『SHOGUN 将軍』の遊郭「うたかたの世」から見るフェミニズム

日本の戦国時代を壮大なスペクタクルで描くドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』では、毅然とした芯の強い女性キャラクターが印象的に描かれているが、米CBRが遊郭「うたかたの世」の遊女たちが、政治や戦いに及ぼす影響に注目しているので紹介したい。

女性が軽視されていた時代を舞台にしたジャンル作品の常識を完全に覆した!?

『将軍』の舞台は1600年(慶長5年)の日本。“五大老”に任命された有力大名の間で覇権をかけた争いが勃発するなか、孤立無援の状態に追い詰められた関東領主の吉井虎永が、日本に漂流した英国人航海士ジョン・ブラックソーン/後の按針を軍事顧問に任命したことで、大きく戦局が変わり始める様が壮大なスケールで描かれる。

「うたかたの世」は女将であるお吟が仕切っている遊郭で、なかでも人気の高いお菊は樫木央海の愛人的な存在で、虎永の命令で按針/ジョン・ブラックソーンとも床を共にした遊女だ。

大名や旗本、当主といった身分の高い男たちを相手にする遊女たちは、隙を見せた男たちから普段は見聞き出来ない情報や秘密を握るようになり、例えばお菊は、按針と鞠子の禁断の関係さえも見抜いてしまう。

状況によっては、遊女たちはスパイのような役割を果たすことも可能であり、そういった情報を手にしたお吟は秘密を通して、徐々に影響力を持つようになっていく。

遊女や娼婦が貴重な情報源として役割を担う設定は、過去にも描かれてきた。

『ゲーム・オブ・スローンズ』では、ティリオン・ラニスターの愛人で娼婦のシェイがスパイとして情報を握り、ティリオンを窮地に追い詰め、スピンオフドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』でも、デイモン・ターガリエンの愛人で娼婦のミサリヤも同じことをしたことが記憶に新しい。

その他にも、19世紀後半のサンフランシスコを舞台にした『ウォリアー』や、韓国の時代劇ゾンビスリラー『キングダム』でも娼婦が重要な役割を果たしている。

遊女や娼婦は社会的に低く見られがちな職業だが、貴重な秘密や情報をもたらしす彼女たちの存在は、陰謀や策略を張り巡らしたい政治家や軍人など、高い地位にいる男たちにとって欠かせない存在だ。そして、自分たちの価値を認識している遊女は、時に自分が求める物を手にするために自己主張することを忘れない。

『将軍』の第7話「線香一本の時」では、虎永が異母弟の佐伯信辰に裏切られてパニックに陥っているにもかかわらず、お吟は虎永に線香が1本燃え尽きる時間を求め、「うたかたの世」のビジネスを拡大するための土地が欲しいと訴え出た。

お吟は、経済的に豊かになって権力を手にすることだけを目指すのではなく、歳を取った遊女たちが、これまでに身に着けた舞踏などの芸で食べていけるようにしたいと考えており、確かなビジョンと理想を持っている。

遊女という職業柄、差別を受けることがあるとはいえ、「うたかたの世」の女たちは男たちを操りつつ密かに権力を握り、特に女性が軽視されていた時代を舞台にしたジャンル作品の常識を完全に覆したと言えるだろう。

第8話「奈落の底」のラストでは、お吟の価値を認めている虎永が遺言まで書き変えて江戸の一等地を与え、その地を踏みしめたお吟が喜びを露わにするシーンが描かれた。

『将軍』は残すところ2話となったが、密かに物語の鍵を握る女性キャラクターたちの活躍に、さらに注目したい。

『SHOGUN 将軍』はDisney+(ディズニープラス)で配信中。フィナーレとなる第10話は、4月23日(火)に配信。(海外ドラマNAVI)

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Photo:米CBRより