EU離脱後の英国を描く仮想未来ドラマ『Years and Years』妙に現実的なディストピア

EU離脱が近づきつつあるイギリス。それが実際に起きた未来を描いた新作ドラマが同国内で話題となっている。主人公はマンチェスターに住む三世代の大所帯、ライオンズ一家。肝が据わった彼らは、イギリスが欧州連合を離脱してから15年先までの激動の世界で、自分なりの生き方を貫いてゆく。ドラマ『Years and Years』は、英BBC Oneで5月中旬から放送中だ。

らしさ全開の親子三世代

大胆なライオンズ家は、信念のままに行動するのがいわば家訓。研修医のダニエル(『クワンティコ』のラッセル・トヴェイ)はラルフ(『ヒューマンズ』のディノ・フェッチャー)と同性婚しており、勤務先の医院でウクライナからの難民を堂々と受け入れる。金融アドバイザーとして活躍するステファン(『ナイトメア ~血塗られた秘密~』のロリー・キニア)の娘ベサニー(リディア・ウエスト)は、性転換手術を受けて女性となった身だ。ほか、いつも陽気なシングルマザーのロージー(『ブレグジット EU離脱』のルース・マデリー)や政治活動に余念のないイーディス(『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』のジェシカ・ハインズ)など、エネルギッシュなメンバーが盛りだくさん。

政治の世界では、物語の進行とともに、極右の人民党を率いるヴィヴィアン(『いつか晴れた日に』のエマ・トンプソン)が人気を拡大。無知な市民が投票することのないようIQテストを実施すべき、などの斬新な発言が物議を醸し、ライオンズ一家でも激論が交わされる。全6話を通じて、2034年までのイギリスの未来予想図を駆け足で綴るシリーズだ。

賑やかな家族の未来は、ちょっとだけビター

時間を超えた未来のイギリスを見せてくれる『Years and Years』。信じられないような展開を実に興味深く描いた作品、と英Independent紙は紹介している。大胆な党首ヴィヴィアンが人々を扇動する未来のイギリスは、まるでディストピア。それでいて、どこか現実味がこもった不思議な世界が画面上に展開される。

時代の特徴を感じ取ることのできる作品だ、と評価するのは英Guardian紙。登場人物たちは明るく振る舞いながらも、不安定な情勢による恐れと不安を感じさせる。安定性を求めてさまよう現代の我々にも通じるものがある、と同紙はキャラクターへの親近感を吐露している。憂いという共通の感情を設定することで、未来の世代へのシンパシーを演出するという技巧が光る。

コミカルなシーンがSNSで話題に

イギリスの国内情勢を扱う本作だが、意外なことにコメディの要素も強い。ライオンズ家の一番下の娘であるロージーは、初デート帰りに彼氏の家へ立ち寄る。そこにはキースという「お手伝いロボ」がいるが、このキース、実は彼氏のいかがわしい行為をお手伝いしていた。普通の脚本家が書けばこのシーンは彼女が幻滅する展開になるはずだが、ロージーはその場で兄弟に電話をかけると今目にしたばかりの出来事を大声で笑い飛ばす。暗い話など御免とばかりの、実に彼女らしいシーンとなっている。

このシーンはIndependent紙のレビュアーも、お気に入りのシーンだとしている。当初キースは普通のロボットに見えるが、ロージーの発見した妙なアタッチメントが取り付け可能と気づいたあたりで真の用途を悟ってしまうという展開だ。

SNSでも話題となっており、英Metro紙によると、来年の英国アカデミー賞はこのロボットが受賞するだろう、とジョークを飛ばす視聴者もいるほどだとか。脚本は、イギリスの辣腕脚本家であるラッセル・T・デイヴィース(『英国スキャンダル ~セックスと陰謀のソープ事件』『秘密情報部 トーチウッド』)。随所で見せるユーモアのセンスはさすがだ。

ブレグジットの先にある不安定な将来を図太く生きる『Years and Years』は、英BBC Oneで放送中。(海外ドラマNAVI)

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ラッセル・トヴェイ
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