奇才デイヴィッド・リンチが1990年代に生み出した伝説的ドラマ『ツイン・ピークス』。そのシリーズが新作『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』(以下『リミテッド・イベント・シリーズ』)として25年ぶりの復活を果たし、再び世界中に大きなムーブメントを巻き起こしている。
そのブルーレイ&DVDが7月4日(水)にリリースされるのに先駆けて、旧シリーズの時から日本語吹替え版を担当してきた声優の皆さんへの直撃インタビューを2回に分けてお届け! 2回目の今回登場いただくのは、ツイン・ピークス保安官事務所になくてはならない存在であるアンディ・ブレナンとルーシー・モランの声を旧シリーズからそれぞれ担当する幹本雄之さんと安達忍さん。25年ぶりの思いや、旧シリーズで恋人同士だったアンディとルーシーのその後を語ってもらった。
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――25年ぶりに新作が作られることを聞いた時の心境はいかがでしたか?
幹本:25年の空白を埋めてくれるのかなと期待しましたね。
安達:デイヴィッド・リンチは時間の概念というものにものすごくこだわる人じゃないですか。25年という時間ではありますけど、時の流れについて私たちが考えているような概念では彼は感じていないのかなと思いました。
幹本:そうだね。
安達:時空とか、場所とか、そういうことはすっ飛ばして、いろんなことを進めていくという感じでしょうか。ローラが「25年後に会いましょう」と言ったのも、一つの符合に過ぎなかったのかなと思っちゃいますよね。でも、キッチリ変なところで几帳面でね。
――「25年後に会いましょう」というセリフが旧シリーズのラストにあって、それから25年後に続編が作られるというのは本当にすごいですよね。
安達:本当に約束を守ったんだと思って、逆にびっくりしました。嬉しかったですよ。『リミテッド・イベント・シリーズ』で私が呼ばれたということは自分の役が出るということなので、「どういう風に出るんだろう?」という楽しみもありましたね。
――『ツイン・ピークス』といえば、オープニングで流れるテーマ曲も印象的でしたが、『リミテッド・イベント・シリーズ』で25年ぶりにあの曲を聴いた時はどんなお気持ちでしたか?
幹本:あれは本当に古巣に戻ってきたんだなという思いを抱かせるよね。
安達:そうそう!
幹本:いいリズムというか、テンポというか。すごく心穏やかにしてくれる音楽だなと。僕、あの音楽が本当に好きなんですよ。
安達:音楽ってその時代にスッと戻ることのできる力がありますよね。理屈抜きで、『ツイン・ピークス』の吹替を収録していたスタジオのあの時代の人たちが走馬灯のように思い浮かぶんですよ。どこかちょっと寂しいというか、独特なベースの曲ですよね。なんとも言いようのない気持ちになります。
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――旧シリーズを吹替えされていた当時、『ツイン・ピークス』の魅力や面白さなどについてどのように思われていましたか?
安達:WOWOW開局記念に合わせての放送として、鳴り物入りという意味合いもあって、すごく話題になっていましたよね。呼ばれた役者さんたちも声優の世界で本当に素晴らしい方たちばかりでした。しかも、人数が半端な数じゃなかったので、これはちょっと大変な番組だなと思っていました。当時、私なんかまだ若手の部類でしたから(笑)
幹本:不思議な空間の中に連れて行ってくれるというのかな。幻想を抱かせるというか、想像力やイメージを豊かにするとか、そういう風なことを感じさせてくれるデイヴィッド・リンチならではの作品でしたね。
安達:単純な刑事サスペンスものではないんだな、というね。でも、最初の頃は普通の刑事サスペンスだと思っていました。第2シーズンから急に不思議ワールドになったじゃないですか。だから、ここだけの話ですけど、ちょっと話についていけないなというのがありました(笑)
幹本:本当にそうだよね。
安達:デイヴィッド・リンチを知っていたら、きっと「ああ、そっちに行ったのか」と思うんでしょうけどね。
――デイヴィッド・リンチの映画を好きな方は、逆に第1シーズンの刑事ドラマとしての普通な展開に驚いたかもしれませんね。
安達:逆にね。デイヴィッド・リンチの作品を知っていて『ツイン・ピークス』を見ていた人は、なんでこんなまともな筋書きなのかと思ったでしょうね。ベタな青春モノ的要素もありますし。私自身はあの時代はちょうど青春モノとして『ビバリーヒルズ高校白書』の吹替えをしていたので、ちょっとシンクロするところがあったんです。「そうか、アメリカってこういう雰囲気なんだな」というね。だから、『ツイン・ピークス』も同じだと思っていたら、だんだん作風が変わってきたから「えー!?」と思いました(笑)
――新作の吹替収録で25年ぶりに集まったみなさんとの収録現場の雰囲気などはいかがでしたか?
