【レビュー】Netflix『デリー凶悪事件』 実際に起きた集団性犯罪、警察目線で描く

2012年12月に起こった悲惨な集団レイプ事件を、デリー警察の捜査記録に基づいて、警察の目線から描きドラマ化したNetflixオリジナルシリーズ『デリー凶悪事件』。この凶悪事件によって、女性たちだけでなく若者を中心にインド国民の怒りは爆発。インド全土で抗議デモが行われた。事件後、インドでは性犯罪に関する法律を見直しているが、実情は厳しく、女性や少女などの弱い者をターゲットにした凶悪犯罪はまだまだ多く発生している。そんな現実に切り込むようにして製作された本作は、事件の概要や顛末がわかっていても、俳優陣の鬼気迫る演技に目が離せない――。

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稀に見る凶悪事件に挑む女性捜査員

デリー警察の捜査官であるバーティカ(シェファリ・シャー)は、自らが束ねる管轄の警察官たちが、職務をきっちりと果たさないことに不満を感じていた。私生活でも、10代の娘からインドを出てカナダに行きたいと言われ、頭を抱える。理由は、女性蔑視が強いインドを離れたいからだった。バーティカは娘に、3週間だけ猶予をくれたら、デリーも悪くないと思わせてあげる、と言うのだった。

そんな矢先、就寝中のバーティカの携帯が鳴る。二人の男女が襲われ、身ぐるみはがされる事件があったという。詳しい状況がわかったら連絡するように、とだけ言って一旦は電話を切ったバーティカだが、胸騒ぎは収まらず、被害者が運ばれた病院に向かう。そこで彼女が見たものは、捜査官としてのキャリアの中でも経験したことがないほどの、むごたらしい状態の被害者。狂気の沙汰としか言えないような凶悪犯罪だった。

急がないと犯人たちは逃げる...リミットは10時間。そう感じたパーディカは、被害者のために、被害者の両親のために、そして娘をはじめとするデリーの女性たちのために、自らの仕切りで特別捜査を開始するのだった。

新しいアングルで事件を綴った衝撃の一作

2012年の痛ましい事件を元に、映像作品が作られたのはこれが初めてではない。2015年に『India"s Daughter(原題)』というドキュメンタリーがイギリスで製作されている。しかしながら、このドキュメンタリーはインド当局によって国内での上映が差し止められ、現実を国民に直視させないこの当局の動きに各方面から抗議の声が上がった。

その歴史を踏まえてレビューを掲載しているのが米Wall Street Journal紙だ。同紙は、2015年のドキュメンタリーは上映差し止めとなったが、今回の『デリー凶悪事件』はこの事件に関して作られた映像作品としては初めて、インド国内でも視聴されるだろうとしている。それは、シリーズが「警察による行動」に焦点を当てているからだと分析する。

ドラマでは被害者についての情報はまったくなく、どの女性にも置き換えて考えることが可能で、それが石のように重くのしかかっている。その代わり、各警察官とその捜査については非常に詳しく描かれており、フィクションの登場人物もいるが、実際に警察が犯人たちを辿った足取りなどは警察のレポートから忠実に再現されているという。そのため、『デリー凶悪事件』はサスペンス作品として優秀であり、正義は勝つ、というアングルからメッセージを送ったことが、このシリーズがインドで上映差し止めにならない理由であるとしている。

同じく『デリー凶悪事件』が取ったアングルをレビューで取り上げているメディアに、地元インドはニューデリーに拠点を置くHindustan Times紙がある。同紙は、警察の視点から描いたことは、新鮮であると同時に問題でもあると評する。

犯行の様子をあえて映像で触れないという方向性を讃えつつ、警察組織の問題など触れられていない点があることに遺憾の念を隠さない。「Netflix が製作したインド初のシリーズで最も素晴らしい作品の一つ。そして、ここ数か月で鑑賞した中でおそらく一番見事な実際の事件を扱ったドラマであるのに、非常に残念である」と述べる。

このシリーズの監督と脚本を担ったのはインド系カナダ人のリッチー・メータ(映画『タイム・チェイサー』)。「デリーを批判することができるのはデリーの住人だけである」と書くHindustan Times紙のレビューは、ややセンチメンタルな感情が入っているのかもしれない。しかし、そのレビュアーをして、「『聖なるゲーム』に続く最も素晴らしいNetflixのインド発のドラマである」と言わしめる『デリー凶悪事件』は、視聴して、自分の価値観でメッセージを感じ取ってほしい作品である。

『デリー凶悪事件』はNetflixで全7話を配信中。(海外ドラマNAVI)

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Netflix『デリー凶悪事件』