事件の真相に迫る犯罪ドキュメンタリーは今でこそおなじみの形式だが、Netflixの『ザ・ステアケース ~階段で何が起きたのか~』はこのジャンルの先駆けとなった作品。2004年にいち早くこのジャンルを切り拓き、13年後の今年になってなお3話の新章を追加するという、アカデミー賞受賞監督による入魂のシリーズだ。
◆事件ですか? 事故ですか?
ドラマの中心人物となるのは、豪邸に住む小説家のマイケル・ピーターソン。ある日彼は階段から転落した妻キャスリーンが倒れているとして、緊急ダイヤル911に通報する。駆けつけた警察が目にしたのは、壁と床に飛び散った大量の血痕。単純な転落とは考えにくく、当局はマイケルによる殺人を疑う。
裁判では弁護団と共に無罪を主張するマイケルだったが、バイセクシュアルという側面が明かされ、それがキャスリーンとの口論の元になったのではと疑われる。さらに、血まみれの現場に加え、彼女の頭部に残された7本もの裂傷も転落事故としては不自然。また、夫婦の5人の子どものうち、マーサとマーガレットは養子として迎えられているが、その実の母エリザベスは1985年に死亡している。遺体はちょうど今回の事件と同様、頭部に傷のある状態で階段下で発見されているが、これは偶然の所業なのか。父の無罪を確信する子どもたちの願い通り、マイケルは殺人の疑いを振り切れるのだろうか?
本作は2004年に公開された8話に加え、2013年の追加エピソード2話、そして本年公開の3話と、計13年にわたる13話で裁判の行方を追う。
◆犯罪ドキュメンタリーの先駆け
監督はフランス人のジャン・グザヴィエ・ド・レストラード。レストラードは犯罪ドキュメンタリー『日曜日の殺人事件』で、アカデミー賞のドキュメンタリー長編賞を受賞。監督以下、製作チームの熱意を欧米メディアが絶賛している。
シリーズ全話は384分という大ボリュームだが、ノンストップで観てしまうほど衝撃的な事件だと評するのは米Wall Street Journal(以下WSJ)。被告側弁護団の打ち合わせ風景はもとより、カメラは刑務所内や家族のプライベートな会話にまで立ち入り、事件をあらゆる角度から映し出す。質の高いドキュメンタリーは、まさに監督の粘り強さと芸術性の賜物であろう。
米New York Timesも、思わず引き込まれて「イッキ見せずにはいられない」とコメント。悪趣味な野次馬としてではなく、思慮深くかつ知的好奇心をくすぐるような本作内容を特に評価している。911への通報の音源テープや深夜の弁護士との打ち合わせの様子などの臨場感を煽る素材だけでなく、キャスリーンの母の墓を訪れる家族の姿などを丹念につないだ編集がされている。
本シリーズはアメリカで2004年に最初の8話が放送され、最近人気の犯罪ドキュメンタリーのひな形を確立した。2時間ものが多かった当時、シリアスな犯罪を複数のエピソードで追った構成は異色。ドキュメンタリーのみならず、フィクションドラマのスタイルにも多大な影響を残したシリーズとなった。
◆真相は何処
惜しむらくは本件がいまだ調査中であり、ドラマでも真相が明らかになっていない点。それでも英Telegraphが取り上げているように、裁判にまつわる興味深いディテールは存分に視聴者を楽しませてくれる。証拠物件に付着していたクモの巣を撮影する場面では、万全を期すためプロのフォトグラファーを雇ったことで法外な支出に。また、裁判を有利に運ぶため陪審員の前で『サウンド・オブ・ミュージック』の歌を披露するよう被告マイケルがアドバイスを受けるなど、意外なディテールが満載。家族や弁護団と寝食を共にしたという撮影チームの労が報われ、抜群のリアリティに仕上がっている。
(以下は、本作のネタばれを含みますのでご注意ください)
最新の3話では、公判終了後に浮上した新たな仮説を紹介。WSJが紹介しているその仮説とは、キャスリーンがフクロウの襲撃を受けて階段から転落死したというもの。鋭い爪を考えれば、頭皮の裂傷と大量の出血にも納得がいく。凶器が発見されていない点とも辻褄が合うことになるが、真実は果たして――。
一家を転落に導いた事件の真相を追った『ザ・ステアケース ~階段で何が起きたのか~』は、全13話がNetflixで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』