幹本:それはもう25年ぶりということで、四半世紀も年を重ねてきたわけですからね。とにかく全員が集まった時には「うわー!!」となりましたよ。
安達:仕事場の挨拶も、普通なら「おはようございます」で済むところを、立ち上がって「うわー!!」と手を取り合ったり、抱き合ったりね(笑)
幹本:そうそう、「久しぶりだねー!」ってね。
安達:普通の作品なら、そんな挨拶はしないですよ。
幹本:そうだよね。それでも仕事に入ればいつもと全然変わらないですね。
安達:今では全員がベテランになって、なかなかお会いすることがなかったりするので、本当に幸せですよ。このメンバーで、しかもこの人数でということで、すごく幸せでしたね。それと、新キャストの人たちとのアフレコは新鮮でした。若い子でも、親御さんと一緒に『ツイン・ピークス』を見ていて、すごいフリークの子もいるんですよ。参加できるなんて信じられないと言っていた人もいましたね。それから、「これってどういうことですか?」と質問されても、「質問しないで。分からなくていいから」みたいに思っていました(笑)
――ご自身が声を当てるキャラクターについて、25年ぶりに見てどう思われましたか?
幹本:25年ぶりということですが、向こうのキャストも僕らも同じだけ時間が経っているわけですからね。そういう中でのスタートだから、またそこから始めればいいんだなという考えでした。そうしないと、演技に迷いが出てしまうんですよね。
安達:「変わってないね」とかじゃなくて、良い意味でやっぱりどこか変わっていないんですよ。私たちもオリジナルキャストも、見た目は老いていますけど、きっとメンタルなところは、「あー、あなたもね」と共感できるところがありますよね。「あなたもそうだよね。ここは変わってないよね」という感じで。だから、スッと役に入れた部分はあります。
幹本:そうそう。こういう仕事をやっているとスッと入れるんですよね。
安達:ずっとやり続けていなくてもね。だから、久しぶりに会えてすごく嬉しかった。「ルーシーはどうしているんだろう」って思っていたから。
――アンディの髪型はあまり変わっていませんでしたが、ルーシーは髪を下ろして少し落ち着いた雰囲気もありました。
幹本:アンディはそうでしたね。
安達:ルーシーはちょっとイケイケなところがあって、旧シリーズでも中尾隆聖さんが声を当てていたリチャードとのエピソードがあったり、ミス・ツイン・ピークス・コンテストの舞台でダンスを披露したりね。25年ぶりにどうなるのかなと思ったら、良い感じで落ち着いていました(笑)
――『リミテッド・イベント・シリーズ』では、アンディとルーシーは夫婦になっていて、彼らの息子であるウォリーも登場しますね。
安達:幹本さんも私もウォリーの登場シーンがすごく好きなんですよ。ウォリーが登場した時のアンディとルーシーのウキウキする姿は笑えますよね(笑)
幹本:モヤッとしたものじゃなくて、僕ら二人のはっきりとした歴史があのようなところに子どもとして登場するというのは印象的でしたね。
安達:アンディとルーシーとウォリーの3人と、新キャラクターのフランク・トルーマン保安官とのやり取りも本当に面白くてね。リハーサルでゲラゲラ笑っちゃいました(笑) ウォリーの話の間とか、気取り具合とかね。デイヴィッド・リンチのコメディセンスはなんてすごいんだろうと思いました。
――『リミテッド・イベント・シリーズ』は全体的に少し重たい雰囲気ですが、その中でもアンディとルーシーは癒し系的な立ち位置で、出てくるとホッとします。
幹本:そうそう。アンディからすればルーシーが困ったことがあったら、すぐ「大丈夫だよ」と言ってあげるんだよね。そういうキャラだと思うから、アンディとルーシーはわりと手を差し伸べやすい関係なんだと思います。
安達:でも、25年も経った夫婦としては、おかしくないですか(笑) デフォルメしているんだろうなとは思いますけど、象徴的なものがありますね。このドラマにおける象徴的なポジションなんだなと。それが今日のアフレコの第17話で、私は本当にビックリしましたよ。
幹本:そうだねえ。それはネタバレになってしまうから言えないけど、見てのお楽しみですけどね(笑)
――ルーシーが携帯電話を嫌うエピソードも、ちょっと古典的なギャグテイストで面白いですよね。
安達:昔ながらのコメディシーンにもなっているんですけど、実はそれものちの展開に絡んでくるんですよ。なんで携帯電話のエピソードがあんなところで出ていたんだろうと思っていたら、「ここに使いたかったのか!」となるんです。
幹本:ルーシーの目のつけどころが鋭い点がそういうところに表れているよね。よく深くそういう目で見ていたんだなと感心しました。
――『リミテッド・イベント・シリーズ』の吹替をされてみて、見どころやどんな点に魅力を感じましたか?
