1960年代から英国で不動の人気を誇るSFファンタジー『ドクター・フー』に、新シーズンが登場。2006年のリニューアル以降、11シーズン目にあたるシリーズがスタートした。地球人の外見をした異星人、通称「ドクター」がエイリアンとの対決に命を懸ける。女性ドクターを主人公に本格登用する新たな趣向と、マニア性を排除した初見でも観やすいストーリーが特徴の今シーズンは、英BBC Oneで10月7日(日)から放送中。
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■老人から転身、活力みなぎる新ドクター
13代目にして初の女性ドクターとなるジョディ・ウィッテカーは、昨年末に放送されたクリスマス・スペシャルの一部に登場。宇宙空間を漂うタイムマシン「ターディス」の中で生命の危機に陥った12代目ドクター(ピーター・キャパルディ)が、体内に持つ二つの心臓が生む強靭な生命力で蘇生。年老いた男性から若い女性の姿に変化して生まれ変わった。蘇生のショックでターディスが異常をきたしたことから、身ひとつで地球へと落下。イギリスの工業都市シェフィールドを走る列車の屋根を突き破るという派手な訪問スタイルを披露していた。
今作ではシェフィールドのあちこちで、エイリアンによる奇怪な現象が発生。行方不明の少女、惑星間の移動、のたうちまわる触手、光る鎖骨など、シリーズらしい要素で魅せてくれる。アクションにも力が入っており、第1話では天高くそびえるクレーンの上で、目眩を覚えるほどの緊迫のシーンが展開。ウィットは健在ながらも、知性重視だった先代ドクターとはまた違った見所のあるシリーズになっている。
■原点回帰で誰にでも観やすく
長年愛され続ける本シリーズは、凝った設定が売りの一つ。しかし、入り組みすぎた世界観に、新しいファンが親しみにくくなっていたのも事実だ。今シーズンは十分なSF要素を盛り込みながらも、初見に優しい新機軸を採用。手が込んでいるが理解しやすいプロットだと評する英Guardianは、人間の感情が感じられるなど複数のポイントを歓迎。誰もが観やすい作品だと述べ、濃いファン向けのサービスが目立つ従来シリーズとの違いを強調している。
同じく英Telegraphも、初見の人やしばらくシリーズを離れていた人にとっても観やすい、親切なつくりだと評価。55年以上前からある古いシリーズに、新たな息が吹き込まれた。今シーズンから新たに製作・脚本を担当するクリス・チブナルは、従来とは異なるカラーを発揮。これまで製作・脚本を担当していたスティーヴン・モファットよりも、いたずら心に満ちており、手の込んだ仕上がりとなっている。
■カリスマ性十分の女性キャラクター
幅広い視聴者をターゲットに据えたことに加えて、女性主人公の登用も今シーズンの大きな変化点だ。主演ジョディを全面的に歓迎するTelegraphは、恐れ知らずでありながら愉快なキャラクターだと表現する。カリスマ性も十分で、いつもエネルギーをたぎらせている彼女。先代のドクター像との違いにファンは戸惑いがちだが、実はジョディ自身のセリフに視聴者へのメッセージが込められているのかもしれない、と同メディアは推測。劇中で彼女は、「何もかもがあなたには初めてのことだし、初めてのことは怖いもの。恐れてはいけない」と語る。
実はGuardianも全く同じセリフをピックアップ。長年のファンは戸惑いを覚えるかもしれないが、変化の時は来たのだ、記事は説いている。ただ、中には女性のドクターに過敏に反応する視聴者もおり、ネット上では議論が巻き起こっているようだ。フェミニストのプロパガンダだ、と猛烈に批判する声もあるが、どのプロパガンダもこんなに楽しければ良いのに、と同メディアは軽妙に躱す。ジョディの演じるドクターは素晴らしいし、これからもっと良くなることに疑いはない、と非常にポジティブなトーンだ。
長年続くシリーズに新風を吹き込む『ドクター・フー』シーズン11は、BBC Oneで放送中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『ドクター・フー』シーズン11
BBC STUDIOS/BBC AMERCIA ©Henrik Knudsen