キリアン・マーフィ、ポール・メスカルも!映画・ドラマで学ぶアイルランド

近年、アイルランド出身の俳優たちの快進撃が止まらない。アカデミー賞などの賞レースにもアイルランド俳優たちが数多く名前を連ねている。英国の隣りにありながら、英国とは少し異なる文化や国民性を持つ“緑の国”アイルランド。今回は海外ドラマやハリウッド映画などで活躍するアイルランド俳優たちに焦点を当てるとともに、アイルランドの歴史と文化の理解に役立つ映画・ドラマ作品も紹介したい。

次世代のアイルランド俳優たち

ポール・メスカル

1996年2月2日生まれ(29歳)
身長:180cm
出身地:メイヌース(キルデア県)

ダブリンのトリニティ・カレッジの演劇学校で学んだ後、初出演のドラマ『ふつうの人々』が高く評価され、英国アカデミー賞テレビ部門主演男優賞を受賞。以降、『ロスト・ドーター』『aftersun/アフターサン』『異人たち』などの話題作に次々と出演。舞台でも『欲望という名の電車』のスタンリー役で、2023年にローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を受賞。2024年公開のリドリー・スコット監督作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』で主演の大役をこなした。米歌手フィービー・ブリジャーズと2年間交際した後に破局。

★出世作『ふつうの人々』はアイルランドが舞台。
★『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のロンドン・プレミアでチャールズ英国王と初対面。米バラエティ誌にその際の感想を聞かれ、「僕はアイルランド人だから(英国王と会うことは)優先順位にはない」と答えた。

アンドリュー・スコット

アンドリュー・スコット

1976年10月21日生まれ(48歳)
身長:173cm
出身地:ダブリン

ダブリンのトリニティ・カレッジの演劇学校で学び、人気シリーズ『SHERLOCK/シャーロック』のジム・モリアーティ役でブレイク。その後『Fleabag フリーバッグ』の“ホット・プリースト”役で人気を不動のものにした。ドラマシリーズ『ブラック・ミラー』とNetflixドラマ『リプリー』でエミー賞、ポール・メスカルと共演した映画『異人たち』と『Fleabag フリーバッグ』『リプリー』ではゴールデン・グローブ賞にノミネート。一方、舞台にも精力的に活動し、2020年にノエル・カワードの戯曲『プレゼント・ラフター』でオリヴィエ賞主演男優賞を獲得。ゲイであることを公言している。

★ポッドキャスト『Skint Intro』に出演した際、アイルランド・ゲーリック語を披露。「素敵な言葉だろう? 大好きなんだ」とコメントした。

バリー・コーガン

1992年10月18日生まれ(32歳)
身長:173cm
出身地:ダブリン

ファミリーネームの英語の発音は「キオガン」に近い。12歳の時に母親を薬物過剰摂取で失い、里親や親族に育てられるという複雑な家庭環境を持つ。映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』や『ダンケルク』で注目され、『グリーン・ナイト』『エターナルズ』『THE BATMAN-ザ・バットマン-』『チェルノブイリ』『Saltburn』といった話題の映画やドラマに出演。『イニシェリン島の精霊』でアカデミー賞など各賞にノミネートされた。米歌手サブリナ・カーペンターと交際していたが1年で破局。

★『イニシェリン島の精霊』で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞した際のスピーチで、「僕が生まれ育った場所で何かを夢見ている子どもたちへ」と故郷ダブリンのサマーヒルに住む子どもたちに賞を捧げた。
★『イニシェリン島の精霊』はアイルランドの小さな島が舞台。

シアーシャ・ローナン

1994年4月12日生まれ(30歳)
身長:168cm
出身地:ニューヨーク

出生はNYだが両親はアイルランド人で、シアーシャが3歳の時にダブリンに移住。映画『つぐない』により13歳の若さでアカデミー賞助演女優賞候補となり、一躍注目を集めた。その後『ブルックリン』『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で3度アカデミー賞主演女優賞にノミネート。最新作はApple TV+オリジナル映画『ブリッツ ロンドン大空襲』。『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』で共演したスコットランド出身のジャック・ロウデンと2024年7月に結婚した。

★仏メディアのインタビューで「現在、アイルランド俳優たちのルネッサンスが起こっている理由は?」という質問に対し、「アイルランドには以前から素晴らしい役者がいたけど、地元の映画産業が変化しているからだと思う。北アイルランド問題や飢餓や移民といった以前からあるテーマだけではなく、アイルランド俳優たちのために現代的で新しいストーリーが作り出されるようになったから」と答えた。

ジェシー・バックリー

1989年12月28日生まれ(34歳)
身長:170cm
出身地:キラーニー(ケリー県)

名門のRADA(王立演劇学校)卒業。BBC制作のドラマ『戦争と平和』と『TABOO/タブー』で注目を集める。映画『ワイルド・ローズ』と『ロスト・ドーター』で英国アカデミー賞主演女優賞候補となり、後者ではアカデミー賞助演女優賞にもノミネート。歌唱力も高く評価されており、2022年にウェストエンドでエディ・レッドメインと共演した『キャバレー』でオリヴィエ賞主演女優賞を獲得したほか、元スウェードのバーナード・バトラーとコラボレートしたアルバムもリリースしている。以前は英俳優ジェームズ・ノートンと交際していたが、2023年に一般男性と結婚。

