米Showtimeで6月中旬から放送されている『City on a Hill(原題)』は、腐敗する警察組織と人種問題をテーマにした重厚な刑事ドラマ。人種差別主義者の老練なFBI職員が、黒人の地方検事補と異色のタッグを組む。1990年代初頭のボストンの空気感にも注目したい作品だ。
腐敗した白人捜査官と、正義感にあふれる黒人検事補
世間を騒がすことになったその事件は、1989年の10月に起きた。白人のチャールズが妻を殺害した上で、自らも故意に負傷し、黒人の殺人鬼が家に押し入って自分たちを襲ったと警察に偽証したのだ。彼の証言を元に警察は黒人の男の身柄を確保し、脅迫などの手段を使って取り調べを強行。しかしチャールズの兄弟の証言により、事件は自作自演だったと露呈する。チャールズは自ら命を絶ち、一連の事件は世間を揺るがす大論争を巻き起こした。
このような警察の腐敗が問題になる中、地元ボストン出身である白人の年配FBI捜査官ジャッキー・ロアー(『ザ・フォロイング』のケヴィン・ベーコン)は地方検事補のデコーシー・ウォード(『レバレッジ ~詐欺師たちの流儀』のオルディス・ホッジ)とコンビを組むことに。二人の使命は、連続強盗事件を解決すること。ジャッキーは公然と人種差別をし、コカインをやり、愛人もいたりと問題の多い人間だが、腐敗したFBIでは仲間たちから尊敬されている。対する相棒のデコーシーはブルックリンで生まれ育った黒人で、腐敗と誤射事件を繰り返す警官への厳しい処分を訴えて名声を高めた人物だ。反発し合う二人は強盗事件の調査を発端に、思わぬ巨悪との対峙を迫られる。
ゆったりしたテンポで綴る、まるで一冊の小説
TVドラマとしては比較的ゆったりしたペース配分が特徴の本作。冒頭の数話ではこれといった事件は起きず、白人捜査官のジャッキーを中心に、彼を取り巻くキャラクターたちが登場してゆく形となる。妻や兄弟、友人や上司などの様々な人物が時間をかけて登場するため、海外ドラマの登場人物に混乱しがちな視聴者にとっては有り難いだろう。イッキ見する視聴者を取り込むことなど意識せず、まるで小説のような自信に満ちた独自のアプローチで物語が進む、と米Hollywood Reporter誌は表現する。
じっくり時間をかけて進むストーリーに、米WEBメディアRoger Ebertも魅力を感じているようだ。冒頭数話にはもう少しタイトにした方が良い場面もあったと指摘しつつも、決して退屈する瞬間はなかったと好意的。物語が進むほどに登場人物に熱がこもり、いっそう興味深いドラマになってゆくだろうと、本作の成功を確実視し、本作を「ボストンの刑事版『グリーンブック』」だと、本年度アカデミー賞作品賞に輝いた作品になぞらえている。
ベン・アフレックら豪華製作陣が揃う
製作を手掛けるのは、映画界で活躍してきたジェニファー・トッド。ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』などをプロデュースしてきた。本作は「おしゃべりで、それでいてコミュニケーションが致命的に下手な人たち」のドラマだと説明するトッドのコメントに、Roger Ebertは共感。キリッと締まった会話が新鮮で、それでいて使い古されたり不自然だったりする感は皆無な、リアルなやり取りだと賞賛している。考える前に口や手が出てしまうキャラクターが頻出する本シリーズ。それぞれバックストーリーを持ち好き勝手に動く登場人物たちを、ジェニファーが歴戦の手腕でまとめ上げている。
Hollywood Reporter誌もプロデューサー陣の豪華さを指摘。総勢11人のプロデューサーが関わっており、俳優でありプロデューサーとしても活動するベン・アフレック、マット・デイモンの二人も名を連ねる。ショーランナーを務めるのは、『ホミサイド/殺人捜査課』『OZ/オズ』のトム・フォンタナだ。
社会派刑事ドラマ『City on a Hill』は、米Showtimeで放送中。(海外ドラマNAVI)
Photo:
『City on a Hill』
Courtesy of Showtime