【お先見!海外ドラマ日記】『ダークナイト』の脚本家が放つ『Person of Interest』は、"コスチュームを脱いだバットマン"の物語か?

あなたの行動は日々刻々と監視されている。街のいたる所に設置された監視カメラが、あなたのIDを特定する。誕生日・出生地・住所・職業・家族はもちろん、前科や薬物摂取歴、病気、現在の感情まで、あらゆるデータがIDとリンクしている。携帯電話の通話やメールの内容も、政府が管理するコンピュータシステムに筒抜けとなる...。

これは来るべき未来からの警告だろうか? 否。米CBSで放送中の『Person of Interest』は現代ニューヨークを舞台にすえたドラマだ。それも、監視カメラと情報漏洩リスクが当たり前となった情報社会に対する、あきらめと開き直りが基調となっている。

基本的な筋立てはとてもシンプルだ。主人公たちは、きわめて限られた形で未来を知ることができる。手がかりとなるのは、これから暴力犯罪にかかわる人物の社会保障番号(米国在住者に発行される9桁の番号)のみ。犯罪の詳細は一切不明で、該当人物が加害者なのか被害者なのかもわからない。20111229_c02.jpg

犯罪を予知できるのは、テロ計画を察知するコンピュータシステム("マシン"と呼ばれる)のおかげだ。政府の依頼を受けてマシンを開発したのは、天才プログラマーのフィンチ氏(『LOST』のマイケル・エマーソン)。市街の監視カメラや、電話・メールなどから入手した膨大なデータを解析するこのシステムは、実はテロとは無関係の暴力犯罪も検知できる。だが、政府は一般市民のトラブルには無関心で何も行動を起こそうとしない。そこでフィンチは、マシンにこっそりアクセスして、事件にかかわる人物の社会保障番号のみを手に入れられるようにしたのだ。

そして事件解決のためにパートナーとして雇われたのは、元陸軍特殊部隊/元CIA諜報員のジョン・リース(ジム・カヴィーゼル)。その過去は謎に包まれているが、屈強な肉体の持ち主で、武器の扱いにも秀でており頼りになる。二人とも危機にさらされた人々を放ってはおけず、番号を手がかりに隠密捜査を始め、事件を未然に防ごうと奔走する。扱う事件はとても多彩で、毎回飽きることがない。20111229_c04.jpg

そして、本作のクリエイターであるジョナサン・ノーランは、兄のクリストファー・ノーラン監督とともに映画『ダークナイト』『ダークナイト ライジング(2012年公開)』の脚本を執筆した人物だ。そのためか、本作の放送直後から『ダークナイト』との共通点を指摘する声があがるようになった。

『ダークナイト』では、悪漢ジョーカーの居所を突き止めるため、ゴッサムシティに住む一般市民の携帯電話をバットマンが盗聴するシーンがある。正義を実行するためなら市民のプライバシー侵害もいとわない、一線を越えてしまったダークヒーロー。一方『Person of Interest』はさらに一歩踏み込んで、市民監視や情報漏洩がすっかり当たり前になってしまった世界を描いているのだ。

そう意識すると、人助けのために住居侵入やごろつきへの暴行など法を無視することをためらわず、"スーツの男"として警察に追われるリースと、バットマンの姿が重なって見えてくる。悪漢との戦いでは常識外れの強さを発揮し、緊迫した場面ではとことん抑制した声で話すリースを、"コスチュームを脱いだバットマン"と表現するのはさすがに言い過ぎだろうか。20111229_c01.jpg

だが、スーパーヒーロー並みの活躍を見せるリースも、天才プログラマーのフィンチも、マシンの監視からは逃れられない。本編のそこかしこに監視カメラ映像が挿入され、隠密行動中の2人をしっかり映し出す。圧倒的な体制の目の届かない所に二人はかろうじて身を隠し、最小限のデータをマシンから引き出して、ささやかな人助けに邁進しているのにすぎない。

だからこそ、共感してしまう。監視社会・情報社会の漠然とした不安と理不尽さを全身で受け止めつつ、自分にできることを粛々とこなすリースとフィンチは、今の僕らに許された夢想を実現してくれているようだ。

『Person of Interest』はまだ生まれたばかりのドラマで、いくらでも物語の可能性が広がっている。今のところ一話完結のペースを保っているが、この先、大きな新展開が待ち受けているかもしれない。リースやフィンチの過去もまだまだわかっていないことが多い。そして、監視社会・情報社会に暮らす僕らの不安が、もっと掘り下げて描かれるのかもしれない――期待はいやがおうにも高まるのだ。

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