★アイルランドメディアのインタビューで、「アイルランドでは、どの村のどのパブでも、隣りに立つ見知らぬ人が人生の中で起きた素晴らしいストーリーを語り、ほかの誰かがギターを手に取って演奏する。私はそんな世界で育った」と話している。

キリアン・マーフィ

1976年5月25日生まれ(48歳)
身長:175cm
出身地:コーク

10代の頃はロックバンドで活動していたが、地元を拠点にした劇団に参加。2002年、ダニー・ボイル監督作品『28日後…』の主演に抜擢される。クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』3部作でジョナサン・クレイン/スケアクロウを演じ、その後も『インセプション』『ダンケルク』といったノーラン作品に出演。再びタッグを組んだ『オッペンハイマー』でアカデミー賞主演男優賞を獲得し、これはアイルランド生まれの俳優として初の快挙。最新作は、当たり役となった人気シリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』映画版。アーティストのイボンヌ・マクギネスとの間に二人の息子がいる。

★アカデミー賞主演男優賞の受賞スピーチで、「アイルランド人として、今夜ここに立っていることをとても誇りに思う」と話し、アイルランド・ゲーリック語で「ありがとう」という意味の“Go raibh mile maith agat.”で締め括った。
★キリアン主演・製作の最新作『Small Things Like These(原題)』はアイルランドの小さな町が舞台。マグダレン修道院を題材にしている。

ほかにもこんなにいる!アイルランド出身の中堅・ベテラン俳優

コリン・ファレル(『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』
ブレンダン・グリーソン(『ミスター・メルセデス』
ドーナル・グリーソン(『フランク、アイルランドのダメ男。』
エイダン・ターナー(『風の勇士 ポルダーク』
エイダン・ギレン(『ゲーム・オブ・スローンズ』
ジョナサン・リス=マイヤーズ(『THE TUDORS ~背徳の王冠~』)
ピアース・ブロスナン(『007/ダイ・アナザー・デイ』)
リーアム・カニンガム(『三体』
ガブリエル・バーン(『宇宙戦争』
リーアム・ニーソン《北アイルランド》(『96時間』シリーズ)
ジェームズ・ネスビット《北アイルランド》(『スタン・リーのラッキーマン』
キアラン・ハインズ《北アイルランド》(『犯罪捜査官アナ・トラヴィス』
ケネス・ブラナー《北アイルランド》(『オリエント急行殺人事件』)

アイルランドとは?

グレートブリトン島の西に接するアイルランド島にある共和国。人口は約515万人(2022年時点)で、そのうちおよそ146万人が首都ダブリンに住む。アイルランドと英国は一見似ているようだが、アイルランドにはカトリック信仰とケルト系文化という、英国とは異なる独自の文化がある。5世紀頃にアイルランドにキリスト教を広めた聖パトリックはアイルランドの守護聖人で、3月17日のセント・パトリック・デーには盛大なお祝いが行われる。アイルランド国民の約69%(2022年時点)がカトリック教徒で、ローマ・カトリック教会がアイルランドの文化と政治に深い影響を与えている。アイルランドの第一公用語はアイルランド語(アイルランド・ゲール語)だが、日常的にアイルランド語を話す地域は限定されている。

アイルランドの歴史とそれを綴った映画・ドラマ

およそ800年間にわたり、隣国イングランドに植民地支配されてきた歴史がある。宗教改革により英国の国教がイングランド国教会となってからは、宗教をめぐる英国との対立もさらに複雑化した。主な歴史的事件と参考になる映画・ドラマ作品を取り上げてみた。

1171年 イングランド王ヘンリー2世がアイルランド卿になる。
1541年 イングランド王ヘンリー8世がアイルランド王を自称。イングランドからの入植者増加。
1649年 イングランド共和国初代護国卿オリヴァー・クロムウェルがアイルランド侵略。
1688年 イングランド王ウィリアム3世の軍がカトリック勢を制圧。
1801年 合同法によりアイルランド併合、「グレートブリテン及びアイルランド連合王国」となる。
1845年~1849年 ジャガイモ飢饉に襲われ、約100万人が餓死。国民の多くが米国などに移住。
1914年 アイルランド自治法が成立したが、第一次世界大戦に突入したことで実施が延期。
1916年 独立派がダブリンで「イースター蜂起」を行うが英国軍により鎮圧。⇒『マイケル・コリンズ』
1919年 シン=フェイン党を中心とする独立運動が起き、アイルランド義勇軍(共和国軍)による対英独立戦争が起こる。⇒『麦の穂をゆらす風』
1921年 英愛条約が締結され、北部6県(現在の北アイルランド)は英国領、それ以外は自治領となる。
1922年 26州がアイルランド自由国として独立したが、自由国軍と英愛条約に反対し完全独立を目指す共和国軍の間で内戦。自由国軍(英愛条約派)の勝利。⇒『イニシェリン島の精霊』
1937年 アイルランド自由国は国号をエールに変更。
1949年 英連邦から離脱し、国号をアイルランド共和国とする。
1970~1980年代 北アイルランド紛争(英語では「The Troubles」と呼ばれる)が激化。⇒『ベルファスト』『ブラディ・サンデー』
1996年 カトリック修道院による母子収容施設「マグダレン修道院」の最後の一カ所が閉鎖される。⇒『マグダレンの祈り』
1998年 和平合意「ベルファスト合意」が結ばれる。アイルランドは国民投票により、北アイルランド6県の領有権主張を放棄することを決定。⇒『デリー・ガールズ』

