英メディア絶賛、TV界の鬼才が贈る『Black Earth Rising』 アフリカの英雄を西欧が裁くのは正義か?

英BBC Twoで9月10日(月)から放送が始まった『Black Earth Rising(原題)』は、国際戦争犯罪をテーマにしたヒューマン・サスペンス。国内では英雄、国外からはその反人道的な行いが問題視されているアフリカの元軍事指導者が、国際刑事裁判の場でその罪を裁かれる。西欧人が取り仕切る法廷でアフリカ人を裁くことは、果たして正義なのだろうか? 国際スリラーの鬼才、ヒューゴ・ブリック監督が仕掛ける哲学的新シリーズが幕を開けた。

■少女を救った英雄は、少年たちを戦地に駆った戦犯
ロンドンで暮らすケイト(ミカエラ・コーエル)はルワンダからの難民。少女時代におぞましい大量虐殺が行われ、死体の山に身を隠していたところを助け出された。この殺戮に終止符を打った軍の要人サイモン(ダニー・サパニー)は、ルワンダの人々に英雄として讃えられている。

当時のトラウマが未だに癒えないケイトだが、彼女をさらに悩ませる事態が。自らを養子として育ててくれた弁護士の母イヴ(ハリエット・ウォルター)が、英雄であるはずのサイモンを国際刑事裁判所に起訴しようとしているのだ。実はサイモンはルワンダ国内で英雄視されている反面、少年兵を徴用したことから、戦争犯罪者として国際社会に認知されている。虐殺に終止符を打った英雄は、国際法廷で処罰されるべきなのか? アフリカが認める要人を、西欧の影響力の強い国際裁判所で裁くことは果たして本当の正義なのか? 弁護士としての母の行動に疑問を禁じ得ないケイトは正しい道を模索するも、国家を超えた権力の渦に呑み込まれてゆく。

■息つく間もない!
次から次へと情報の洪水を巻き起こす本作は、視聴者を決して飽きさせない。居眠りする暇など全くない、と英Guardianは表現。最初の数分間だけでも、高名な人権弁護士が講義を行う中で間接的に他国を支配する「新植民地主義」や西欧の独善的な他国干渉をめぐり、ケイトは他の学生と激しい口論を繰り広げている。また、アニメーションで抽象化されているとはいえ、幼い少女が死体でいっぱいの大穴から救出されるショッキングなシーンが登場するなど、サスペンスの面でも抜かりがない。同メディアは、第1話だけでも長編映画にも相当しようかという量の情報が詰め込まれている、と驚く。

このテンポは、本作脚本・監督を担うブリックだからこそなせる技。監督は、警察内の不正や犯罪組織との後ろ暗い関係を描く『シャドウ・ライン』や、イスラエルとパレスチナの紛争をテーマにした『The Honourable Woman(原題)』など、国際的な陰謀を絡めた複雑なシナリオのスリラーで知られている。第1話の情報量と勢いのままシリーズを進めるのは到底不可能にも思えるが、すでに『シャドウ・ライン』でそれをやってのけたと、Guardianは星5つの最高評価を本作に与えている。

監督の新作の放送はいつも一大イベントだ、と英Telegraphも過去作品の質の高さを評価。イギリスのTV業界で今日最も優れた監督だとして、その手腕を買っている。圧倒的な情報量で綴られる本シリーズに、こちらも星5つの高評価だ。

■答えのない正義への問い
国際刑事裁判所が舞台となる本作だが、実はその被告人席に立つ人物のほとんどはアフリカ人。Guardianは作品が投げかける問いとして、アフリカの問題を西欧の国が裁くという構図は西洋の独善ではないのか、という疑問を挙げる。この視点はまさしく主人公ケイトの感じる疑問そのものだが、一方で彼女の母イヴは、裁判所は正義を必要とする人々にそれを届けているのだと確信している。シンプルな結論など当然存在しないこの問いを柱に、国際的な権力が絡んだソリッドなスリラーで肉付けした構成となっている。

哲学的な問いへの解は、あるいは視聴者の判断に委ねられるかもしれない。ブリック監督は滅多に決定的な回答を示さない、とTelegraphは指摘。過去の作品には、観客に哲学的な問いを投げかけつつも、判断を個人に委ねるものが多いようだ。今シリーズの解釈も視聴者に任される形になるのか、シリーズの今後に注目が集まる。

『Black Earth Rising』は、現在英BBC Twoで放送中。日本ではNetflixにて2018年中に配信予定。(海外ドラマNAVI)

Photo:ダニー・サパニー
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