デンマークの首都コペンハーゲンで15人の地下鉄乗客を人質にしたテロ事件が発生。3人のテロリストは、対テロ特殊部隊に対して人質の命と引き換えに多額の金を要求する一方、人質とのライブインタビューをジャーナリストにオファーする...。事件発生から解決までの8日間を一日一話ずつで描き、さらに各話で登場人物のうち一人の過去が回想形式で語られるサスペンス・アクション『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』が、スーパー!ドラマTVにて10月4日(木)より独占日本初放送スタートとなる。
それに先駆けて、日本語吹替版で対テロ特殊部隊の指揮官フィリップ・ノアゴーを担当する神谷浩史を直撃! 『進撃の巨人』などのアニメーション作品でおなじみの人気声優に、本作の魅力、初主演した北欧ドラマの感想などを語ってもらった。
――本作の主人公役に決まった時のご感想は?
すごく有り難かったですね。海外ドラマについてはなかなか参加する機会に恵まれなくて憧れもあったので、そういうものに出させていただけて、なおかつメインキャストということだったので。プレッシャーはありましたけど、キャリア的に二十何年やっているのでそんなことも言っていられないな、と(笑) だから、本当にそういう機会を与えてくださったことには感謝の気持ちでいっぱいでした。
――憧れというと?
海外ドラマって憧れありません? 子どもの頃、NHKで放送していた『シャーロック・ホームズの冒険』などがすごく好きで、憧れながら見てました。憧れの正体がわからないんで漠然とした答えになっちゃうんですけど、そういうものに自分もチャレンジできるというのは嬉しかったです。
――本作に対する印象は?
あんまり明るい設定ではないので当たり前なんですけど、暗いなあって(笑) 15人の市民を人質に取ったテロリストが身代金を要求してきて、それに対してどう戦っていくのか、というのが大まかなストーリーなので。
――神谷さんが演じるのは国家警察情報局対テロ特殊部隊の指揮官フィリップ・ノアゴーですが、彼の魅力を教えてください。
感情移入しづらいタイプですよね。彼に対してプラスの印象って実はあんまりなくて。とにかく暗い顔をした、トラウマを抱えた、周りに気を使わせるようなそぶりをずっとし続けている人なので、"もうちょっと現場の雰囲気を明るくするために努力しろよ"とか思うんですけど(笑) でも残念ながら彼はいろんなものを背負っている以上、冗談が通用するようなタイプに見えないんです。敵は武装していますし、命の危険にさらされている人質たちがいますし、自分の指示で部下たちを現場に向かわせて、ともすれば彼らも命を落としかねないという大きな責任を抱えているので。だから誰かと一緒にいる時は隙もないんですね。ただ、同僚のルイーセに対しては、個人的な付き合いがあることもあって、若干見破られてというか、何か違うものを感じ取られて彼女をより不安にさせてしまうんです。
でもそれ以外ではなかなか隙の見えないキャラクターですよね。人間的な魅力って、ミスだったり失敗だったり、完璧じゃないところが魅力につながってくるんじゃないかと思うんですが、フィリップに関しては実はそういうところがあんまりないんですよ。少なくとも僕にはそう見えたんです。ただ、物語が進むにつれて、彼がなぜそういう人間なのかが描かれていくと、"あ、なんだ。こいつ実は冗談言ったりすんじゃん"みたいなところが垣間見えたりするんです。そうなってくると、"良かった。こいつもやっぱり人間なんだ"と安心して、感情移入できましたね。
そういう姿が見られるまではフィリップに感情移入できる人ってなかなかいないと思うんですけど、作品としてそういう見せ方をしているんだろうなと考えていたので、あまり気にはしていませんでした。トータルで見れば魅力を感じていただけるキャラクターだろう、だったらいいな、と思ってアプローチしていましたね。
――本作はデンマークのドラマですが、日本でより親しまれているアメリカやイギリス、韓国などのドラマとはこういうところが違うなと思ったりされましたか?
