『ARROW』はいかにして生まれたのか?TVのスーパーヒーローたちに残したもの

米CWで放送されているDCドラマは総称して"アローバース"と呼ばれている。『THE FLASH/フラッシュ』や『SUPERGIRL/スーパーガール』、『レジェンド・オブ・トゥモロー』など、DCコミックスの人気ヒーローを主人公にした実写ドラマが人気を博しているが、その先駆者となったのが現在本国アメリカで放送中のシーズン8で幕を下ろすことが決まった『ARROW/アロー』。『ARROW』が、いかにしてスーパーヒーローというジャンルをTVの中で確立させたのか、米Entertainment Weeklyが伝えている。

「私は今38歳で、30歳のときにこの仕事に就きました。それまで1年以上同じ仕事はしていませんでした。10年近く『ARROW』をやっていたという事実、そしてもうやることはないという事実が少し怖いです」と語ったのは、『ARROW』の主人公オリバー・クイーンことグリーン・アローを演じるスティーヴン・アメル。彼が緑のフードを脱ぐ覚悟を決めたのは、シーズン6の途中のこと。「前に進む時が来た」と確信し、シーズン7が終わったタイミングで番組を去る意思を告げたという。「僕の娘は今年10月で6歳になって、ロサンゼルスの学校に通うことになる。妻と僕はLAで娘を育てたいんだ」(『ARROW』の撮影は、カナダのバンクーバーで行われている)

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スティーヴンの決意を聞いたクリエイターのグレッグ・バーランティは、このタイミングが『ARROW』を終わらせる最適な時だと感じ、ファイナルシーズンとしてもう1シーズンだけ一緒にやろうとスティーヴンを説得、全10話構成でシーズン8の製作が決まった。

『ARROW』の放送が始まったのは2012年秋のこと。バーランティ、マーク・グッゲンハイム、アンドリュー・クライスバーグが企画した。億万長者の息子でプレイボーイだったオリバー(スティーヴン)が、父との船旅で遭難し地獄のような5年間を過ごしたことをきっかけに、父から託された「故郷(スター・シティ)を救う」という目的のため、弓矢を手に緑のスーツに身を包んで、夜な夜な悪党と戦う日々が始まった。はじめこそ一人だったオリバーも、元軍人のジョン・ディグル(デヴィッド・ラムゼイ)やIT担当のフェリシティ・スモーク(エミリー・ベット・リッカーズ)、弁護士のローレル・ランス(ケイティ・キャシディ)といった仲間を得て"チーム・アロー"を結成。出会いと別れを繰り返しながら数々のヴィランを倒し、街を守ってきた。

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初回の放送は2009年の『ヴァンパイア・ダイアリーズ』の記録を塗り替えて、CWの過去最高視聴数を更新するほどの大成功を収めた。しかし、バーランティとグッゲンハイムが共同で脚本を執筆したDC映画『グリーン・ランタン』が興行的に失敗していたこともあり、ワーナー・ブラザース・テレビジョンのピーター・ロス社長から「グリーン・アロー」のTV化を持ちかけられた際は快諾できずにいたという。その後話し合いを重ねた結果、彼らは自分たちがクリエイティブコントロールを維持することを条件に企画を引き受け、『ARROW』が誕生した。

とはいえ、当時のTV界は漫画原作の作品は不安視されていた。つまり、スーパーパワーを持つ主人公が特殊な全身タイツのスーツに身を包み、勧善懲悪を実行することに抵抗感を持たれていた。同じくCWで放送されていた『ヤング・スーパーマン』は「ノータイツ、ノーフライング」のルールで10シーズン続けられ、スーパーヒーローの衣装が登場したのは最後の年だけだった。

