ポーランドの異色ドラマ『デカローグ』

 

今回はテレビドラマでもちょっと異色のものを紹介します。日本でも映画館での上映、テレビ放映もされているようですから、「ポーランドの80年代末のテレビドラマで、巨匠映画監督の作品」というヒントだけでピンとくる人も多いかと思います。映画トリコロール三部作で知られるクシシュトフ・キェシロフスキの作品で『デカローグ』といいます。

「デカ」は「十」で「ローグ」は「話」ですから、文字通り十の物語で構成されるテレビ作品で聖書の「モーゼの十戒」をベースにした物語になっています。キリスト教、ユダヤ教の聖書の教えの中の、「殺してはいけない」とか、「盗んではいけない」とか、「父母を敬え」など神との関係、人間同士の基本的関係を十の戒律として定めているやつです。その題材と監督から判断して軽~いノリのスカッとするエンターテインメントというのではなさそうというのは想像がつくと思います。

ちょうど文章でいうと、ドキドキ、ワクワクしながらサラッと読めるエンターテインメント読み物もあれば、必ずしもそのよさがすぐに解らないかもしれなくても文学として、色々な人の解釈や解説を読んだり、他の人とのディスカッションを通してジワっと味わうというような楽しみ方をする作品もありますよね。『デカローグ』はとっつきにくい人もいるでしょうが、後者のような作品として、そんな作品にも触れてみようかという気分になったとき挑戦してみてください。

とはいえ、文学作品と同じでそれ程身構える必要もありません。聖書の教訓的メッセージがプンプンするような作品ではありません。特に聖書の予備知識も必要ありません。ほんのりとそれぞれの物語、登場人物の状況を把握していくうちに、自分だったら、、、なんて考えているうちに、最後は「う~ん」と考えさせられてフィニッシュという感じでしょうか。

鑑賞後は、この話は十戒のどれに当てはまるのかな?と考えながら解説を読んだり、一緒に見た人とああなのか、こうなのかと議論したり、何か釈然としない思いをしながら次の作品に挑戦したりして楽しみます。「白黒ハッキリ、スッキリ」という世界よりは、すぐに自分なりの結論を出してしまわなくても「灰色」なんだからそれはそれとして、頭の隅に残ってしまったものは考える題材としてそれをコネクリまわすのもいいのでは?って感じのものなんです。

舞台は80 年代の末のワルシャワ郊外の集合住宅地。同じ舞台を共有しながらも第一話から、第十話まで物語は別の人々の物語なので、順番通り見ないと物語のスジが理解出来ないわけでもありません。でも、私の知る限りでは、多くの人は順番に見ているようです。個人的にもそれをお勧めします。なぜかというと、たとえば「眼光の鋭い無言の青年」が別々な物語の随所に、謎の男として登場するという小技もあったりするので、そういう映像の小技を楽しむためにも順番に見るのがより楽しめると思いますよ。

ここで十話全部題材を挙げて、サワリの部分だけ紹介するということもできますが、あらすじだけでも長くなるし、それはしないでおきましょう。一応、今回はこの作品について聞いたことがなかった人に、ふ~ん、そんな作品もあるんだと思っていただくだけで本望です。

ポーランドで88年に放映されて、記録的視聴率だったようです。ヨーロッパの映画祭などでも絶賛されたようですが、アメリカに入ってくるのは遅かったみたいです。1つひとつは約1時間の作品でも、合計10時間以上にもなるのですから、ビジネス的にどう扱うかが色々むずかしかったようです。映画祭とかで扱うのとは違って、商業的に映画館で10時間もの公開もむずかしいし、テレビで流すには枠を確保するのにもむずかしいし、、、ということだったみたいです。米国市場では一般的には待ちに待たされて、やっと2000年頃にDVDセットが発売されるというデビューになったようです。

個人的なこの作品との出会いは、この作品を「名作!」と挙げる友人に連続して出会ったのがきっかけでした。そのうちの1人は、これまででベストの映画を3つリストするということになったとき、『デカローグ』が入ってました。それで「ふーん」と思ってたら、それからすぐ弁護士の友人がロースクールの論文で『デカローグ』を題材にして、「法とモラル」について書いたということを聞きました。是非お勧め!ってことだったので、挑戦してみることにしたのです。

というわけで、見る前の期待値は結構高かったですね。DVDセットを開封して、付属のリーフレットを見てみると、巨匠の作品の解説にはやっぱりアメリカの映画解説の分野では超大御所のロジャー・エバートのイントロが入っていました。日本でいえば、今は亡き淀川長治さんみたいな存在でしょうか。その彼が十の物語を1つひとつじっくり見て、他の人とどう感じたかを語り合うのがお勧めということだったので、そういう鑑賞方法で楽しみました。やっぱりそれで正解だったと思います。

この作品は予備知識はそのぐらいで鑑賞後に作品について、監督についてなど、色々調べたり、語り合ったりする楽しみを堪能するほうがいいと思うので、紹介はこのぐらいに留めておきます。興味を持った人は是非、ご覧ください。

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