ショーン・ペン主演のSFヒューマンドラマ『The First』 壮大な宇宙計画の裏で交錯する人間模様

米Huluで配信中のSFヒューマンドラマ『The First(原題)』は、火星への有人飛行計画をめぐるSFストーリー。人類の未来をかけた宇宙プログラムを題材に、ミッションに臨む宇宙飛行士、その家族たち、そして地上チームの間で起こる濃密な人間ドラマを描く。製作は、ホワイトハウス入りを目指す議員の陰謀を描いたヒット作『ハウス・オブ・カード』プロデュースをシーズン1から4まで手掛けたボー・ウィリモン。一大プロジェクトが巻き起こす人間模様の描写には定評がある。

■妻を亡くした宇宙飛行士、再びミッションへ
火星に人類初の移住者を送り込むことを目指している、とある民間宇宙企業。そこに務めるベテラン宇宙飛行士のトム(ショーン・ペン)は、打ち上げの直前になってチームから外されてしまう。上司のラズ(ナターシャ・マケルホーン)の判断によるものだが、詳しい理由は明かされていない。有能なリーダーである彼女は、確かな狙いのもとに決断した様子。

ミッションからの離脱に落ち込むトムだが、プライベートの生活は輪をかけて酷いありさま。妻ダイアン(メリッサ・ジョージ)を亡くし、関係の芳しくない娘デニス(アナ・ジャコービー=ヘロン)はドラッグ中毒に。そんななか、トム不在で行われた最初のミッションは悲劇の事故で中断。議会から予算削減の圧力が強まったことから、会社と人類の未来をかけ、実績あるトムが現場に呼び戻される。しかしトムの復帰は、母を亡くしたばかりの娘にとって、残された父との別れを意味するのだった。

■ボーが贈る「温かな毛布」
プロデューサーのボー・ウィリモンは、卑劣な手段の行使も厭わない執念の政治家を描いた『ハウス・オブ・カード』の製作者として有名。本作とは、大規模な計画を中心に綿密に設計された人間ドラマが展開するという点で共通している。米Varietyは、今回は政治家のドロドロした策略ではなく、まだ誰も成し遂げたことのない火星への有人飛行を成し遂げるのだという純粋な熱意を感じさせてくれる作品だ、と紹介。ミッションがどれほど困難なものかを誰よりも良く知りながら、あえて挑戦する乗組員たちの姿が眩しい。

本作は、ときに辛辣な瞬間も挟みながらも、ゆったりとしたペースで人間模様を描く。まるで温かな毛布のような作品、と米IndieWireは表現する。決してテンポの速いドラマではないが、果敢にも惑星間飛行に取り組むチームと家族の姿を、エレガントなタッチで丹念に描写している。

■キャラクター専属の脚本家がドラマ性を深める
キャラクター間のドラマは、シーズン中盤で最高潮に。主人公トムとその上司であるラズはどちらも独り身だが、ありきたりな恋愛要素は導入されておらず、代わりにフライトチームの面々と、その家族たちの関係を非常に丁寧に描いているとIndieWireは評価する。差別問題をさり気なく語る副船長のカイラ(リサ・ゲイ・ハミルトン)に、計画に生活のすべてを捧げてきた宇宙飛行士のサンディー(ハンナ・ウェア)、そしてすでに母を亡くし父親まで宇宙へ旅立とうとしている娘のデニスと、個人個人が深いバックグラウンドを背負う。こうした女性キャラクターがそれぞれ中核となる第3話では、別々の女性脚本家がシナリオを担当している。このユニークな試みが特徴あるキャラクター像に貢献しているのでは、と同メディアは述べている。

Varietyも同様に人間模様の秀逸な描写を取り上げ、特に妻との結婚生活を振り返るトムの様子がシリーズ中で最高だとしている。気持ちの塞ぎと薬物中毒に悩まされた妻と娘に、ただただ怒鳴りつけることしかしなかったトムは、妻を亡くした今になって心を痛める。人間関係の深い描写と、苦い思い出が運ぶ感情のさざめきが美しいドラマだ。

『The First』は米Huluで配信中。ウィリモンプロデュースによる『ハウス・オブ・カード』に興味のある方は、Netflixでシーズン1から5を配信中。ウィリモンはシーズン4を最後に同作プロデュースは降りたものの、11月2日(金)より配信開始のファイナルシーズン、シーズン6まで脚本には携わっている。(海外ドラマNAVI)

Photo:
ショーン・ペン (C) FAM020/FAMOUS
ナターシャ・マケルホーン (C) VMJM/FAMOUS