(海外ドラマNAVI)

Photo:『メディア王 ~華麗なる一族~』プレミア
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