悩める大人たちへ贈る、2021年最高の人生賛歌『47歳 人生のステータス』マイク・ホワイト監督を直撃!

『ムーンライト』『それでも夜は明ける』など数々のアカデミー賞受賞作を⽣み出してきたブラッド・ピット率いる製作会社プランBエンターテインメントと、『スクール・オブ・ロック』や『エンライテンド』のマイク・ホワイト監督がタッグを組んだ『47歳 人生のステータス』が6月11日(金)よりオンライン上映がスタートとなる。この度、HBOの新作の撮影でハワイに滞在中だったホワイト監督を直撃! ベン・スティラーを主演に起用した理由、主人公のように孤独を感じている人への考えなどお話を伺った。

申し分ないキャリアと幸せな家庭を持つ47歳の中年男性ブラッドは、大学進学を目指す息子と二人でボストンへ向かう。その旅で経済的にも社会的にも成功した旧友たちと再会したブラッドは、次第に自分が築いた家族や仕事が果たして最高のものなのかと疑問を抱き始め、自分の人生を見つめ直していく。

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――今回、主演がベン・スティラーですが、はじめから彼を主演にするつもりで脚本を書いたのでしょうか?

もともと僕はベンのファンで、実際に何回か会ったこともあり仲が良かったんだ。ベンはこれまで、神経症的な落ち着きのないタイプを、特にコメディという形で演じてきているから、彼のアイデンティティを活かして演じてもらったらおもしろいんじゃないかと思った。

長年仕事をしたいと話していて、今回やっとそれが叶ったんだ。脚本は当て書きではないけど、想定キャストのリストを見たときに彼がぴったりだと思ったんだ。僕としても、これまでコメディ役が多い人にシリアスな役を演じてもらい、ニュアンスのある、いいものを生み出していきたいという気持ちがあった。今回、彼のユーモラスなところだけでなく、シリアスで抑制のきいた役をやってもらうことで、おもしろいものができるんじゃないかと思ったんだよ。

――ベン以外にはどんな俳優の名前がリストに載っていたのでしょうか?

名前を出すことはできないけれど、ベンと同年代のマーク・ウォールバーグやクリスチャン・ベイルのようなイメージの人たちだね。どちらかというと、ヒューマンドラマをメインにシリアスな演技をやっている役者さんにユーモアなものをやってもらうほうが、逆より難しいと思うんだ。

――周りの人が声をかけてくれているが、本人はそれに気づかないということもよく描かれていました。監督がもし、この作品を見てもまだまだ自分を気にしてくれる人がいるにも関わらず、孤独だと感じている男性がいる場合、どう声をかけますか?

確かに主人公は心理的な痛みというものを経験しているよね。自分の価値・存在を証明するために外にあるものをものさしにしている。そこから孤独感が生まれている。

映画の中で、最後に息子が「パパのことを一番考えているのはぼくであって、ほかの人はそこまで気にしてないから大丈夫。でもぼくはパパを愛しているから」という言葉に希望があるんじゃないかと思う。人生というのは、あくまでも自分の人生なのであって、自分自身や、自分の成功を誰かと比較することは幻想でしかない。その幻想を抱いてしまうと、私たちは心理的な痛みを抱えてしまうんじゃないかな。

――最後ブラッドは子どもによって自分の人生のすばらしさに気づきますよね。子どものいない中年はどこからその気づきを得たらいいと思いますか?

僕も実は子どもはいないんだ。人生の成功というのは、どこからくるのか。僕は草の根運動のように(自分なりの)人生の成功を追っていけばいいと考えているよ。自分のいるところに、きちっと地に足をつけて、どの瞬間もしっかりと生きる。自分をまず信じるところから始めて、周りの人達が自分を信頼してくれて、また自分も信じて...というところから少しずつ築き上げていけばいいんじゃないかな。

外側のものによる成功、仕事の成功、お金をたくさん稼いだとかプライベートジェットを持っているとか、そういう成功ではない。自分と共に生きている人にとって、自分のやっていることが成功に映っているか、自分と彼らとの関係が共に成功だといえるようなものなのかというものさしでいいんじゃないか。つまり、息子がいる必要はない。子ども、親、パートナー、友人、自分自身からまずはじめて、表面的なものさしで成功をはかるのではなく、自分に近い人たちで測っていこうという考え方だね。

――以前監督が手掛けたドラマ『エンライテンド』にもハワイが登場しますよね。今回、ジェマイン・クレメント演じるビリーもハワイでリタイア生活を楽しんでいますが、監督にとってハワイは特別な場所なのでしょうか?

実は今もハワイにいるんだ。特別な場所だね。『エンライテンド』が理由で、今ハワイに住む場所もある。この8年間は執筆作業をしたいと思って家を買ったんだ。ここで暮らしたり、そうじゃなかったりという生活が続いているよ。『エンライテンド』の撮影時、本当に美しくてほれ込んでしまったんだ。ここに戻ってこられる理由をいつも作ろうと思ってて、だからちょうどマウイで撮影が終わったHBOシリーズ(『The White Lotus(原題)』)も編集作業中なんだ。この夏に放送予定だよ。

――製作のきっかけの一つにお父さんに見て欲しいという思いがあったと拝見しました。実際の反応はいかがでしたか?

父のことを主人公ブラッドのように感情のアップダウンが激しいタイプで、空想モードに入っているときもあるし、躁鬱っぽいムードが変わってしまうタイプだと思っていたので、見たときにどうこのキャラクターを思うのか心配ではあったんだ。

でも、ブラッドを自分に近いキャラクターだと全く思わなかったらしく、「すごい神経症的だよね、あいつ」って言っていたよ(笑)英語で書かれてしまうアメリカの媒体だったら、とてもじゃないけどこんなこと言えないね!

――主人公は旅をすることで自分を取り戻していますよね。今、コロナ禍において旅をすることができないですが、この状況をどう思いますか?

旅からはずれるけど、このロックダウンでいいことがあったとすれば、普段の生活の中で特にSNSとか短い時間しか集中できなくなっている中で、「自分の生活で食事を作ってくれる人が誰なのか」「家の中で自分に近い人はだれなのか」ということを知り、ふたたびその人と関係を築くことができるきっかけを作ってくれていることだと思うよ。

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悩める大人たちへ贈る、2021年最高の人生賛歌『47歳 人生のステータス』は6月11日(金)よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTにてオンライン上映 。

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『47歳 人生のステータス』
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