「オオカミを信用するな!」『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』マイケル・シーン直撃インタビュー

FBIをクビになり、ニューヨーク市警で働くことになったプロファイラーのマルコム・ブライト。犯罪者の心理が手に取るように分かり、優秀だがどこか陰のある彼の秘密は、"外科医"と呼ばれた悪名高いシリアルキラー、マーティン・ホイットリーを父に持つことだった...。凶悪犯罪に立ち向かうプロファイラーの活躍と、彼の家族を取り巻く異様な状況を緊張感たっぷりに描く異色のクライムスリラー『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』が、11月10日(火)よりWOWOWプライムにて日本初放送。2019年9月に米FOXで放送されると、開始2週間でフルシーズン製作が決まり、シーズン2へも更新された話題作だ。本作で鍵を握る存在、知的なシリアルキラーのマーティン・ホイットリーに扮するのは、映画・ドラマで幅広い役を演じるカメレオン俳優のマイケル・シーン(『グッド・オーメンズ』『グッド・ファイト』)。実は実在する連続殺人犯に関する脚本を執筆したこともあるという彼が、役作りやシリアルキラーについて、役柄同様に知性とユーモアに満ちた口調で饒舌に語ってくれた。

――息子マルコム役のトム・ペインは本作に出演するにあたって、実在の連続殺人鬼をテーマにしたポッドキャストや、連続殺人鬼を追うデヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』を参考にしたそうです。また、かつてハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスは同役を演じるにあたって蛇をイメージしたと話しています。"現代のハンニバル・レクター"とも言えるキャラクターを演じるにあたって、あなた自身が参考にしたものはありますか?

まず脚本を読んでの印象を話すと、過去作へのオマージュ的な描写があり、マイケル・マン監督の『刑事グラハム/凍りついた欲望』や『羊たちの沈黙』に登場するレクター博士への暗喩など、視聴者に対してとっかかりを提供しつつ、独自にアレンジしているところが面白いと思った。

役作りについて話すと、私は数年かけてとある脚本を書いたことがあるのだが、それは"グリーン・リバー・キラー"と呼ばれていた実在の連続殺人犯を描いたものなんだ。『プロディガル・サン』のマーティンとは異なる人物像だが、脚本を書くにあたりテーマについて調べなければならなかったので、それがマーティンを演じる上で役に立ったね。

あとは、英国にハロルド・シップマンという連続殺人犯がかつていたのだが、彼についてのドキュメンタリーを見たり書籍を読んだりした。シップマンは医者で、地域では尊敬された信頼の厚い男だったが、彼はその信頼を悪用して医療行為で大勢を殺害した。マーティンも外科医で、周りから尊敬されているような男だから共通点が多いんだ。

それ以外ではシリアルキラーのテッド・バンディについても調べた。彼もとても魅力的な男だったようで、ユーモアのセンスがあり、公判中も多くの女性を魅了していたようだが、これもマーティンを演じる上で参考になった。マーティンも一見怪物ではなく、その魅力やユーモア感覚、好感度をうまく利用して、被害者を安心させるからね。

もう一つ、面白いドキュメンタリーを見たのだけど、これは終身刑を課された男をフィーチャーしたものだった。この男はとてつもない犯罪を犯したにもかかわらず、悔恨の念がまったくうかがえないような人物だった。しかし、彼には娘と孫娘がいて、彼らと関係を築けることを一種の贖罪のようにとらえている節があり、そこから様々な疑問が湧き上がる。サイコパスやソシオパスには共感能力などないと言われているが、彼らも愛を感じることはあるのだろうか? あるいはそれは自己愛に過ぎないのだろうか? そういうことをあれこれと考え、マーティンを演じるヒントにした。

そのほかのモチーフとして意識したのはオオカミだ。西洋には「赤ずきん」のように、こういうヴィランを軸にしたお伽話や民話がたくさんある。そもそも昔は狼が村落からそう遠くはないところに生息しており、危険な存在だったから、子どもを戒める目的で口承文化の中で語り継がれたものだ。それは教訓だったが、同時にエンターテイメントでもあった。実はローレンス・オリヴィエもリチャード3世を演じる時に悪いオオカミをモチーフにしていたそうだ。

そういう人物やモチーフには大きな心理的作用があると思う。

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――本作でのトムとの共演シーンはほぼぶっつけ本番だったと聞いています。『グッド・オーメンズ』でもそういうアプローチだったそうですが、その方がやりやすいのですか?

