元服役囚の女性が新たな人生に挑む『Back to Life(原題)』は、リアリティたっぷりのBBCドラマ。我が道を生きるロンドンっ子の女性を描いた『Fleabag フリーバッグ』のプロデューサーが手掛けている。4月15日にBBC Threeで一挙放送された。
舞い戻った故郷で、住民の目は冷たく
18年にわたる刑期を終え、久々に故郷の町に戻ったミリ(デイジー・ハガード『マット・ルブランの元気か~い?ハリウッド!』)。昔の街で自分を取り戻すには時間が必要だろうと、父親は30歳を超えた娘を温かく我が家へと迎え入れる。音楽プレーヤーや昔の彼との写真など懐かしのアイテムと自室で再会し、ミリは自然と笑顔に。
しかし彼女を待っていたのは喜ばしいことばかりではなかった。昔の罪は新聞で町中に知れ渡り、街角には誹謗中傷の落書きが。就職の面接に赴けば罵詈雑言を投げかけられ、職を探すのも容易ではない。親切な隣人ビリー(アディール・アクタル『Utopia -ユートピア-』)の力を借り、それでも何とか過去を振り切り生活を再建しようとするミリ。罪を償い終えた一人の女性の新しい人生の物語が動き出す。
静かなリアリズムが漂う
人生の半分を塀の中で過ごしたミリ。長く止まっていた彼女の時計の針は再び時を刻み始め、自分の人生を取り戻していく。故郷の町で待っていた逆境にもめげず、あくまで楽天的に事実を受け入れる姿が印象的だ。とはいえ気障りなほどに安直ではない、とGuardian紙はほどよいバランス配分を評価。打ちのめされては立ち上がり、疲れ果ててよろめきながらも次の一歩を踏み出すミリ。入念に構成されたドラマ全体のリアリズムと同様、度を越えない範囲のキャラクターになっており、同紙は堅実な人物描写を好感している。
過度の装飾を排したキャラクター設定に加え、服役後に人生を取り戻すというテーマにもどこか堅い印象が。Times紙はBBC Twoのドラマ作品のようにも感じられるとコメント。同局はさしずめ日本のNHK教育といった位置付けのチャンネルだ。本作『Back to Life』ではミリの服役中に元交際相手がほかの女性と結婚しているというように、現実社会の厳しさを強調するような展開が随所に。ほろ苦くもリアルなストーリーが味を出している。
哀しさからコメディへの転換
人生の厳しさを存分に感じさせる本作だが、ときにコミカルなシーンで視聴者を和ませる。脚本の妙を讃えるGuardian紙は、悲痛な場面から笑いへの変調が実に巧妙だと評価。何ということのないシーンを観ていたはずが、気づかぬうちに傷心の場面へと誘われ、次の瞬間には陽気なトーンへと早変わりしている。まるでもう孫がいるかのように振る舞うミリの父には、ミリだけでなく家族もまた18年の失われた時を過ごしてきたのだと知らされ、感傷的な気分になるだろう。かと思えば笑えるシーンが続くなど、感情の振れ幅を最大限に増幅している。
シリアスな状況のなかに可笑しなシーンを仕掛けるのは容易ではない、とTimes紙。重層的に書き上げられた質の良い脚本となっており、悲惨ななかにも温もりを感じさせる秀作だ。元囚人の社会復帰というシリアスなテーマだが、絶望だけではない複雑な味わいで魅せている。
この投稿をInstagramで見る
18年越しに人生を取り戻す『Back to Life』は、4月15日に英BBC Threeで一挙6話放送済み。同じ製作陣による『Fleabag フリーバッグ』シーズン1~2はAmazon Prime Videoで視聴可能。(海外ドラマNAVI)
Photo:
BBC『Back to Life』