アメコミの世界は今後さらにバラエティ豊かに!バットマン80周年ジム・リー直撃インタビュー

1939年3月にアメリカで発売された「Detective Comics」誌27号に初登場したバットマンは、数々の実写映画、TVドラマ、アニメーションが製作され、キャラクターグッズも数多く展開されてきた。そして2019年、世界中でバットマンの80周年アニバーサリープロジェクトが始動している。7月にはサンディエゴ・コミコンでレッドカーペットならぬ"ブラック・カーペット"セレモニーイベントが開催。9月21日のバットマンの日には、各国都市で日没後にバットシグナルを点灯するセレモニーが実施された。日本では東京・渋谷にて行われ、80周年を祝うタイアップイベントも開催中と、ますます盛り上がりを見せている。それに合わせて、世界的に著名なコミック・アーティストであるジム・リーを直撃! ライター、編集者、発行人にしてDCの現CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)、ダン・ディディオとともに同社の発行人も務める彼に、DCのCCOとして、そして一人のコミック・アーティストとして、バットマン80周年や今後のアメコミについて語ってもらった。

――「ダークナイト:ボーイ・ワンダー」や「バットマン HUSH」などに携わってきたコミック・アーティストとして、バットマン80周年を迎えた今のご心境は?

80周年ということで非常にエキサイティングしています。今はスーパーバイザー的な役割でそれぞれのコンテンツの道筋を立てる役割を担っていて最高な状況だけど、たまに現場に戻りたくなることはありますね(笑) カッコイイなというものを目にすると特にね。自分も実際に手を動かしていた時代があったわけですから。作り手として没頭して、チームのみんなと身を投じるという体験が懐かしくて、もう1回戻りたい気持ちになることはあります。

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――DCのCCOとしての立場としてはいかがですか?

全てを監修することができる立場で、DCの世界観やキャラクターを熟知している一流のクリエイターたちをワーナー・ブラザースが用意してくださるので、そういう彼らと仕事ができるのは嬉しいですね。ワーナー・ブラザースからのDCの世界に対する愛とエネルギーをすごく感じています。これからもいろんなDC作品に期待できると思いますよ。「HBO Max」という新しいプラットフォームも立ち上がり、そこに作品を提供できるということで、DC作品に対してまだまだ需要はあると思いますので、DCのビジネスに従事している者として、いい時代だと言えます。とにかく世界屈指のショーランナー、脚本家、監督たちと組めるのは、この上なく幸せなことですね。

――DCのCCO としてどのような仕事をされているのですか?

CCOとしてやっていることはDCのキャラクターをあらゆるメディアを通して世に出すことです。立場的にはワーナー・ブラザースというスタジオの中で我々は権利者であって、DCの世界というのはキャラクターの宝庫ですから、キャラクターの価値をどのように最大限活用するのかを考えて、ワーナー・ブラザースの映画やTV番組、アニメーション、インタラクティブゲーム、コンシューマプロダクツなどの各部門とコラボレーションしながら支え合っています。それと最も意識していることは、多様なメディアの中でもキャラクターのコアバリューとして、キャラクターはこれを体現しているものなんだという一貫性ですね。バットマンの定義として何を意味しているのか、ワンダーウーマンは何を定義しているのかという、その一貫性をすごく大事にしています。

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――バットマンというキャラクターの定義として考えていることと、その定義に今後変化が訪れることはあるのでしょうか?

出てきた当初のバットマンは、銃を使うキャラクターでした。それはすぐに使わなくなりましたが、スーパーパワーを持っていないというのがバットマンの象徴だったんです。それが今後どうなっていくかに関して、これは絶対にないということは言い切れません。答えは未来のクリエイターたちがいろいろ模索していかなければならないと思っています。例えば、バットスーツがアイアンマンのようにテクノロジー満載になって空を飛んだりとかね。ただ、そうなるとバットマンにとっては非常に実存的な問題ですね。進化したバットスーツによってある種のスーパーパワーを身につけてしまうことになると、スーパーパワーを持たないという存在意義の一つがブレることになるので、バットマンをユニークな存在たらしめるものを壊していいのかという話になります。そうしたことはこれからのクリエイターたちが考えなければならない問題でしょう。ただ、我々として指針みたいなものはありますが、そこまでガチガチに決めているわけではありません。これからのクリエイターが自由に想像できる余白は残しておきたいですからね。