まず、彼らがしゃべっているのがデンマーク語だっていうことですよね。この記事を読む方はおそらく日本語吹替版をご覧になるんでしょうから、"何言ってんだ、こいつ"と思われるかもしれないんですが(笑) ただ、デンマーク語というのは、フランス語なのかドイツ語なのかその中間なのかというとっても不思議な響きを持っているので、話し手が果たして怒っているのか、冗談を言っているのかといったことが非常にわかりにくい。そういう意味で日本人っぽい感じがするんですよね。日本語って結構いろんな捉え方ができるので、"これってジョークなの?"って一瞬迷ったりするじゃないですか。だから、割と日本人は見やすいんじゃないかなと思います。
なおかつ、日本語吹替版としては、日本人が見て一番伝わりやすいニュアンス、台詞というものを選択して、音として成立するようにという作業になってきて、そういうものを作る上でのプロフェッショナルな集団として作っているので、やはり日本語吹替で楽しんでいただくにあたって、北欧ドラマというのはマッチしているんじゃないかなという気はしています。
――海外の作品なので、アフレコ現場に監督がいらっしゃらず、音響監督と相談して進めていくかと思うのですが、役作りの上でアニメーションとはまた別の難しさがあるのでしょうか?
今おっしゃったみたいに、アニメーションだとその場に監督がいたり原作があったりして、そこにヒントだったり答えだったりがあって、こういう意図でこのシーンは作りたいので、こういう気持ちで台詞をしゃべってください、といった指示を受けることができるんですよね。でも海外ドラマですと、監督は海外にいて、なおかつ完成形としてもうでき上がっているものなので、そこに対する質問はなかなかできないわけです。こういうつもりでしゃべっているんじゃないか、というのを日本人の感性で考えて、日本語の台詞として、日本人が見て成立するものを模索して、音響監督と相談しながら答えを捜していく作業になっていくんですね。
僕自身は海外ドラマの経験は浅いんですけど、僕以外のキャストはずっと海外ドラマをやっている方がそろっていたので、そこに対するアプローチだったり嗅覚だったり勘の鋭さっていうのがものすごく優れていらっしゃるんですよ。"なんでこれだけの情報で、答えと寸分違わないであろう音が出せるの?"って驚いてしまいました。アニメーションのアプローチで考えちゃうと、"この人が今何考えてるかわからないから、どういう音を作ったらいいんだろう"って悩んじゃうんですけど、ほかのキャストの方に質問してみると、「いや、アニメの方がよっぽどわからないですよ。だって画がないじゃないですか」って言われるんですよね。わからなかったら聞けばいいと思ったら、「海外ドラマだと原音があるじゃないですか。それに皆さんがお芝居されてるんで、その表情と原音のニュアンスを元に自分の感性で答えを導き出していくんだと思うんですよね」って言っていて、"なるほど、そういうアプローチで海外ドラマって作っていくんだな"と。そして音響監督には、アプローチが正しいか正しくないかの判断をしてもらう、もしくは迷っていることを質問して、答えにより近いであろうものを示唆してもらうというやり方なんだと思うんです。
観念的な話になっていくので、この記事を読まれる方によって受け取り方が全然変わってきてしまうと思うんですけど、なんとなく声が入ってるだけじゃないってことがわかっていただければ(笑)
――では声なども意識して演じられているのでしょうか?
原音に近ければ近いほど、もともとの役者さんが表現したがっているものに近づけるんじゃないかと思うんです。当然別人なんですけど、声質もおおよそは合っていたりするので。僕はもともと声を作るタイプじゃないんですけど、フィリップは実はあまり声が低くなくて声の高さが似ていたので、特にそこは意識しませんでしたね。
ただ、ジャーナリストのナヤをやっている(松熊)つる松さんが原音と同じ声なんですよ! マジ、同じ声なんです。こんなまったく同じ声質でアプローチされたら、説得力すげえなって、感動しましたね。
――今のお話にも通じるんですが、本作のアフレコに関してほかに苦労したり悩んだ点は?
