【まとめ】事実は小説より奇なり...実在の事件を元にした英国ドラマ4選

「事実は小説より奇なり」ということわざがあるが、その言葉の通り、現実の世界で実際に起こる出来事は、空想によって書かれた小説より何倍も不可解だったり恐ろしかったりすることがある。今回は、イギリスで実際にあった出来事や犯罪事件を元にした英国ドラマの中からオススメをご紹介しよう。

『DES/デス』

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1970~1980年代にロンドンで実際に起きた殺人事件を題材に、デヴィッド・テナント(『ドクター・フー』『ブロードチャーチ ~殺意の町~』)が連続殺人犯のデニス・ニルセンを演じた全3話のミニシリーズ。イギリスでは2020年9月に民放ITVで放送された。

1983年のロンドン北部住宅街、あるアパートの排水管の詰まりで呼ばれた配管工が発見したのは人間の骨と肉の欠片だった。ピーター・ジェイ警部は、そのアパートの最上階に住んでいたデニス・ニルセンを逮捕。ニルセンは部屋に連れ込んだ相手を殺し、死体をバラバラにして鍋で煮た後で排水溝に流したことを認める。さらに1978年からの数年間に15人ほどを殺したことも告白し...。

第1話でニルセンの犯罪の数々が明らかになり、第2話で被害者を特定しようとするジェイ警部と早く起訴して捜査を切り上げたい警察上層部との葛藤が描かれ、ラストの第3話は被告の責任能力をめぐって有罪か無罪かが問われる法廷劇となっている。

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見どころは何と言っても、デスに扮したデヴィッドの怪演だ。警察の取り調べに冷静に応じ、犯行の手口を表情も変えずに淡々と話す姿は背筋も凍るほど。目が笑っていない表情が凄かった。ジェイ警部役は、『グッド・オーメンズ』でもデヴィッドと共演したダニエル・メイズ、伝記本を書くためにニルセンを取材するブライアン・マスターズを『ザ・クラウン』のジェイソン・ワトキンが演じる。

ニルセンはイギリス史上最も極悪な連続殺人犯の一人として悪名高い人物。デスという愛称の彼は、スコットランド出身の同性愛者で職業安定所に勤務しながら、パブや通りで出会ったホームレスやドラッグ依存症の若い男性を標的にしていた。どこにでもいるような平凡な男性が快楽のために殺害を繰り返す死体愛好者だったという何とも恐ろしい事実をドラマは淡々と伝えている。

『ソールズベリ 毒殺未遂事件』

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2018年に英南部ウィルトシャー州にあるソールズベリで起きた元スパイの毒殺未遂事件を 元にしたドラマ。2020年6月にBBCで放送され、日曜21時に放送されたドラマとしては、過去6年間で最高の視聴率を達成した作品だ。

公園のベンチで父娘が意識不明の状態で発見される。二人はロシア人のセルゲイ・スクリープルと娘のユリアで、セルゲイはイギリスに機密情報を渡していた元ロシアのスパイだった。彼らは猛毒の神経剤ノビチョクを使われていたことが判明。現場を検証したニック・ベイリー巡査部長も倒れ、ウィルトシャー州公衆衛生局長であるトレーシー・ダシュキェヴィチは対策に追われる。やがて、ソールズベリから離れたエイムズベリでも男女が倒れたというニュースが伝わり...。

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トレーシー・ダシュキェヴィチを演じるのはアン=マリー・ダフ(『恥はかき捨て』)。単なる犯罪再現ドラマではなく、政治サスペンスでもなく、毒殺未遂事件に巻き込まれた一般人の人間模様を丹念に描く力強い人間ドラマだ。ノビチョクから市民を守ろうと奮闘する公衆衛生局や警察、事件で唯一の死者となった女性とその恋人など、小さな街で政治的陰謀の当事者となった普通の市民たちや家族の姿に感情が揺さぶられる。

神経剤からどのように一般市民を守るのか? 完全ロックダウン(都市封鎖)を行うのか? 安全確保と経済活動とのバランスは?などの問いかけは、コロナ禍に見舞われている現在の世界が抱える問題そのままでもある。

AXNミステリーにて2021年1月31日(日)22:00より放送。

 