――アメコミ人気により、ファッションなどのアイコンからアメコミの世界に入るファンも増えていますね。

映画やTV番組からアメコミの世界に入ると考えがちなんですけど、ファッションやオモチャも入り口として同じくらいの重みを持ちうると思います。それがキャラクターと関連づいていればいいものだと思うんです。私の子どももフラッシュのスニーカーを履くと速く走れそうだから履くと言っていますから(笑) DCの世界にファンを引き込むには入り口はなんでもいいんじゃないでしょうか。

それとコスプレも面白いと思っています。このキャラクターのこのルックスが好きだとか、このキャラクターがカッコイイとか、そういうアングルでの憧れというのも十分にきっかけになりますよね。あのカッコイイキャラクターになりたいという思いでみなさんコスプレをするわけですから、そういうのだって一つの入り方だと思います。

――コミック・アーティストとして数々の作品を生み出されてきましたが、影響を受けた作品を教えてください。

若い頃はアメコミが主軸だったので、僕らの先代のクリエイターであるジョージ・ペレス、ジョン・バーン、フランク・ミラーたちの影響が色濃かったですね。それから、ヨーロッパのメビウスやバリー・ウィンザー=スミスの作品を読むようになりました。1980年代後半になると、マーベルが輸入するようになった大友克洋の「AKIRA」を読んで衝撃を受けました。たとえるなら、それまでピザを食べたことがない人が初めてピザを食べたような感じでした(笑) 「AKIRA」のストーリーの紡ぎ方、絵の描き方、スピード感の出し方、それに映画的な絵作りで何章にも及ぶストーリーは、それまでのアメコミになかった構造でしたね。その他には士郎正宗の「アップルシード」からいろんなインスピレーションを受けました。メカやスーツ、銃のデザインがとにかく素晴らしかったです。

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――大学で心理学を学んで学士号をお持ちだそうですが、コミックのキャラクターを描く時に役立ちましたか?

心理学はいろんな意味で使っています。一つはクリエイターとして、ストーリーを構築する時に何がキャラクターの動機になるかというのは必ず考えることなので、それをまず意識します。実際に絵を描いていく上でも心理学的な観察というのは入ってきます。このキャラクターは今どういう心理状態にあるのか、どういう精神状態にあるのかを考えて、それに合ったジェスチャーやシンボリズムを使うといったところでも、心理学で学んだことは活かされていますね。

日々の仕事の中でも役立っています。人がどういう風に情報をインプットしていくのかというのは、人によって傾向は違うわけで、視覚、触覚、言語学的な認知などが人それぞれだと分かっていれば、大人数いるチームを指揮する上では大いに役立ちますからね。それと同時に、何に動機づけられるのかというのを意識すると、非常にオープンマインドでチーム運営にあたることができるんです。

――バットマンが生まれて80年ですが、これから先、アメコミの世界はどうなっていくと思われますか?

アメコミの歴史を紐解くと、昔はマンハッタンの小さなコミュニティでの出来事だったのが、数十年という時を経て世界へと拡大していったわけですよね。それはFAXやインターネットなどの技術の発達によっていろいろできるようになって、それと平行するようにクリエイター層もどんどん国際色豊かになってきました。それが今後80年間、加速していくでしょう。そして、みなさんの現実をより反映するような内容になっていくでしょうし、より多様な人のリプレゼンテーションができるようなコンテンツになっていくと思います。

また、自分から積極的にその世界に入り込んでいくというアクションが生まれてくるんじゃないでしょうか。コミックを読んだり、映画を見たりという受動的なコンテンツ消化から、コスプレをしたり、コミコンでの活動、ARやVRによって自ら世界に入っていくという行動も増えてきているので、それもまた傾向として出てくるんじゃないかと考えています。

(取材・文/豹坂@櫻井宏充)

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この2019年は、バットマンのアニバーサリープロジェクトが始動中! 新たにオープンした80周年記念サイトとワーナーDC 公式ツイッターを通して、日本で行うプロジェクトや企画、商品情報、世界各国のバットマンにまつわる最新情報が発信されている。

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