デンマーク語っていう謎の言語ですね。英語だったら単語レベルで聴き取れて、今この意味をしゃべってるんだなと感じ取りながら声を当てることができるんですけど、デンマーク語はまったくわからないので、ここに対するアプローチは非常に困難でした。
実は本作の翻訳家さんも、デンマーク語をまず日本語に訳す方、その日本語を本編の尺に合わせて台詞化する方、と二人いたんです。それに僕が声を当てるわけですよ。だから3人の"伝言ゲーム"になってくるんですよね。すると、果たしてこれで正しいんだろうか、日本語的にはこの方が伝わりやすいんじゃないかってところがところどころ見受けられて、それを音響監督と相談した上で、場合によっては台詞を少し変えてみたり、一回テストをやってみてわかりにくいニュアンスを変えたりと、日本語版としての完成度を高めるために手を加えていきました。当然まったく違うものにはならないんですけど、ただ、尺のことなども考える必要があるので、反射神経を求められる、ともすれば台詞が変わることに対して正しくアプローチしていかなきゃいけないということはありましたね。
もちろんアニメーションだってアフレコ現場で台詞が変わることもあるんですけど、アニメーションだと芝居がOKだったら画がまだ完成していないので、台詞に合わせて画を修正することもたまに発生するんですね。でも海外ドラマだとそれが絶対にできない。すでに画ができ上がっていて、基本的には原音に忠実に、決まった尺の中で収めなければならないという課題が生まれてくるので、そこに対するアプローチっていうのがアニメーションよりもプライオリティは高いかもしれないです。
――本作には『24 -TWENTY FOUR-』のように毎話で驚きの展開がありますが、神谷さんが特に驚いたり、予想外だった展開は?
ナヤってデンマークでとても人気があって有名なニュースキャスターというポジションなんですけど、意外にちょろいな、と思いました(笑) しっかりと自分の思想を持っていて、それに忠実であるがゆえにテレビ局をクビになったりもするキャラクターなんですけど、その割にはちょっと人間臭くて面白い面もありましたね。僕、ナヤ好きなんですよ。
あと、本筋には全然関係ないんですけど、彼女の自宅に一般市民が普通に訪ねてくるのは面白かったですね。人気キャスターの家がバレてるっていう(笑) デンマークの国民性なのかもしれませんけど。
――テロを扱ったドラマは過去にもたくさんありましたが、この作品ならではの特徴があれば教えてください。
デンマーク作品ってなじみが薄いじゃないですか。だから、コペンハーゲンの地下鉄で15人を人質に取ったテロ事件が発生しましたっていう設定がどの程度の規模の事件なのかがわかりにくいと思うんです。ただ、もし東京丸の内の地下鉄で人質事件が発生したら、多分都市機能がマヒしますよね。そのくらいの規模なんだろうなとイメージしながら、フィリップという人物がその事件にアプローチしていく時の緊張具合を測っていきました。とはいえ、画面の中で都市機能がマヒしている感じはあまりなくて、割と牧歌的な雰囲気なんですけど(笑)
あと、スタッフの方から聞いたんですけど、デンマーク作品って登場人物たちのうち、メイン以外も結構丁寧に描くんですよね。本作でも人質のうち数人のエピソードが(人質救出というメインストーリーと同時進行で)語られるんですが、"あ、この人のエピソードを紐解いていくんだ"ってことが結構ありましたね。それを見ていると、同じキャラクターがその後に取る行動や辿る運命に感情移入できるようになるんです。そのあたりが絶妙ですよね。事件発生から解決までの8日間の中でそうしたところにカメラを向けていくことに対する答えがちゃんと用意してあって、それを見ているがゆえに、それまではあまり興味のなかったキャラクターにも感情移入できていくという。先程も言った通り、フィリップという人がちょっと感情移入しにくいキャラクターなので、それ以外の部分で視聴者の共感を得ていくっていうのは、この作品の特徴だと思います。
テロリズムの脅威をリアルかつスリリングに描く『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』は、スーパー!ドラマTVにて10月4日(木)22:00より独占日本初放送。
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Photo:
神谷浩史
『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』
(c) SAM Productions 2017
ヘアメイク:NOBU(HAPP"S)
スタイリスト:村田友哉(SMB International)