『アベンジャーズ』ルッソ兄弟と再タッグを組んだチャドウィック・ボーズマン最後の勇姿を心に焼き付けよ!

2020年8月、世界中の映画ファンに惜しまれながら43歳の若さで逝去したチャドウィック・ボーズマン。アクション大作『ブラックパンサー』『アベンジャーズ』シリーズから、鬼気迫る演技で映画賞を席巻した『マ・レイニーのブラックボトム』まで、俳優として偉大な功績を残した彼が、現在公開中の映画『21ブリッジ』で最後の勇姿を見せる。【映画レビュー】

マンハッタンでコカイン強奪事件が発生し、銃撃戦の末に警察官8人が殺害された。捜査を担当することになったニューヨーク市警(NYPD)のアンドレ刑事(チャドウィック)は、マンハッタンにある21の橋を全面封鎖し、逃亡する犯人を追い詰めるが、事件の核心に迫るうちに衝撃の"真実"が浮かび上がる。

脚本に惚れ込んだチャドウィックが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』などでタッグを組んだアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟と共にプロデュースを手掛け、『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズのブライアン・カークが監督を担当。精鋭たちが集結した本作は、決して派手ではないが、ジワジワと恐怖を増幅させていくダークな刑事ドラマとして異彩を放つ。

チャドウィック演じる一匹狼アンドレ刑事は、犯罪者に対して人並み外れた憎悪の気持ちを持っている。それは幼いころ、尊敬していた警察官の父が凶悪犯に惨殺されたことへの復讐心が根底にあるからだ。そんな生い立ちから、特に警察官殺しの犯人に闘志を燃やすアンドレ刑事は、まさに「俺の出番だ!」とばかりに本件の担当を買って出る。

ところが、今回に限ってNYPDやFBIが異常なほどに捜査に絡み、とにかく出しゃばりまくる。その過激さは協力的なのか、邪魔をしているのか、理解に苦しむほど。ただ一つ、共通しているのは犯人逮捕への異常な"執念"だ。「警察官を8人も殺されたら、そりゃアンドレ刑事と同じ気持ちになるよな」と必然性も痛感するのだが、なぜか妙な"違和感"が濃霧のように心を包み込む...。観客は冒頭から、このモヤモヤとした"違和感"を抱きながら、アンドレ刑事と共に真実追求に心を砕くことになるのだ。

前半は、事件発生からその背景に広がる闇に翻弄され、後半は待ってましたの怒涛のアクション! 本作の撮影時にはすでに病いに侵されていたチャドウィックは、体調が万全ではない中、ほぼスタントなしでアクションシーンに臨んだという。激しい銃撃戦、命懸けのカーチェイス、『フレンチ・コネクション2』のポパイ刑事ばりに、走って、走って、走りまくるチャドウィックの凄まじい役者魂に、思わず胸が熱くなる。

「残酷な現実を受け入れる」...目の前の"真実"に覚悟を決めたアンドレ刑事の生き様が、チャドウィックの人生に重なる。彼が全身全霊を注いだ最後の勇姿を、ぜひ劇場で目に焼き付けてほしい。

(文/坂田正樹)

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