本当は役へのアプローチについて共演者と事前に話し合いができるといい。ただ『プロディガル・サン』ではキャスティングの段取り上それは叶わず(編集部注:撮影開始直前に、主役がフィン・ジョーンズからトム・ペインに交代していた)、トムとは事前に会わずに初共演をすることになった。ところが、これが予想に反して良い効果を発揮したようだ。10年ぶりに顔を合わせる父子を演じるわけだから、実際の状況が役柄とうまく重なり合ったわけさ。お互いをよく観察し、お互いの言葉を注意深く聞かなければならず、そのテンションが観る皆さんにも伝わると嬉しいね。お互いのことをよく知らないのに、切っても切れない関係にあるこの二人は独特な父子なわけだけど、初対面にして初共演となった私たちの現状とうまくマッチしたので良かった。これからも共演を重ねていく中でトムとのリズムをさらに構築できたら嬉しい。

――シリアルキラーといえば気になるのは、その人がもともとそういう人間だったのか、それとも何かのきっかけがあってそういう人になったのか、という点です。シリーズの中でそれについて語られていくのかもしれませんが、あなた自身はマーティンがシリアルキラーである理由についてどのように解釈していますか?

これに関しては様々な研究がなされていて、まだ分からない部分が多いね。私が読んだ資料によると、様々な要素が合わさって殺人鬼が出来上がるようだ。もちろんごく稀なことではあるが、遺伝、脳内物質、生育環境、家庭内環境など様々な要因が重なり、これが破壊的な人格や人生に結びつく。一方で、幼少期に想像を絶するような酷い体験をしてもシリアルキラーにならない人だっているから、トラウマや虐待だけが原因とも言い切れない。現に、そういった体験をポジティブなものに昇華したり、なんとか生き延びる人だっている。生き延びるだけでも快挙だと思うよ。

逆に恵まれた育ちでも共感能力に欠けるために連続殺人や残虐な行為に及ぶ人だっている。共感の欠如は大きな要素だ。中には正常に生活できていても共感能力のない人もいるね。そういう人が一国を担うリーダーになることもある(笑)

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――マーティンはマルコムに歪んだ愛情をぶつけますが、「お前を愛してる、なぜなら私たちは同じだからだ」というマーティンの言葉からすると、マーティンは自己愛(自分の分身に対する愛)に近い意味で息子を求めているのでしょうか?

自己愛が強いと思うよ。マーティンはナルシシズムの強い男だ。そもそもこのシリーズのクリエイターであるクリス・フェダックとサム・スクレイヴァーは、ナルシシズムというコンセプトを出発点にしている。マーティンが息子を自らの分身、そして自らを映し出す鏡と捉えるところは、ナルシシズムの顕著な表れなのではないだろうか。それはつまり、他人の自立と主体を認めないということだから。血がつながっているだけに純粋に父子の絆を確かめたいという部分もあるのだろうけど、マーティンのナルシシズムは否定しようがなく、マルコムが必死に抵抗するのもそこが大きな要因なのだろうね。

――本作の第1話を見た限りですが、今後に予測不能なストーリーやサプライズがたくさん待っているように感じました。そう期待していていいでしょうか? またこうしたサプライズについて、主要キャストであるあなたはかなり事前に知らされているのですか? それともみんなと同じように脚本をもらったタイミングでその回の展開に驚いているのでしょうか?

サプライズはたくさんあるよ! なにせ秘密の上に成り立っている一家の話だからね。その秘密には数々のミステリー、そして骸骨(=明かせない秘密)が、それこそ文字通りたくさん隠されている。

そういうサプライズを事前に知らされたくない俳優もいるが、私の場合、特にこのような撮影の長く続くシリーズでは、人物造形やストーリー展開にアイデアを提供したいと思う方なんだ。キャラクターについては演じる自分が一番熟知しているわけだから、違和感を覚えるような脚本が上がってきてがっかりするようなことは避けたい。もちろん意外性も楽しみたいので、そのバランスは難しいのだけどね。

いずれにしても、クリエイターや脚本家のみんなと話の展開について話し合いながら進めるのが好きなんだ。演じる過程でもいろいろな発見があるから、それを踏まえたフィードバックをさせてもらえるといいね。結末のまだ決まってない展開の場合は尚更そう思う。自分が学んだことをストーリー展開に反映させられるとやり甲斐があるので、積極的にそういうチャンスを探すし、そういうプロセスを歓迎してくれる人と組みたいと思う。『プロディガル・サン』の現場では、マーティンの人格、面白そうなストーリー展開、掘り下げてみたいテーマ、マーティンの歴史や背景など、様々なことについて話し合うことができるし、撮影を進めながらいろいろと膨らませることができるから楽しいよ。

――本作をこれからご覧になる方に、特にここに注目してほしいといったことはありますか?

これからご覧になる方には、「オオカミに油断するな」と言いたい。オオカミがどんなに「大丈夫だよ」となだめようとしても、絶対に信用してはならない! それと、ビックリするような展開があるから乞うご期待! 展開はどんどんエスカレートしていくから面白いよ。

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■『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』(全20話)放送情報
WOWOWプライムにて11月10日(火)スタート(第1話無料放送)
[二]毎週火曜 23:00~
[字]毎週水曜 22:00~

Photo:

『プロディガル・サン 殺人鬼の系譜』
© Warner Bros. Entertainment Inc.