『ブラザーズ&シスターズ』に見るアメリカ市民の政治観

大いに盛り上がった今年のアメリカ大統領選挙。若く、リーダーシップあふれる新大統領の誕生に、今、アメリカは希望に沸いているように見えます。遠く離れた日本から見ても、アメリカ市民の熱狂振りには驚かされました。
国民ひとり一人に大なり小なりの政治意識があるというのは、アメリカのひとつの美点。政治に無関心と言われる日本人にはある意味羨ましい話です。
そんなアメリカの一般市民の政治観を知る格好の教材となるのがファミリー・ドラマ『ブラザーズ&シスターズ』。このドラマを語る時、ほとんどが家族の葛藤や絆にばかり焦点が当てられがちですが、実は政治ドラマとしてもなかなか面白い視点で描かれているのです。

その面白さを知るためにはアメリカの2大政党、民主党と共和党の特徴を理解する必要があるので、ここで簡単に説明しましょう。
まずはオバマ次期大統領が所属する民主党から。
自由主義と言われるリベラル派の議員が所属する政党だけに、多様性を受け入れ、妊娠中絶や同性愛者の結婚等も基本的には容認する考えを持つ。オバマ次期大統領は勝利宣言の中で「同性愛者もストレートの人間も」という言葉を用いることで、その多様性を受け入れる姿勢を明言した。環境問題や福祉に力を入れ、経済政策としては国内産業保護の立場を取る。東海岸や西海岸、中西部の大都市市民やアカデミックな知識層からの支持が高い。
続いてブッシュ大統領が属する共和党。
新保守主義の立場を擁する議員が所属。その根底にはキリスト教の教義があるため、妊娠中絶や同姓婚には反対の立場を取る。その価値観を表明するのにしばしば使われるのが「ファミリー・バリュー」という言葉。キリスト教的道徳観に則った観念を訴える際に登場する。経済効率重視の市場原理主義を掲げるため、大企業やアメリカ富裕層ほど手厚く保護される。対外政策においても武力行使を辞さない介入主義を取る。ブッシュ大統領は親子2代に渡って戦争を始めた。

さて、この簡単な情報を頭に入れて『ブラザーズ&シスターズ』を見てみると、ヒロインのキティはバリバリの共和党支持者。保守系のラジオパーソナリティからTVのトークショーホスト、さらに共和党上院議員の広報スタッフへと、その政治信条を生かしたキャリアアップを図っています。
一方、カリフォルニアで一緒に暮らす彼女の家族はほぼ全員民主党寄りの考え方の持ち主。当然家族の間では政治的な問題でぶつかり合うこともしばしばあります。しかも次男のケビンはゲイ。本来強硬な共和党的価値観の持ち主であるキティには容認できるものではないのですが、そこはやっぱり家族。彼がゲイであることも受け入れています。でもそれゆえに自分の政治信条に合わない問題も浮上し、そこがキティの葛藤の種になるのです。
ちなみにハリウッドは圧倒的に民主党支持派の多い地域。そこに暮らす脚本家が描いたものは、保守派が謳う"ファミリー・バリュー"に、民主党的価値観を投入し、"真のファミリー・バリューとは何か?"を訴えるドラマだったのです。

末弟のジャスティンがイラクに再出征することが決まったときもそうでした。1度はそれが正しいことと家族から非難を浴びても彼の志願を支持したキティも、イラクから帰国後の弟の変貌ぶりに2度目の出征には心から賛成できずにいました。家族の身を案じるのは当然のこと。でもそれではこれまで自分がもっともらしく語ってきた政治観はどうなるのか? 矛盾する気持ちに彼女は悩むのです。このような矛盾や葛藤は他にもさりげなく描かれています。
キティの婚約者となるマカリスター上院議員の弟もやはりゲイ。それを知ったケビンはゲイの結婚に反対する共和党に所属する兄を支持する彼のことが理解できません。その一方で彼に激しく惹かれていくケビンの葛藤もまた、政治信条と一個人の感情がぶつかり合うことから生まれているのです。人の感情は一筋縄ではいかないもの。政治家にもリベラル寄りの保守派、保守寄りのリベラル派とさまざまです。
この共和党価値観と民主党価値観のぶつかり合いを、家族の葛藤に重ねて描いているところがこのドラマの面白さであり、アイロニカルなところ。
シーズン2ではジャスティンと父の隠し子と目されるレベッカとの間で生まれるロマンスや、次期大統領候補の婚約者となったキティの問題がクローズアップされるので、この基礎知識を頭の片隅に置いてぜひドラマを観てほしいところです。
さらにアメリカの宗教観が理解できればますます面白くなるところですが、長くなるのでそれはまたいつか。

『ブラザーズ&シスターズ』はDisney+(ディズニープラス)で独占配信中。

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