ハリポタ監督が創造する新たなサンタ像とは?Netflix映画『クリスマス・クロニクル』クリス・コロンバス直撃インタビュー

『グレムリン』『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』シリーズなど、大ヒット作品を次々と手掛けてきた名匠クリス・コロンバスがプロデューサーを務めたNetflixオリジナル映画『クリスマス・クロニクル』が、現在大好評配信中。

10歳になってもサンタの存在を信じる妹ケイトと、彼女をからかう兄のテディ。二人はイブの夜、興味本位でサンタを録画しようと計画するが、何とプレゼントを俊敏に配る"本物"に遭遇!しかも、二人のせいでソリが墜落したため、サンタは絶体絶命のピンチに立たされる。果たしてプレゼントは無事届けられるのか? 名優カート・ラッセルが、かつてないパワフルなサンタクロースを熱演する本作、この映画でクリスは何を伝えたかったのか、来日中の彼を直撃し、胸に秘めた熱い思いを聞いた。

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――素敵なクリスマス・プレゼントをありがとう!とっても楽しい映画でした。

(がっちり握手しながら)サンキュー! サンキュー!! 映画をエンジョイしてくれたようで僕もうれしいよ。

――ラストシーンに、まさかあんなサプライズ出演があるなんて驚きました。カートさんをよく知る映画ファンなら、思わずニンマリしますよね。あれは誰のアイデア?

※この部分のみ、察しのつく方は本編を観るまでスルーをオススメ

最初は出演する予定はなくて、声だけが聞こえるというアイデアだったんだ。彼女を出演させたい気持ちは私の中にはあったけれど、なんとなくあえて口にはしなかった。ところが、周りのスタッフみんながその思いを察して、彼女に「どうだい?」と声をかけたら、とても乗り気だったので、脚本を書き直してもらったんだよ。カートと彼女の共演は1987年以来だから、実に30年ぶり! 凄いことだよね。

――子どもの頃、「サンタさん一人で世界中の子どもたちにどうやってプレゼントを配るんだろう?」って、素朴な疑問を抱いていたのですが、この映画はファンタジーとして見事にその謎を解いてくれました。

実は、最初に脚本が出来上がったとき、サンタの出番はわずか7ページ分しかなかった。完全に脇役としてしか考えていなかったんだ。ところが、「今回のサンタは、今までとは全く違うキコリのような逞しい男」という1行を読んだときに、たまたま息子と一緒に書いていた『Saint nick』という映画の脚本を思い出してね。そこに出てくるサンタは、煙突にスルリと潜り込んだり、犯罪に立ち向かったり、とにかくスーパーヒーローのような存在で、カートを当て書きして80ページくらいまで進んでいたので、「そうだ! このキャラクターをそのまま『クリスマス・クロニクル』に流用したら面白いんじゃないか?」ということになったんだ。

――その話をカートさんにしたとき、どんな反応が返ってきました?

カートは普通、どんな企画をオファーしても、最初は必ず断ってくるんだけれど、今回は2日後に返事が来て、なぜか快諾してくれたんだ。「今までとは全く違うサンタを一緒に作り上げよう!」ってね。

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――今回、Netflixのオリジナル映画ということで本作を製作され、劇場ではなく配信スタイルでの公開となったわけですが、プロデューサーとして何か新たな可能性を感じたのでしょうか?

10年前なら『クリスマス・クロニクル』のような作品も、普通に劇場でかかっていたと思うけれど、今は、大手の映画スタジオで製作される作品の大半が、コミックの映画化やフランチャイズものばかり。そんなときに、今回、Netflixから予算もたっぷりいただいて、このようなスペクタクルなファミリー・アドベンチャーをお茶の間に向けて製作することができた。家族全員でポップコーンを食べながら気軽に楽しめて、しかもそれが何度でも味わえる。そういうアクセスができるってところが素晴らしいよね。このほかにも、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』やマーティン・スコセッシ監督の『The Irishman(原題)』など、大手の映画スタジオでは絶対に作らせてもらえないような作品もサポートしているけれど、これは本当に歓迎すべきこと。まさにエキサイティングな時代になってきたなと実感しているよ。

――確かに、ヒーローものやアニメはたくさんありますが、本作のように家族みんなが安心して楽しめるファミリー・ファンタジーを、最近観ていなかったような気がします。どこか懐かしい肌触りがして、ワクワクしました。

実は、僕にもコミック映画のオファーがよく来るんだ。ただ、申し訳ないけれど全く興味がないんだよね。僕が作りたいものは、1980〜90年代の精神に立ち戻った本作のような"オリジナル"作品。そのチャンスを与えてくれるのがNetflixなんだ。例えば、『ベビーシッター・アドベンチャー』や『ホーム・アローン』に共通している表現もあるし、(本作に出てくる)かわいいキャラクターのエルフも『グレムリン』に通じるものがある。そういった意味では、私が監督・脚本を手掛けた過去のヒット作品のエキスが全部入っているような、そんな感じはあるかもしれないね。

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――懐かしさと共に、新しいアプローチも随所にありました。例えば、サンタの袋の中が、あんな壮大な世界になっているとは!(笑)

プレゼントが舞い躍るシーンだよね! あれは良かっただろ? 最初はどうやって表現しようか凄く悩んだけれど、考えに考えた末に、結局、あの表現にたどり着いたんだ。ネタバレになるから、あまり詳しくは言わないけどね(笑)

――カートさんは、俳優としてどんな魅力があるのでしょう?

「今まで仕事をした中で、最高の俳優は?」と聞かれたら、僕は3人の名を挙げる。ジョン・キャンディ、ロビン・ウィリアムズ、そしてカート・ラッセルだ。残念ながらジョンとロビンは亡くなってしまったけれど、カートとは、会った瞬間に30年来の友だちのような感じがしたんだ。とにかくフィーリングが合うし、プロフェッショナルだし、それに今回、「サンクロースをどういう人物に描くか」という点で、二人の意見がピッタリと合致したんだ。これは凄いことだよ。

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――簡単にオファーを受けないカートさんとそこまで息が合うなんて、奇跡ですね(笑)

彼はこう言っていたよ。「自分が今まで演じた中で、最高に満足できた役は、『ザ・シンガー』のエルヴィス・プレスリー、『ニューヨーク1997』『エスケープ・フロム・L.A.』のスネーク・プリスキン、そして本作のサンタクロース」ってね。

――まさにカートさんの代表作の一つになったわけですね。

そうなんだ。カートは、新たなサンタクロースを作り上げるために、その起源や歴史も徹底的に調べ上げ、まるでシェイクスピア劇に取り組むような感覚で、責任を持ってこの作品と向き合ってくれたんだよ。

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――最後に、この映画を通して伝えたいメッセージを。

子どもの頃はとても純粋で、無防備なくらい何でも信じることができた。ところが、年齢を重ねるごとに、経験も増え、皮肉っぽくなって、何に対してもだんだん懐疑的になってしまう。とくにアメリカ社会の現状を見ると、何も信じられない状況になっているわけだけれど、それでも「善」はどこかにあるんだということ、そしてクリスマスを信じることで、純粋だった子どもの頃を思い出し、心を一つにすること。それが今、最も大切なことなんじゃないかなって思うんだよね。「クリスマス・スピリッツ」なんて言われているけれど、そういう熱い思いがこの映画から伝わるとうれしいね。

Netflixオリジナル映画『クリスマス・クロニクル』独占配信中。

(取材・文・撮影:坂田正樹/Sakata Masaki)

Photo:Netflixオリジナル映画『クリスマス・クロニクル』