2015年にニューヨークで実際に起きた、二人の囚人の脱獄事件。『Escape at Dannemora(原題)』は、最高警備レベルの刑務所からの逃走を許したこの事件をベースに、その後の逃亡生活を追うミニシリーズだ。細部までリアリティに満ちた本作は、米Showtimeで11月中旬から放送中。
♦夫に飽きた刑務所職員、囚人からの甘い罠
ニューヨークのクリントン刑務所に収監された二人の囚人、リチャード(ベニチオ・デル・トロ)とデヴィット(ポール・ダノ)。脱獄を夢見る両者は共謀し、所内の仕立て屋のマネージャーを務めていたティリー(パトリシア・アークエット)を誘惑する。計画の一環だとは露知らずのティリーは、既婚の身でありながら二人に惹かれ、やがて性的関係に発展。その後、夫のライル(エリック・ラング)を捨てて一緒にメキシコまで逃げないかと言う二人のことばに魅了され、ついに牢破りの手引きを請け負ってしまう。
こうしてリチャードとデヴィットはティリーの手助けを受け、冷凍ハンバーガーに仕込んで運び込まれた糸のこぎりを入手。脱獄を成功させ、危険な逃亡生活をスタートする。
♦現実の事件がベース
現実感溢れる本シリーズをダークなユーモアに溢れた魅力的な作品、と紹介するVariety誌。実際の事件を題材にしたストーリーであり、「事実は小説よりも奇なり」の格言を思い出させてくれるような物語だと述べている。
逃亡生活のドラマ化といえば恋愛要素や成功への希望が付き物だが、本作はドライなタッチに徹している点がユニーク。San Francisco Chronicle紙の関連媒体であるDatebook誌は、感情的な描写を避け、驚くほど殺伐としたタッチで逃亡生活を追っていると紹介する。荒涼とした風景には恋愛もなければ不安もなく、かといって逃走が成功する見込みもない、と同誌。それでもやってみなければわからないとばかりに、辛い逃亡生活の終焉に向けて二人は挑み続ける。
同誌は、TVと映画の中間的なミニドラマという媒体であることも成功に繋がったと分析。キャラクターの深掘りに十分時間をかけることができ、かといってストーリーが長く退屈に感じることはないという、丁度良いサイズ感が功を奏した。本作以外にも最近では優れたミニシリーズが多く公開されており、『ツイン・ピークス The Return』や『アメリカン・クライム・ストーリー』などもこのフォーマットの作品となっている。
♦アカデミー賞女優パトリシア・アークエットの演技力
実際の事件を題材にしたドラマというだけでは突出した特徴があるとはいえないが、本作は出演陣の演技力のおかげで別格の作品になっている、とBoston Globe紙は分析。脱獄の手助けをするティリーを演じるのは、かつてニコラス・ケイジと婚姻関係にあり、『6才のボクが、大人になるまで。』でアカデミー賞助演女優賞を獲得したパトリシア・アークエット。誰かに必要とされたくて必死の女性を演じており、その姿から目が離せない、と同紙。他に『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で英国アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたポール・ダノが、脱獄犯の一人・デビッド役で出演している。
ティリーを演じるパトリシアに注目するのはMercury News紙。メイクによって普段の姿とは打って変わっており、一見して彼女だとは気づかないほどだ。しかしその演技力は流石で、一つ一つの動作が細部までずば抜けている。視聴者は虜になるだろう、と同紙。
ティリーについては他にも、Datebook誌が可哀想なその立場に注目。脱獄計画を知った彼女は、失職の危機を感じる。尻込んで泣き言を言う様子には、滑稽でありながらも同情を禁じ得ない。巻き込まれた事態にいつもついてゆけず、怒りや落胆を述べる彼女の声は、そのほとんどがかき消されて尻切れとんぼに。彼女を演じるパトリシアを含めて、主演3人の演技力が作品の基礎を支えていると述べている。
3人の人間関係にも注目の『Escape at Dannemora』は、米Showtimeで放送中。レビュー中に登場した『アメリカン・クライム・ストーリー』は、Netflixで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『Escape at Dannemora』に出演するベニチオ・デル・トロ、パトリシア・アークエット、ポール・ダノと監督の一人であるベン・スティラー
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