犯人がわかってからが真の恐怖...ミステリーがサイコ・スリラーに変わる『Hidden』

英BBCで放送中の『Hidden(原題)』は、大自然に囲まれた美しい村を何とも不気味な事件が襲うサスペンス。ウェールズ特有の陰鬱な曇天の下、故郷に舞い戻った熱意溢れる刑事が犯人を追い詰める。余分な要素を極限まで切り詰めた演出がかえって恐怖感を煽る、8話構成のシリーズだ。

■自然豊かな国立公園に、少女の遺体
警部補のカーディ(シアン・リーズ・ウィリアムズ)は、ウェールズ北西部の豊かな森林地帯が広がるスノードニアの地に配置換えとなり、新しい環境に馴染もうとしている真っ最中。地元で警察署長を務めていた彼女の父が病の末期にあり、その介護のため、故郷の署への転属を希望していた。

新しい職場で彼女を待っていたのは、若い女性の死亡事件。管内スノードニア国立公園内を流れる川から、マリーという少女の遺体が発見される。2011年から失踪していた人物の発見とあって事件は瞬く間に話題に。遺体の状況から、死亡する前に数年間にわたり監禁されていたことが明らかになる。ほかにも若い女性の失踪が相次いでいるが、関連はあるのだろうか?

重々しい雲の垂れ込めるスノードニアの地で、無念の死を遂げた少女のため捜査に情熱を傾けるカーディ。今ひとつやる気に欠ける巡査部長のオーウェン(シオン・アラン・デイヴィーズ)を従え、連続殺人犯との知恵比べに乗り出す。

■ミステリーからサイコ・スリラーへシフト
スリラーであると同時にミステリーの側面も持つ本作だが、犯人は意外にも8話中の第1話目で視聴者に明かされており、いわゆる倒叙モノに近い構成になっている。カーディとオーウェンは地道な聞き込みと過去の事件記録の調査で着々と真相に近づいてゆくが、悪役はすでに視聴者の知るところ。犯人が明かされるタイミングを境に、捜査主体のミステリーとしての展開から、サイコ・スリラーへと興味の主題が変化すると米New York Timesは紹介している。少女の拉致監禁事件を中核とした刑事ドラマでありつつも、犯人の判明後もなお興味の持続する緻密な構成になっている。

緊張感を維持する仕掛けの一つが、ウェールズの小さな村が持つ独特のムード。荒い岩場の広がる荒涼とした地で起きる失踪事件は、絶え間ないスリルを画面に漂わせる。捜査や推理の進展などと同じくらいにムードが重要な要素になっている、と英The Guardianは指摘。重厚なクレジットロールに始まり、重苦しくも美しい風景の数々、そしてBGMまでもが不安をいっそう駆り立てる。

■余分な演出を極限まで削ぎ落とす
静寂の中に恐怖を感じさせる本作は、多くの刑事ドラマに登場する要素をバッサリと削ぎ落としている。色気、駆け引き、上司との衝突など、お決まりの件が一切ない。少なくともシーズン前半が終わった時点では、カーディが恋に落ちる兆しはなく、カーチェイスはわずか30秒で終わり、銃撃戦も一切起きていない。メインの事件に、辺ぴな土地で起きるホラーストーリーをプラスし、ストーリーの技巧と演技の素晴らしさだけを頼りに、恐怖感一本で勝負しているとNew York Timesは評価する。

中盤ではスリルにさらなる拍車が。視聴者のよく知る人物が新たな犠牲者となり、衝撃的な展開をもたらす。視聴者は恐怖と無力感に襲われて疲れ切ってしまうだろう、とThe Guardianは論評。あまりのショックにストーリーを受け入れられない人まで出る可能性があるが、反面、一度好きになったら忘れることのできないドラマだと同メディアは述べている。

重厚なトーンで殺人鬼の気配をじっとりと感じさせるクライムドラマ『Hidden』は、英BBC Fourで放送中。(海外ドラマNAVI)

Photo:シアン・リーズ
(C) Featureflash Photo Agency / Shutterstock.com