海外ドラマの新トレンド:ギュッと濃厚な1話30分の良作たち

ついつい時間を忘れてのめり込んでしまう海外ドラマ。新しい作品やシーズンが発表されると心踊るものだが、膨大な視聴時間をどうやって確保しようという悩みも。そんな声に応えてか、1話あたり30分前後でサクッと観られる作品が続々と登場している。こうした濃縮型のシリーズは今後増えるという予想もあるようだ。

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♦海外ドラマ、長尺化の背景は?

『ゲーム・オブ・スローンズ』などに代表されるように、1話あたりの時間の増大が顕著な海外ドラマだが、実際の放送時間はどのように決められるのだろうか? この疑問にQuartz誌の記事が答えてくれている。

コメディ以外のドラマは40分から90分枠が普通で、作品ごとの具体的な長さは、企画の予算と製作者たちの意向に応じて決められるとのことだ。一般に長大な番組にすると視聴者の興味を引きやすく、視聴時間を稼ぎやすい。また、賞の受賞も狙いやすくなるメリットがある。そのため、特に放送時間枠の制限がないストリーミング・サービスで長尺作品が流行しており、比較的時間枠の自由なケーブルTV局もそれに追随している形だ。

一方、地上波のTV局は1時間ごとの時間枠に沿って放送するため、1時間を超える作品を製作しづらい、とNew York Times紙は指摘する。長尺化は地上波以外の放送媒体で顕著であり、例えばケーブル局HBOの製作する『ゲーム・オブ・スローンズ』は、CMを除いても1話あたり1時間を超える大作になっている。さらにジャンルによる違いもあり、ドラマは長距離走、コメディは短距離走という住み分けがいつの間にかできている、と同紙は述べる。気軽さとテンポを重視するコメディは30分前後、一方、話題性と受賞を狙うドラマは60分超と、2つの流れができているようだ。

♦30分枠の注目ドラマが続々

しかし、この傾向に逆らう作品がこのところ注目されている。New York Times紙が紹介する、ロー・スクールの優等生が危険な有料デートの世界に興味を持つ『ガールフレンド・エクスペリエンス』や、ヒスパニック系地区を白人が再開発する現状に一石を投じる『Vida(原題)』などのように、コメディ以外でもおよそ30分で観られる作品が増えてきている。このほか、ダーク・コメディではあるが、30分弱から50分弱までエピソードによって尺にメリハリをつけている『マニアック』(Netflix)などの例も。

最近ではAmazon Videoの新作『Homecoming(原題)』がメディアの注目を集めている。同作はジュリア・ロバーツ(『食べて、祈って、恋をして』)のドラマ初主演となるサイコ・スリラーで、兵士が一般市民として再出発するための謎の施設が舞台となる。話題性の高い作品だが、何よりの注目ポイントは1話あたり約30分というフォーマットだと同紙は述べている。

ほかに、Guardian紙も複数の短時間作品をセレクト。倦怠期の結婚生活が思わぬ方向に進み出す『フォーエバー ~人生の意味~』、夫を亡くした妻の怒りと虚しさを描いた『Sorry For Your Loss(原題)』、人生の負け犬たちが女子プロレスのスターを目指す『GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』などが有名どころだ。このうちNetflixオリジナルシリーズ『GLOW』はコメディではあるものの、女性たちがレスリングに惹かれてゆくドラマとしての面も色濃い。こうした豊富な実例を見るに、ドラマ作品の短時間化は確かな傾向と言えそうだ。

♦パワーとベクトルで有利

コンパクト化の先陣を切るこれらの作品は、短いからといって侮ることができない。作品の力強さは長尺ものに勝る、とNew York Times紙は絶賛。大作ドラマは登場人物が多い傾向があり、各キャラクターのサブプロットに相応の時間を取られる。対して短い作品はムダがなく、時間的にお得に楽しめるのが嬉しい。一例として前掲の『Sorry for Your Loss』は、若くして夫を亡くした妻とその家族の怒りと悲しみにテーマを絞っている。1時間枠の『THIS IS US 36歳、これから』と同じヒューマン・ドラマだが、前者の方がより具体的で、力強さを感じると同紙は述べている。

さらに記事は、1話観るごとに約30分浮くことから、時間を有効に活用できると強調。余った30分で働くもよし、睡眠に充てるもよし、そして2話目を観るもよしで、生活にゆとりが生まれるとしている。まるで30分相当のギフトカードが付属しているかのようだと同紙は例える。

別のメリットとして、壮大なシリーズのように途中で視聴者が方向性を見失うことがない、と述べるのはGuardian紙。中核となるテーマにフォーカスしている上、仮に空回りしているシーンがあったとしても、そう長く時間を取られることがない。こうした強みを持つ30分番組は魅力的なコンテンツ(キラー)であり、短いからといって放送時間の埋め草(フィラー)などではない、と同紙は述べている。

今後の展望はどうだろうか? こうした短いフォーマットのシリーズは増えていくというのがQuartz誌の見方だ。60分番組に慣れている今でこそ、少し物足りない感覚になることも否定できない。しかし、一度馴染めば長い作品に戻りたいとは思わないだろう、と同誌は断言している。ペース配分に優れた『Homecoming』は素晴らしいレビューを多く獲得しているだけに、追随の動きが今後ドラマ業界に広がる可能性はありそうだ。(海外ドラマNAVI)

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