幹本:やっぱり最終的にはデイヴィッド・リンチの世界に入り込んでくださいということしかないですよね。
安達:動く絵画を見るような部分があって、だからずっと絵を鑑賞しているような感じでアフレコのリハーサルをしていました。ずっとセリフがないシーンがあるんですけど、本当に傲慢なくらいセリフを入れず、とにかく映像だけなんです。わけの分からない抽象画を見せられているような感覚で。でも、デイヴィッド・リンチの色合いであるとか、本当にアートですよね。
――『リミテッド・イベント・シリーズ』でも、白黒の映像の中に一カ所だけ色がついているシーンなどは芸術的なものがありますよね。
安達:理屈じゃなくて本当に映像美として、あの映像の世界を堪能できますよね。それこそコーヒーを飲みながら、チェリーパイを食べながらゆっくりとね(笑) 見るもよし、驚くもよし、笑うもよしです。ストーリーを追ってドラマを見るという行為とはまた違うカテゴリーで、映像を見せてくれますね。本当に魔法にかかったみたいに、ずーっと見入っちゃいますよ。
――『リミテッド・イベント・シリーズ』で音楽も込みでセリフが一切ないシーンが出てくると、何も考えずに見入ってしまう時があります。
安達:そうなんですよ。絵画の展覧会に行って絵を見ているような感じなんです。デイヴィッド・リンチは本当にアーティスティックな人ですよ。衣装やカツラとかもそうですね。女性にはピンクと赤とか、衣装についてもものすごくこだわりがあるじゃないですか。モノトーンにするとか、ゴードンなんか絶対に黒しか着ないとか、色使いにも意味がありますよね。
幹本:映像の中で、今回は渦の中に入り込んでいくみたいな次元が変わっていくシーンが新しいですね。
安達:でも、そういうところであえてちょっとチープな映像にしているのかなと思うんですよ。今ならデジタル技術とかを駆使すればもっと高度な映像にできるのに、あえてそうしていないんですよね。
幹本:そうそう。
安達:わざとアナログな感じの雰囲気にして、ちょっとアーティスティックな方向も出しているんですよね。それこそ昔の特撮番組『ウルトラQ』みたいな手作りの感じがするんです(笑)
――クーパーが飛ばされて宇宙に浮かぶ部屋みたいなところへ行きますが、そのセットもレトロな感じですね。
安達:そうですよね。CGで作ろうと思えばリアルに作れるはずなんですよ。だけど、あのレトロさ加減がすごくいいんですよね。だって、目が見えない女性役で裕木奈江さんが出演していますけど、なんか粘土で目を覆っているだけみたいな感じなんですよ。完全に意図しているんだなと思って、そういうところを見ると面白いですよね。裕木さんの役も謎なんです。一言では言い表すことができないですけど、アンディが大きく関わってくるんですよ。
――最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
幹本:やっぱりデイヴィッド・リンチが思い描く世界に浸ってほしいということしかないですね。それで、いろんな感じ方があると思いますけど、見て感じて楽しんでもらえればと思います。
安達:字幕版だと視覚を通してセリフを解釈するという行為が生まれてしまいますけど、吹替版はアロマの匂いを嗅いで脳に直接何かを送って理屈じゃなく感じるのと同じように、聴覚に訴えながら、あの不思議な映像を楽しむことができると思います。なおかつ旧シリーズも私たちの声で『ツイン・ピークス』を楽しんでくださった方は、吹替版の『リミテッド・イベント・シリーズ』を見れば、パッとその世界に戻ることができるんじゃないかと思います。その思いを込めて吹替版で見ていただけると、『ツイン・ピークス』の世界によりいっそう誘われるんじゃないかと思います。
(取材・文・写真/豹坂@櫻井宏充)
■『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』商品情報
7月4日(水)ブルーレイ&DVDリリース、レンタル開始
ブルーレイBOX(数量限定生産)...19,800円+税/DVD-BOX...12,800円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ジャパン 合同会社
Photo:
原康義、江原正士、池田勝、幹本雄之、安達忍
『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』
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