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しかし、『ARROW』は主人公に特殊能力こそないものの、ロビン・フッドのようなスーツを着用することからは逃げずに、シーズン1第7話「復讐の女神」には同様のスタイルのスーパーヒロイン、ハントレス(ジェシカ・デ・ゴウ)も登場。その後、登場するヒーローやヴィランはコミックものらしいコスチュームをまとうことを定着させた。『ARROW』ではスーパーヒーローがフードを被ることにもこだわっており、「認めてもらうまでに多くの話し合いが必要だったが、その結果コリーン・アトウッドに(当時の)スーツをデザインしてもらうことができた」とバーランティが明かしている。アトウッドは『シザーハンズ』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズなど数々の映画で衣装デザインを手がけており、『SAYURI』や『アリス・イン・ワンダーランド』などで4度にわたりアカデミー賞を受賞した業界のトップに立つ人物。今となってはアローバースのヒーローたちが特殊なスーツを着用することは当たり前になっているが、これも『ARROW』での成功があったからこそなのだ。

ところで、『ARROW』のヒットを語る上で欠かせない人物がいる。チーム・アローのメンバーであり、オリバーの妻であるフェリシティ役のエミリーだ。

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実は当初、フェリシティというキャラクターはシーズン1に数話登場するだけの予定だったという。しかし、重厚感のあるオリバーとは対照的に優秀ながら軽やかに振る舞う彼女は視聴者にとってお気に入りのキャラクターになり、レギュラーへ昇格することに。後に、オリバーの公私のパートナーとなる重要なキャラクターにまで成長し、シンデレラストーリーを実現させたのだ。そんなエミリーのことをスティーヴンは「素晴らしい才能を持ち、誰も予想できなかった空間を作った。彼女を見つけることができなかったら、番組が機能していたかわからない」と絶賛。だが残念ながら、エミリーは最終シーズンを前に降板。スティーヴンは「チーム・アローの心臓なしにシリーズを続けることは難しい。みんなが知っている『ARROW』は事実上終わったんだ。シーズン8は別の作品になる」とまで話していた。

こうしてヒットした『ARROW』に続いて、CWでは『THE FLASH』の製作が決まる。「計画を立てることは素晴らしいことだと思っているが、ユニバースを創るとなると、歩く前に走り始めることのないように注意しないといけない」とグッゲンハイムが話す通り、彼らは準備段階として『THE FLASH』の主人公バリー・アレン役のグラント・ガスティンを『ARROW』シーズン2の中盤に登場させ、彼の存在をファンに浸透させた。その後、2015年に『SUPERGIRL』(シーズン1は米NBCにて)、2016年に『レジェンド・オブ・トゥモロー』と続き、昨年秋からは『Batwoman(原題)』がスタートした。


『ARROW』から始まったこの同一世界は"アローバース"と呼ばれるものになったが、意外にもスティーヴンは「他のショーについては考えていない」そうで、「みんなに素晴らしい仕事をしてほしいと思っているが、(他の番組については)僕の責任ではない。僕の責任は『ARROW』にあり、キャスト、クルーの全員が良い状態で仕事をしていることを確認しないといけない」とコメント。

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弟分のグラントはそんなスティーヴンの姿勢を支持し、「彼がどうやって(撮影をしながら)トレーニングをして、コンベンションに参加するスケジュールをこなし、どれほどの情熱を持ってその愛情をファンに見せているのか、僕にはわからない。彼はいつも準備している。彼は現場の誰よりも作品のクオリティを高く保つことを大切にしているんだ」と話した。

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個々に責任を持って高いクオリティを保ち続けているからこそ、8年が経った現在もアローバースはファンに愛され、ヒットし続けている。懸念されがちだったスーパーヒーローというジャンルをTV界に確立させ、現在のスーパーヒーローブームに大きく貢献した『ARROW/アロー』の戦いが今月28日(火)の放送で終わりを迎える―。

(翻訳/Ai Ono)

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『ARROW/アロー』(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. ARROWTM and all pre-existing characters and elements TM and (c)DC Comics./『ヤング・スーパーマン』TM & (c)Warner Bros. Entertainment Inc. /『THE FLASH/フラッシュ』THE FLASH and all pre-existing characters and elements TM and (c) DC Comics. The Flash series and all related new characters and elements TM and (c) Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. /『Batwoman』公式Twitterより