18年の刑期を終え、故郷で人生の再スタートを切った主人公ミリが逆境に負けず前向きに力強く生きていく姿を描く『バック・トゥ・ライフ』。WATCHAで独占配信中の本作は、エミー賞を席巻した英国ドラマ『Fleabag フリーバッグ』の製作陣が顔を揃えた、社会派ブラック・コメディドラマ。そんな本作で、打ちのめされては立ち上がり疲れ果ててよろめきながらも次の一歩を踏み出す主人公を見事に演じ、脚本・製作総指揮も兼任したデイジー・ハガードに話を伺った。
久々に故郷の町に戻ったミリは、音楽プレーヤーや昔の彼との写真など懐かしのアイテムと自室で再会し、自然と笑顔に。しかし彼女を待っていたのは喜ばしいことばかりではなかった。昔の罪は新聞で町中に知れ渡り、街角には誹謗中傷の落書きが。就職の面接に赴けば罵詈雑言を投げかけられ、職を探すのも容易ではない。親切な隣人ビリーの力を借り、それでも何とか過去を振り切り生活を再建しようとするミリ。罪を償い終えた一人の女性の新しい人生の物語が動き出す――。
――主演だけでなく、クリエイターも務めていますが本作が誕生したきっかけを教えてください。
まず、色んなアイデアを製作会社に提案するという形で始まったの。たくさんあったアイデアを投げ込んでみた。その中には、長い間興味を持っていた「罪を犯してしまった女性は男性と比べて厳しい目を向けられるのは一体なぜなんだろう」というテーマがあって。実は、その当時両親と暮らしていたんだけど、毎日イライラしてたってのもあるわね(笑)製作過程としてはまず"こういうテーマでこんな映像になる"というものを先に作ってから、局に見せていって正式にTVシリーズとして作られることが決まったの。決まってからは、とても速いペースで進んでいったわ。
――はじめからミリはご自身で演じるつもりで脚本を書かれたのですか? ミリとの共通点はありますか?
製作会社からは出演して欲しいといわれて始まった企画だったし、自分が演じるというのは念頭にあった。演じるからには、演じ甲斐のある役にしたいなとは思っていたけれど、執筆作業の中では他のキャラクターが面白すぎてどんどん深堀していってしまって...。"どうしよう、ミリのこと考えてなかった!"っていう時もあったわ。自分が演じるということすら忘れてしまっていて、読み合わせをする数時間前に急いで書き直しをしたりしたの。主人公ではあるけれど、他のキャラクターに時間を掛けたというのは面白い製作過程だった。似ている点といえば、ミリと同じくらい楽観的ってことね。彼女の場合はもう"スーパーパワー"とも言ってもいいくらいのレベルだけど。そこまでではないけど、ポジティブシンキングなタイプなの。
――読み合わせ前に書き直したりと仰っていましたが、撮影中にアドリブを入れたりもしたのですか?
脚本は事前に書かれていたということもあって、ほとんどセリフに沿った形で進めたわ。ただ、脚本家でもある私が現場にいたから、「これじゃダメね」とか「こっちのほうがいい」思ったら、もちろんその場で取り入れてくことはしていた。役者のみんなは特別なものをもたらせてくれる存在だから、彼らにとって居心地の良い場所を作らないといけない。そうすると、一番良い演技をしてくれるし、関わっている皆のやりたいことに常に耳を傾けて一緒に作っていこうという姿勢でいたの。
――ミリの地元が舞台ということもあって、登場する町そのものが登場人物であるかのように感じました。ロケ地として選ばれたケント州ハイスを選んだ理由を教えてください。
ハイスは劇中にもよく登場するダンジネス(岬)に近い町で、美しいのと同時に荒涼とした様子を感じる部分を持ち合わせているのがとても面白いなと思ったの。そこにいると、"自分は一体どこにいるんだろう?"と思えるし、ロマンティックさも感じることができる。まるでチョコレートの箱のようなパーフェクトではない美しさを気に入った。見た瞬間ここだって思った。一時は空港のそばで撮ろうかなと思ったこともあったんだけど、その案ではなくハイスにしたのは灯台にも近いし、重要な場所として出てくるコンクリートでできたサウンドミラーもあって、ここしかないなって決めた。
――空港のそばがよかったというのはどうしてですか?
製作の初期のことだったんだけど、なんでかしらね。空港のそばに住んでいる人って、そこが自分の場所であるけれど、空港からは皆どこかに飛び立つ、要は逃げられるわけ。長い間刑務所にいた人を主人公にしている作品だからこそ、そんな状況が面白いなと思ったの。でも、飛び立つ音とかがうるさいから撮影するのは大変になっていただろうね。すぐに"うるさいからカット!"ってなっていたと思う(笑)このアイデアはいつか使ってみたいなと思っているんだけど、本作に関してはハイスがぴったりだった。美しいし。服役していた人にとっては、海って特別な場所になるんじゃないかとも考えたの。
――いつか、デイジーさんが作る『ジ・オフィス』の空港版を見てみたいですね。
それいいわね(笑)
――最後に、もしミリのような人と実際に知り合いで、服役後に故郷に戻ってくると知ったらどんな行動をしますか?
もし、真実を知っていて、彼女がどれほど辛い状況に置かれているかをわかっているのであれば面倒を見る。大きなハグで迎えて、たくさん料理を作ってあげたい。何が実際に起きたかを知らなかったとしても、人には良いところが必ずあるからって私は思いたいから同じように行動すると思う。どんなにひどい人間だと思ったとしても、傷つけるようなことは言うことはない。危険人物だと思ったら、避けるってことはしちゃうかもしれないね。
(取材・文/編集部AKN)
Photo:『バック・トゥ・ライフ』シーズン1~2(c)Two Brothers Pictures for BBC Three, UK in association with Showtime and All3Media International.