『クイズ~100万ポンドを夢見た男』

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人気クイズ番組『Who Wants to Be a Millionaire?(日本版はクイズ$ミリオネア)』で起きた不正行為を取り上げた全3話のミニシリーズ。事件を 元にしたジェームズ・グレアムの戯曲を映像化したもので、グレアムがドラマの脚本も手掛けている。監督はスティーヴン・フリアーズ(『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』)。イギリスでは2020年4月にITVで放送された。

2001年、陸軍少佐のチャールズ・イングラムはクイズ番組に出場し、賞金100万ポンドを獲得するが、現場で働くスタッフはチャールズの不審な行動を疑問視。調査の結果、観客席にいた妻ダイアナと知り合いの大学講師ウィトックが咳をすることで正答を教えていたことが判明、3人は裁判で詐欺罪に問われ...。

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このクイズ番組は1998年の放送スタートから高視聴率を記録し、100カ国以上でリメイクされたITVの看板番組。ドラマでは番組が誕生した経緯から、イングラム夫妻が番組にのめり込んでいき、そして裁判で判決が出るまでを辿るが、重くシリアスな内容ではなく、どこかコミカルで軽いタッチになっている。

気が強い妻の尻に敷かれ、渋々クイズ番組に出場するチャールズを演じるのはマシュー・マクファディン(『エジソンズ・ゲーム』)。妻ダイアナ役はシアン・クリフォード(『Fleabag フリーバッグ』)。また、『グッド・オーメンズ』のマイケル・シーンが名物司会者のクリス・タラントに扮しているが、しゃべり方や表情まで激似で、彼の熱演だけでも見る価値ありだ!

WOWOWプライムにて2021年1月3日(日)18:00より放送。

 

『ミセス・ウィルソン』

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英女優ルース・ウィルソン(『刑事ジョン・ルーサー』『アフェア 情事の行方』)の実の祖母アリソンと家族の回顧録から作られた全3話のミニシリーズ。BBCで2018年に放送された。アリソンの衝撃の実体験を元に、夫婦と家族の意味を問うミステリードラマ。

1960年代のロンドン、MI6(秘密諜報部)の元諜報員で小説家でもある夫アレックと二人の息子とともに、平凡ながらも幸せな結婚生活を送っていたアリソン・ウィルソン。ある日、夫が心臓発作で突然亡くなってしまう。悲しみに暮れるアリソンの前に、自分がアレックの本当の妻であると主張する女性が現れる。自分たちの結婚の正統性を証明しようとするアリソンだが、夫の隠された秘密が次々に明らかになり...。

実の祖母アリソンを演じたルースは製作総指揮も務め、本作で英国アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど高い評価を受けた。夫アレック役はイアン・グレン(『ゲーム・オブ・スローンズ』)。ほかにも、キーリー・ホーズ(『ボディガード ―守るべきもの―』)、フィオナ・ショー(『キリング・イヴ/Killing Eve』)などが出演。

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もし夫に別の妻や家族がいたら? 過去20年間に自分が築き上げたものが突然ガラガラと崩れてしまったら、果たして自分を欺いた夫を許すことができるだろうか? このドラマは、謎解きのミステリーでもあると同時に、妻と家族たちの許しの物語でもある。

スーパー!ドラマTVにて2020年12月28日(月)19:00より放送。

今回紹介したドラマ4作は、いずれも人間の強さや弱さ、心の闇、家族愛など、人が生きることの本質的な問題について考えさせる作品になっている。

実際の出来事を元にしているということは、被害者や遺族、関係者が実在しているわけだが、各作品はエンディングで事件の経過や関係者の近況を伝えるなどして、単なる娯楽で終わらないように注意を払っている。インタビューに答えたデヴィッド・テナントの「事件による傷や痛みは今でも生々しい。ドラマは事件を称えるものではなく、事件や被害者を記憶にとどめるためのものだ」という言葉にそれが表れている。実際の事件・出来事だからこそ、より強く私たちの心に訴えかけてくるものをしっかりと受け取りたい。

Photo:『DES/デス』(ITV公式Twitterより) 『ソールズベリ 毒殺未遂事件』 ©Dancing Ledge Productions. 『クイズ~100万ポンドを夢見た男』©2020 Sony Pictures Entertainment. All Rights Reserved. 『ミセス・ウィルソン』©Snowed-In Productions and all3media international