「ベン・ウィショーは僕の妻」『英国スキャンダル』ヒュー・グラント インタビュー

実話を元にしたミニシリーズ『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』が4月20日(土)22:00よりAXNミステリーにて放送される。同作は、38歳にして英国自由党の党首となったジェレミー・ソープが、同性愛が違法とされた時代にひそかに付き合っていた元恋人ノーマン・スコットの殺害計画を立てたとされるスキャンダルだ。英BBCで製作され、ヒュー・グラントとベン・ウィショー競演で魅せる本作の放送を記念し、主演二人のインタビューをお届けしよう。第1回はジェレミー・ソープ役のヒュー・グラント。気弱だけど優しい英国紳士というイメージを大きく覆した役作りや、少年時代に見聞きした同スキャンダルについて語ってくれた。

 

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――あなたが演じたキャラクターについて教えてください。

ジェレミー・ソープは1960年代から1970年代にかけての自由党の党首だ。彼は成功した政治家であり、自分をアピールする方法を心得ていて選挙運動がうまかった。チャーミングで華やかで(着ている衣装を見せて)ご覧のように非常に洒落た格好をした男だったんだ。

だが、彼には同性愛者という秘密があった。そしてある相手と付き合っていた。自分の家の馬丁とね。彼との関係はとても情熱的に始まったが、次第に冷たく、たちの悪いものになり、ソープは相手に悩ませられるようになる。交際から20年ほど経った頃、ソープは政治家として花開くが、その頃も元恋人ノーマン・スコットのことでまだ困っていた彼は、彼を殺してほしいと友人に依頼するんだ。

――出演を決めた理由は?

承諾するのは簡単だったよ。なぜなら、監督のスティーヴン・フリアーズとはその少し前に『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』でも組んでいて、楽しい時を過ごしたし、できた映画もいい出来だったからね。それにラッセル・T・デイヴィースは素晴らしい脚本家だ。ジョン・プレストンの原作もすでに読んでいて気に入っていたしね。

それに何と言ってもキャラクターが素晴らしい。魅力とウィットに富み、政治家としての才能もある人物が、内にはダークな面を備えているんだ。

 

――ソープを演じるにあたってどのくらいリサーチしましたか?

かなり調べたよ。撮影が始まる約1年前に契約書にサインしたんだけど、それからずっと何も仕事がなかったので他にすることがなかったんだ(笑) かなりソープのことを調べたよ。書籍はもちろん、YouTubeに転がっている映像も活用したし、ソープのドキュメンタリー作品を何本か撮った友人から教わったり、BBCの映像アーカイヴを見たりしたね。

――ジョン・プレストンの原作を読んだそうですが、いかがでした?

非常に素晴らしいと思ったよ。人のダークな面を描きつつ、そこにブラックコメディの要素を加えているのがとても賢いね。

――では脚本はいかがでした?

ラッセルは原作をうまく脚色している。彼はこの仕事に打ってつけの人物だと思う。多忙な人だけど、原作を読んだ後に快く引き受けてくれた。彼の作風ととても合っているよ。

――シリアスなストーリーでユーモアとのバランスを取るのは難しかったですか?

喜劇と悲劇の要素が両方含まれた作品を作るにはコツが要る。だが、そういうものに出るのは昔から好きなんだ。人生そのものみたいだからね。

 

――ソープになり切るためにどんなことをしたのか、教えてください。

『マダム・フローレンス!』でも組んだ、数々の賞を受賞している天才メイクアップアーティストのフィリップ・ジェンキンスのおかげだよ。彼がいなければ出演はしないという類のことを言ったところ、有り難いことに聞き入れてもらえたんだ(笑)

ソープに合わせて茶色のコンタクトをし、髪型を彼に合わせた。彼の細面な顔にするために痩せなければならなかったので3ヵ月間、公園の中を自転車で走って体重を6kg落としたよ。さらに頬骨にシャドーを入れて、頬がこけた感じを強調したんだ。そして衣装デザイナーのスザンヌ・ケイヴに、ソープの好きなデザインであるこの素敵なスーツを仕立ててもらった。

――演技の上でソープに似せようとしましたか?

僕が実在の人物を演じたのは、かなり久々なんだ。多分1990年の『即興曲/愛欲の旋律』でショパンを演じて以来だと思う。実在の人物を演じるにあたっては、真似をしたくなる誘惑に襲われるものだ。今回のソープのように資料がたくさんある人物の場合は特にね。だが元の人物そのものにしてしまうのも良くないので、俳優は自分なりの味を加える必要がある。その匙加減が重要なんだ。例えば、こういう風にヘアやメイクで彼に似せることは役に入る上で助けにはなるが、それで僕のソープが完成するわけではないんだよ。

そういえば、リサーチの一環でソープをよく知る人たちから話を聞いた時に面白いことがあった。彼らの意見が真っ二つに分かれたんだ。半分の人は、彼は聖人で誰も傷つけたりできない人物だと褒めるが、残りの半分は、彼には暗い面があったと語ったんだ。

 

――スティーヴン・フリアーズとの仕事はいかがですか?

フリアーズは天才だけど、ちょっとエキセントリックだね。『マダム・フローレンス』で組む前、てっきり彼はすべてを綿密に管理するタイプで、自分でも深く分析している監督なんだろうと考えていたんだ。でも実際はその反対で、彼は人を信頼し、キャラクターやプロットについて話し合うのが嫌いだ。例えば、誰かがあるシーンについて相談しようとすると、「さあね。僕にはわからない。君を信頼しているから任せるよ」といった具合にね。

 

 

――ベン・ウィショーたちとの共演はいかがでした?

素晴らしいキャストが揃ったよ。僕の元恋人ノーマン・スコットを演じたベン・ウィショーは彼の世代を代表する俳優だ。また共演できて嬉しいよ。『パディントン』シリーズで主人公のクマの声を担当している彼とは、僕が悪役をやった2作目で組んだからね。それに彼は僕の妻を演じたこともある。『クラウド アトラス』という映画で俳優たちは様々な役を演じたんだが、その中の一つでベンは僕の妻だったんだ。一緒にベッドに横になったよ(笑)

その他のキャストも、英国を代表する存在だ。ベッセル役のアレック・ジェンキンスなんて(英国演劇界最大の賞である)ローレンス・オリヴィエ賞を3度も受賞しているしね。

 

――歴史上の出来事を映像化するのは楽しかったですか?

個人的に興味深かった。ソープが裁判にかけられた時、たしか僕は19歳だった。本作は僕の生まれた1960年頃から30年くらいの間を描いていて、少年時代とリンクしていた。セットにあるものすべて、タバコの箱やビール瓶から、トイレットペーパーに至るまで当時と同じなので、目にしてとても変な気分だったよ(笑)

――この作品の魅力を教えてください。

時々、作品が世界中でヒットするようにという目的で、舞台である土地らしさやその時代らしさが消されそうになることがある。だが僕が思うに、そうしたディテール、独特な描写こそが、人々の見たいものなんだ。そしてこの作品にはそれがあるよ。

 

『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』(字幕版)は4月20日(土)22:00よりAXNミステリーにてスタート。

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『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』
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