『マイケル・コリンズ』(1996年)

ニール・ジョーダン脚本・監督。リーアム・ニーソン、アラン・リックマンほか出演。アイルランドを独立に導いた英雄、マイケル・コリンズの生涯を描く伝記映画。イースター蜂起から英愛条約の調印、内戦までの経緯がよく分かる。

『麦の穂をゆらす風』(2006年)

ケン・ローチ監督による戦争ドラマ。キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニーほか出演。独立戦争から内戦へと至る1920年代のアイルランドを舞台に、条約の賛成派(自由国軍)と反対派(共和国軍)の敵味方に分かれて戦う兄弟の悲劇を描く。『マイケル・コリンズ』と別の視点から内戦を描いているのが興味深い。

『イニシェリン島の精霊』(2022年)

マーティン・マクドナー監督、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソン主演の人間ドラマ。1923年、内戦が続く本土と海を挟んだ対岸に位置するアイルランドの小さな島を舞台に、長年の友人に突然絶縁宣言された男の姿を描く。

『ベルファスト』(2021年)

ケネス・ブラナー監督の自伝的映画。出演はカトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズほか。1969年8月15日、住民が平和に共存していた北アイルランドのベルファストでプロテスタントの武装集団がカトリック住民を攻撃、少年とその家族は重大な決断を迫られる。

『ブラディ・サンデー』(2002年)

1972年1月30日に北アイルランドのデリーで起きた「血の日曜日事件」を、ポール・グリーングラス監督がドキュメンタリー調に再現。主演はジェームズ・ネスビット。差別撤廃を掲げたカトリック系市民の平和的なデモ行進に英政府が投入した軍隊が衝突、一般市民13人の死者を出す悲劇が起こる。

『マグダレンの祈り』(2002年)

ピーター・ミュラン監督、ノラ=ジェーン・ヌーン、アンヌ=マリー・ダフほか出演。1996年までアイルランドに実在した「マグダレン修道院」の実話を映画化。厳格なカトリックの戒律のもと、性的に堕落したとされる女性の更生施設で行われていた非人道的行為の実態と女性たちの悲しい運命を描く。

『デリー・ガールズ ~アイルランド青春物語~』(2018~2022年)

リサ・マッギー原案・脚本、シアーシャ=モニカ・ジャクソン、ニコラ・コーグラン、ディラン・ルウェリンほか出演。1990年代の北アイルランド・デリーを舞台に、カトリックの女子校に通う仲良し5人組の日常を描いたコメディドラマ。最終回でベルファスト合意にもとづく国民投票のシーンがある。

番外編:アイルランドの国民性と音楽

アイルランド人はフレンドリーでおしゃべり好き。家族や友達を大切にし、ギネスビールなどの酒と音楽とダンスが大好き。街なかのパブやパーティでは、人々が楽器を持ち寄って即興演奏をしたり、アイリッシュダンスを踊ったり。ここではアイルランドの音楽が肌で感じられる映画をご紹介。

『ザ・コミットメンツ』(1991年)

アラン・パーカー監督の青春音楽映画。ダブリンを舞台に、ソウル・バンド「ザ・コミットメンツ」のメンバー募集広告に集まった若者たちの青春像を描く。ロバート・アーキンズ、マイケル・エイハーンほか出演。

『ONCE ダブリンの街角で』(2006年)

ジョン・カーニー脚本・監督の音楽映画。街なかで演奏するストリートパフォーマンスの男とチェコ移民の若い女が出会い、音楽を通して心を通わせていく。グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァほか出演。

『シング・ストリート 未来へのうた』(2015年)

ジョン・カーニー監督による青春映画。1985年のダブリンで、美少女の気を引くためにバンドを結成した少年の姿を、1980年代の名曲とともに描く。フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントンほか出演。

英国人俳優とは一味違う魅力を持つアイルランド出身の俳優たち。彼らの出演作とともに、アイルランドの歴史や文化にまつわる作品もぜひ楽しんでいただきたい。

(名取由恵/Yoshie Natori)


オトク情報
ドコモの回線契約者なら誰でもNetflixがおトクに! Netflixの月額料金の税抜価格からdポイント(期間・用途限定)が最大20%還元される「爆アゲ セレクション」をお見逃しなく。
\ドコモユーザー必見/

>> 詳しくはコチラ

>> Netflixで独占配信しているおすすめの韓国ドラマはこちら

Photo:『ハンサム・デビル』©︎ 2016 Treasure Entertainment Ltd.