3月中旬から英ITVで放送中のクライムサスペンス『The Bay(原題)』。イギリス西部、モーレキャンベ湾で失踪した十代の双子の姉弟。単純な誘拐事件に思われたこの一件に、巡査部長のリサは陰謀の匂いを感じ取る。
荒涼とした海岸の町で起きた、双子の失踪事件
育児に忙しいリサ(モーヴェン・クリスティー『グランチェスター 牧師探偵シドニー・チェンバース』)は、仲間たちと束の間の息抜きへ。カラオケやナイトクラブなどをハシゴし、行きずりの男ショーン(ジョナス・アームストロング『ロビン・フッド』)と一夜限りの恋を満喫する。しかし、リラックスできるプライベートの時間は長くは続かない。
翌朝リサは、巡査部長として慌ただしく駆け回ることに。双子の子どもが失踪したとの報を受け、職場である署内は大騒動。家族との渉外係を命ぜられたリサは、新米刑事を引き連れて双子宅へ向かう。
そこで待ち構えていたのは、双子の母で激しく動揺しているジェシカ(シャネル・クロスウェル『THIS IS ENGLAND』)。リサたちは彼女の怒りを受け止めつつ、冷静沈着に状況の聞き取りをこなしてゆく。しかし、一家の父親が帰宅した瞬間、リサの瞳に驚きの色が。帰宅した父とは、昨夜バーで出会い路地裏で行為に及んだショーンだったのだ。
その後も情報収集を続けるリサだが、子の消息を案じているはずの両親の態度は硬く、聞き込みに協力する姿勢が見られない。失踪事件の裏に何か別の事実が潜むと睨んだリサは...。スリルとミステリに満ちた、全6話のミニシリーズ。
著名作に似ているものの、クオリティは高く
誘拐モノのクライムサスペンスというよく目にするテーマだけあって、過去作品と比較されるのは最早宿命のようなもの。同じITVの大ヒットドラマ『ブロードチャーチ~殺意の町~』との類似を複数の英メディアが指摘している。おそらく製作側もそれを意識しているのだろうと推測するGuardian紙は、とはいえ、出来が良いので何の問題もないと寛容な立場。
子どもの失踪、反発し合う刑事コンビ、海岸に打ち上げられた死体と、同作との共通項は多い。こうした類似点を指摘するTelegraph紙は、一方で本作の新規性についてもコメント。アイルランドに面したモーレキャンベ湾は、寒々とした干潟の広がる、サスペンスの舞台に打ってつけのロケーション。それでいて犯罪ドラマにはほとんど登場したことのない地域となっており、抜群のロケ地の選択で作品のムードが一段と高まる結果になったと評価している。
豊かな心理描写でサプライズを満喫
オリジナリティといえば、主人公のリサが命ぜられる渉外係も、刑事ドラマのなかでは目にする機会の少ない役職だ。家族と警察との連絡役となる立場を主人公に与えたことで、子どもを失いかけて憔悴する家族のドラマにスポットライトを当てることに成功した。リサ役のモーヴェンを含め、出演陣の演技もレベルが高い、とTelegraph紙は評価。ほぼ欠点が見当たらないと述べる同紙は、キャスト全員のパフォーマンスが非常に優れており、家族間の力関係についてもとても精巧に表現されている、と絶賛している。渉外係というユニークな立場を主役に据えることで、被害者家族の心の機微が伝わるクライムドラマとなった。
さらに、心理描写はドラマ性を高めるだけでなく、キャラクターの立場でスリルを味わわせてくれる重要な仕掛けにもなっている。望まざる形でシーンとの再会を果たしたリサは、彼の事件当夜の足取りを調査。監視カメラがシーンと自身との路地裏での行為を捉えていたと知り、思わず赤面することになる。さらにはリサ自身の子どもたちが失踪に関係している可能性が浮上するなど、新事実に動揺する彼女の視線を通じ、視聴者も驚きの波に揉まれることになる。
殺伐とした海岸の町で登場人物それぞれの立場に思いを馳せる『The Bay』は、英ITVで放送中。
(海外ドラマNAVI)
Photo:
ジョナス・アームストロング(C)Caron Westbrook/FAMOUS